第13話 行く手を阻む刺客達

 諏訪が殺され、ロバートも未だ片腕を拘束されている。

 クレア与えられた時間は五分、残された才華とクレア、そしてロバートは窮地に立たされていた。

 制限時間五分でクレアを守りつつ、襲撃者を返り討ちにする。


 (上等ですね……!)


 ロバートは拘束している女性の膝関節を狙い、素早く蹴りを放つ。

 不意を突かれた女性は関節に攻撃を受け、体勢を崩してしまう。


「しまっ……」


 女性はロバートの拘束を緩めてしまい、その隙をロバートは見逃さない。

 サッと引き戻した腕を、今度は女性の頭に向けた。

 頭部を狙われた女性は、銃口を横目で見て冷や汗を流す。

 ロバートは冷酷に、引き金を弾いた。

 しかし、銃弾は女性の頬を掠め地面に着弾する。


「もう一人いるって事、忘れてないかァ?」


 隣にいた男が銃を押し退け、ロバートの標準をずらしていた。

 ロバートは男を睨むが、男は依然ヘラヘラと余裕の笑みを浮かべている。


「才華さん!」


 ロバートが叫び、才華を呼ぶ。

 名前を呼ばれた才華は、その声に心が震えるのを理解する。


 『才華!』


 再び名前を呼ばれる。


 (あぁ……懐かしいこの戦。昔を思い出す)



 才華の脳裏に瞬間ぎる、過去の記憶。

 生前経験した、合戦の記憶を。


「才華、右から来るぞ!」

「応ッ任せろ!」


 右も左も敵だらけ、合戦のど真ん中。

 才華含む味方陣営は取り残され、四面楚歌の状況である。


「私が道を切り拓く、皆私の後に続け!」


 刀一本で敵をなぎ倒し、無理やり退路を作っていく。

 彼女が通った後は屍の道が出来上がり、まるで案内されているかのように自軍へと続いていた。



 目の前の状況、才華は再びあの戦場を思い出す。

 教会から無断で持ち出してきた木刀を手に、才華はクレアを自身の後ろへと下げる。


「朴月才華、貴様らを打ち倒す者の名だ!」


 才華はそう名乗りを上げ、木刀を上段に構える。

「今から頭に振り下ろすぞ」と言わんばかりの行動に、男は呆れ笑う。


「なんだこの侍もどき! 面白すぎて腹が痛いぜ」


 男が笑っているのとは反対に、対峙していた女性はかなり焦っていた。

 目の前の才華からは、自身が圧倒される程の気迫を感じている。

 振り下ろしと同時に避ける、彼女にとっては簡単な事だろう。

 しかし、体が思うように動かない。

 完全に、女性は才華に対してビビっているのであった。


「死に晒せやァ!」


 雄叫びと共に、才華が木刀を振り下ろす。

 女性はその振り下ろされる木刀が、非常にゆっくりに見えた。


 (死ぬ、私が? だめでしょ! 動け、動け、動けよ私!)


 自身に発破をかけ、間一髪で女性は木刀を回避することに成功する。

 振り下ろされた木刀は勢いを弱めず、そのまま地面へと吸い込まれていった。

 地面に接触した瞬間、木刀はパキンと音を立て折れてしまう。

 地面は少し抉れ、才華の攻撃の威力を物語っている。

 この攻撃を見た男性からは笑みが消え、才華をジッと見つめていた。


 (なんつー馬鹿力、人殺すのに一切躊躇しねぇじゃん!)


 男は手に持っていた銃の弾倉を交換しようと、ポケットに手を突っ込んだ。

 ポケットから新しい弾倉を手にしリロードしようとするが、それを見逃さない才華は手に残った木刀の持ち手を男目掛けて投げる。

 木刀は真っ直ぐに男の手へと吸い込まれていき、手に当たり弾倉を弾き飛ばす。


「痛ってぇなァ……!」


 男が才華を睨む。

 しかし、才華は一切怯まない。

 男よりも強烈な気迫で、この場の全てを支配した。

 男が気圧され一本後退りすると、ピピピと電子音がなり始める。

 その音を聞いた男は、焦った顔から一変不敵な笑みを浮かべた。

 この音の正体が分からない才華とロバートは警戒し、膠着状態へとおちいる。


「……時間だ」


 男がそう言うと、先程まで座り込んでいた女性が素早く立ち上がる。

 呆気に取られている間に、男と女性は体勢を立て直す。


「名残惜しいが……お別れの時間だ」

「次はで相手してやるよォ!」


 男はふところに手を突っ込む。

 その不審な動きに気付いたロバートは、両手で素早く男に標準を合わせる。

 そんな状況でも男は臆せず、懐から手を出す。

 その手にはピンがぶら下がっており、ゆらゆらと揺れていた。


「少し遅いなァ」


 そう言葉を発した直後、男と女性の姿が消え去る。

 クレア達が驚いたのも束の間、男達が消えたその場にはある物体が浮かんでいた。

 細長い筒状の物で、所々に円形の穴が空いている。

 その物体は重力に逆らえず、地面へと近付いて行く。

 その物体を……クレアは知っていた。


「二人とも離れ――」


 クレアの声が届くよりも早く、その物体から強烈な光と音が発せられた。

 三人の視界は真っ白になり、酷く耳鳴りが襲う。

 平衡感覚を失った三人は地面に足をつけ、倒れまいと持ちこたえている。


「なん、ですかこれは」


 近代兵器を知らないロバートと才華は、一時的な失明と耳鳴りにさいなまれている。

 やがて落ち着いてきた頃には視界も治まり、世界がこの目に映り込んでくる。

 そして丁度ミガワリ符の効力で諏訪が蘇り、ボーッとしている三人と筒状の物体を見て状況を理解する。


「なるほど……とりあえず、この場から逃げるぞ!」


 諏訪はクレアを抱え、才華とロバートに着いてくるよう指示をする。

 声は聞こえずとも、身振り手振りで理解した二人は後に続く。

 時間切れによる襲撃者の撤退。

 そのような幕切れで、今回の仕事は幕を閉じた。



 クレア達が襲われている同時刻、情報屋ホストの事務所に現れる黒い影。

 そのシルエットは長い髪を揺らし、スカートが風でなびいている。


「さて、こちらも仕事を始めましょうか」


 その声は女性らしく、回転式拳銃を片手に事務所を見下ろしていた。

 いざ飛び降りようとしたその時、事務所に入っていく一人の女性を見かける。


「あの後ろ姿、東雲朱鷺しののめときかしら?……これは骨が折れそうな仕事ね」


 覚悟を決めた女性は朱鷺が事務所に入ったのを確認し、刺客はビルを飛び降りた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る