飛び込み営業による根回し

 私が思いついた事とは、村長のアルブおじさんから言ったてもらった方が良いというのはわかってる。アルブおじさんもそれには賛成だったけれど、何事もいきなりというのは軋轢を生むものだ。


 というわけで、まずは私が根回しに動くことになった。

 発起人みたいなものだし、やっぱり時間に余裕ひまがあるしね。


 そんなわけで、さっそくロート村にやって来た。

 まずはレルと会いたいんだけど……自宅については方向を何となく聞いただけで、よくわかってないんだよね。


 でも誰か知ってるだろうと、ここはあてずっぽうで進めるつもり。

 私の《聖女》というネームバリューが良しにしろ悪しきにしろあるならば、不審者扱いにはならないだろうし。


 で、その見込みは正解で、私は早々にレルの家の場所を知ることになった。

 そのついでにコーポ家についても少しばかり。


 どうやらこれも私の想像が当たっていたみたいで、コーポ家は綿花の育成に関わっているというか、元締めみたいなポジションのようだ。

 仲買人とは違うみたいだけど……


 何となく「プレイス・イン・ザ・ハート」を思い出したけど、ああいう悲惨な生産現場でないことを祈るばかりだ。

 魔法の道具で何とかうまい事やっていてもらいたい。


 で、コーポ家をいきなり訪ねてみると――


「ジョー! あなたどうしたんです!?」


 やっぱり暇であるらしいレルが狙い通りに迎えてくれた。


「今日は何にもありませんわよ? そもそも平日ですし……」

「ええ、今日は教室は関係なしに。この村の村長さんと面会できるよう取り計らってくれないかと思いまして」

「村長さんに?」


 訝し気な表情になるレル。当然の反応なので――


「詳しく説明させてください」


 と、宣言してとりあえず乗って来た荷馬車を停めるべき場所に案内してもらった。


               ~・~


 私の狙いは単純なもので、熊による獣害が予想されるなら、この地方の領主である伯爵家が対応するのではないか? というもの。

 日本人の感覚だと、熊退治それは為政者の仕事だろ、という感覚になる。


 こっちの世界でも税を取ってるんだから、当然だと思うんだけど。


 でもまぁ、そういった感覚は隠しておいて、ハラー村で将来訪れるかもしれない熊来襲の可能性をまずは説明することになった。


 私のとりあえずの説明で、事態の深刻さを察したレルがまずご両親を呼んでくれた。そしてなぜかリーン女史まで。


 いや、ここは貴族の家に仕えていたという女史の経験はありがたいのかもしれない。

 何にしても、伯爵家に救援を乞う事が目標とはなりそうだからだ。


 レルのそういった気遣いは、今回も私に閃きを与えてくれるなぁ、と思いながら私はプレゼンを開始することにした。

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