主人公に憧れて

ツキウチカナヘビ

プロローグ

今にもはち切れそうな心臓、筋繊維という筋繊維がズタボロになっている四肢を理性でおさえつけ、俺は今人工芝の上を駆けていた。ほんの一時間程前は煩く感じた歓声も、スタジアムのスポットライトの光も、今の俺にはそのどれもが届かなかった


いつもそうだ、コート上には仲間が10人、しかしいざ試合が始まれば、俺はいつも孤独だった。圧倒的な個の力は、大抵多数の餌食となる。


そう、まさに今この瞬間のようにだ


「くははははっ!!捕らえたぞ!一条!!いくらてめえでも、その疲労で俺達守備三枚は抜けねえ!あとは時間いっぱいまで粘らせてもらうぜ」


「恨むんなら、おまえが機能しなくなっただけで何も出来なくなる仲間を恨みな」


頼む、誰か、少しだけでいい、俺が動くための隙を!スペースを!



………

分かってる、チームの皆はとっくに限界を迎えていた。俺の動きに合わせてプレーしたからだ、技術不足を運動量でカバーしてくれていたのだ。そもそも彼らがいなければ俺は試合にすら出れなかった。このチームは俺が無理を言って作った急造のチームだ。むしろ感謝しなければいけない。


残り時間はあと十分。

もういいだろう、結果は分かっていたはずだ。


分かっていたはずなのに、頭では理解しているのに、心の奥にはわずかばかりの不満があった


なんで最後まで走れない、なんでそこのスペースがつぶせない、なんで、なんで


なんで俺は孤独を感じているのだろう



ああ叶うなら、一度でいいから、俺が思い描く試合を、俺のビジョンを共有できる仲間と一緒に、最後まで走りたかった



「よそ見しやがってっ!もらった!!」


敵の足がボールに伸びる刹那、俺に集中したことで、敵陣に致命的なスペースが生まれる。だがそこに仲間はいない。しかし分かっていても体は動いた。



「馬鹿がっ!!!そこには誰もいな…!?」


蹴りだしたボールが、自分と同じユニフォームのもとに吸い込まれ、ネットを揺らした。


薄暗い荒野に差し込んだ一筋の光は、どうしようもない程輝いて見えた。


それがこの俺一条学いちじょうがく間取読まとりよむとの最初の出会いだった

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