君とまた出会うために。
カイ・センパイ
黒沢新
「ねえ、あそこでもう一度遊ぼう!」
エリナは元気いっぱいに僕の手を引いた。
その女の子の名前は――ユヅキ・エリナ。四歳。
そして僕、クロサワ・アラタも同じく四歳だった。
「うん!」
僕は嬉しそうに返事をして、彼女の小さな足取りを追いかけ、公園へと走った。
その日の夕暮れ、空は黄金色に染まり、
穏やかな風が刈りたての草の香りを運んでいた。
子どもたちの笑い声が公園中に響く中、
僕の耳に一番心地よく届いたのは――エリナの笑い声だった。
「アラタ……」
エリナが小さく僕の名を呼ぶ。僕は思わず振り返った。
「なに? どうしたの、エリナ?」
まだ笑みを浮かべたまま問いかけると、
彼女は少し俯き、そっと目を閉じて微笑んだ。
その笑顔は、なぜだか胸の奥を締めつけるように切なかった。
「明日ね、わたし……家族と一緒に外国に引っ越すの。」
「えっ……? ちょ、ちょっと待って! それって……向こうの学校に行くってこと?」
僕は焦って尋ねた。
エリナは小さくうなずく。
「うん……でもね、卒業したらまたここに戻ってくる。
そのときは、またアラタに会いに行くから。」
僕は少し黙り込み、やがて小さく笑った。
胸の奥が痛かったけれど、それでも笑ってみせた。
「そうなんだ……わかった! 約束だよ、エリナ。
いつかきっと、また会おう!」
「うん! 約束だよ!」
エリナは夕日の光を受けて輝く笑顔を見せた。
その瞳の輝きは、今も僕の記憶に焼きついている。
――そして数年後。
今の僕は十六歳。
時は流れても、あの幼い日の約束は今も心の中に生き続けている。
その朝、いつものように自室で筋トレをしていた。
額に汗が滲むころ、外から足音が近づいてくる。
「お兄ちゃーん! 早く起きて! また学校遅刻しちゃうよ!」
ドアの向こうから明るい声が響く。
「はいはい……もう起きてるって。
ほんと、朝からうるさいな、アイリ。」
僕はため息をつきながら答えた。
妹の名前はクロサワ・アイリ。
いつも元気で、落ち着きのないタイプだ。
僕とは正反対の性格をしている。
支度を終えると、家族全員で朝食を囲んだ。
食卓には母さん特製の目玉焼きと、湯気の立つご飯の香りが広がる。
「アラタ、また筋トレしてたの?」
母さんが優しく微笑みながら言う。僕の腕を見て少し笑った。
「うん、まあね……」
「ほんとにもう、筋肉バカだよね。」
アイリが呆れたように言いながらご飯を口に運ぶ。
僕は軽く笑い、妹をからかうように言った。
「だって男だし、仕方ないだろ? それとも、お兄ちゃんのかっこいい体に嫉妬してるのか?」
「どこがかっこいいのよ! 水の入ったペットボトルくらいしか持ち上げられないくせに!」
そう言ってアイリは頬を膨らませた。
父さんは楽しそうに笑い、母さんは優しく首を振って微笑んでいた。
――黄金学園高校。
教室の扉を勢いよく開けながら、僕は声を張り上げた。
「おはよう、みんなー! 今日も元気かー!?」
クラスの視線が一斉に僕に向く。
笑い声とため息が入り混じる中、ひときわ親しい声が返ってきた。
「うるさいぞ、アラタ! ……って、あれ? なんか体つき変わった?」
そう言ったのはクラスメイトで親友のケンタ・モリだった。
「はは、まあね。でもお前、逆に痩せたんじゃないか?」
ケンタはニヤリと笑う。
「これでも女子にモテモテなんだぜ?」
「はいはい、夢の中だけな。」
僕は苦笑しながら肩をすくめた。
朝の教室には、いつものように穏やかな空気が流れていた。
窓から差し込む光が机の上を照らし、舞う埃がきらめく。
やがて、教室の扉が再び開き、担任が入ってきた。
「はいはい、みんな席に着いてね。」
先生はにこやかに言い、教卓の前に立つ。
「今日は新しい転校生を紹介します。 どうぞ、自己紹介して。」
教室の空気が少しざわめく中、
一人の少女が静かに教室へ足を踏み入れた。
淡い栗色の髪が揺れ、瞳は優しく光を帯びている。
その笑顔を見た瞬間――僕の時間が止まった。
「はじめまして。ユヅキ・エリナです。みんな、よろしくね!」
心臓が強く跳ねた。
その名前、その笑顔。
「えっ……!?」
僕は思わず小さく声を漏らした。
目の前に立つ少女――それは、あの日の約束の少女だった。
君とまた出会うために。 カイ・センパイ @Khairul
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