第39話 ミネット

学園生活は5月に入った。

6月の学外実習まであと1ヶ月足らず。


朝練は自主参加で強制はしていないが、全員が最低週に1度は来ている。

ほぼ毎日来ているのは留学生のミネットとトール、他にも男子4人がいる。

自称ミネット親衛隊だ。

本人よりも弱い癖に守るつもりでいるらしい。

動機はともかく、強くなろうと言う気持ちと、同級生を鼓舞する姿にはこちらも助かっている。


ミネットとトールはクラス選抜をするまでもなく、既に代表のような雰囲気が漂っている。

元々の鍛え具合やレベル差もあるが、なによりも本人達のやる気が目に見えて高く、周囲もそんな2人の実力を既に認めている。

この2人がしっかり伸びれば、それだけで魔法使いが多いB組には勝てそうな気がしている。

特にミネットはB組の天敵になるだろう。


「ミネットの家には腕の立つ細剣使いがいたのか?」

「いないよ?多いのは剣と槍かなあ?僕が振れる武器がこれしかなかったんだー」

細剣は彼女の長所が活かされていてぴったりな武器だが、たまたまらしい。


本人はこう言っているが、授業が始まった時点で既に様になっていた。

武器の訓練も受けていないと言っていたし、食事になる獲物を自主的に狩り続けただけでここまで扱えるものなのか。


ハンブルグの教官時代に騎士から教わった型を彼女にも教えてあげると、振り回しがちだった荒さも消え、技術も目に見えて向上している。

一番の変化は足運びだろう。

速度に任せた直線的な動きから、前後左右の緩急を上手く使うようになった。


ミネットはレベルの割に攻撃力が低いし、攻撃系のスキルも持っていないのだが、素早さがかなり高い。

そこに疾走スキルも併用されると、E組の生徒程度では誰一人捉えられない。

柔軟性も相まって回避も上手く、2、3人を相手にしても掠らせすらしない。


何よりも、目立つ速度にばかり目がいくが、彼女は眼が良いのだ。

回避に関しては確実にジルフォードよりも優れていて、避け方のコツを逆に教わってもいるのだが、技術だけでは到底真似できない壁を感じる。

反撃に繋げる間合いの取り方、最低限の動きによる躱し方は、回避系のスキルでも持っているかのように思えてしまう。


スキルの育成方向が、天性の才能と理想的に調和しているのではないだろうか。



ミネット 15歳 Lv17

MP 59/59 SP 0

STR 32 VIT 43 INT 28 DEX 31 AGI 60

固有スキル 獣の加護(小) 動体視力向上

保有スキル

【中級】 疾走Lv5⭐︎

【上級】 身体強化Lv5 - 5 - 1


⭐︎はmax。周囲には非公開。



ステータス自体は聞いていないが、本人から『Lv17』『疾走スキルは最大』という情報を得ていたので、SPの振り方や能力値はある程度想像できた。


「ミネットはこれからも素早さの向上を目指すのか?」

「…ジルもダメだと思う?」

武器を振る手を止めて、しおれた尻尾で寂しそうな目を向けられる。


責めているとでも思ったのか、男子達も手を止めて睨みつけてくる。

庇護欲を刺激するこの姿を見せられてはそうもなるか。


「寧ろ良いのではないか?将来は相当な使い手になるじゃろ」

「本当!?」

ぱあっと花開くような笑顔に変わり、尻尾にも元気が戻ってふりふりしている。

それを見ていた男子達はだらしのない表情に変わる。

まあ気持ちはわかる。



このままでは攻撃手段が伴わず手詰まりになると、家族からは何度も止められていたらしい。

基礎スキルにAGIの補正が付くものは少なく、素早さはかなり伸ばしにくい。

それを更に伸ばすという事は、追加の補正値を狙って身体強化を最大レベルにするつもりなのだろう。


ミネットの希望を後押しすると、パーティに付与魔法使いでもいない限りはLv30前後から家族の心配通りになってしまう。

自分自身でも、既にそれを感じ始めているレベル帯だろう。


ただし、自力で魔力を操作して攻撃力を高める事が出来るようになれば、その威力は攻撃スキルにも劣らない一撃になる。

それができるようになれば、独力でも充分戦えるはずだ。


当人は未だに魔力移動の感覚が掴めず大苦戦しているので、どこかでSP1つ分だけでも魔力操作に振ってみたらどうかとは言っておいた。


身体強化はステータス補正値が高い。

彼女がこれを乗り越えた先が楽しみだ。





「ロヴィリアはこの学園にいる間、わしの従者なんじゃよな?」

「その通りです」

10日振りに自室に現れた従者は、何の迷いも見せずに肯定を示した。


寮への引っ越しを手伝ってもらって以来、従者として付き従われた記憶は一切ない。

洗濯は自分でできるし、食事も食堂があるので頼みたい事はないが、設定的にそれで問題はないのだろうか。


「これは?」

「戦利品の一部です。スキル研究に役立つかと思いまして」

そう言って鞄から牙や皮といった魔物素材や鉱物、回復薬にできる植物なんかを並べている。


それらを手に取って見ると粗雑に採取した物は一つもなく、どれも大切に扱われていている。

高い技術もさることながら、この丁寧な仕事ぶりは彼女の性格が現れているようだ。


「助かる。わざわざすまんの」

「必要な素材が出たら仰ってください。可能であれば取って参ります」

これが従者として正しい仕事なのかは知らないが、こうして自分なんかのために動いてくれているのだ。不平不満がある筈もない。


素材はいずれもE〜Dランク冒険者が得られる物。

前回は迷宮で残る小さめの魔石を相当数持ってきてくれた。

気のせいではなく、今の自分でも扱えそうな素材を選別してくれているのだろう。

こういったさり気ない気配りや優しさを見せられると、不本意ながら好感度が上がってしまう。


「何か好きな食べ物はないか?欲しい物でも。わしには大したものは返せぬが」

「気遣って頂けるのであれば、学園代表になって勝利して下さい。

 それと、背が伸びたら体はもっと鍛えられた方がよろしいかと」

「A組ですら厳しいのに、それは流石に無理じゃろ…」

「…無理なら来年でも構いませんが、早いほど有り難いです」


他組を煽り散らかしている話は、既に子爵様や辺境伯様の耳にも届いていているはず。

それでもこうして後押ししているのだから、ロヴィリアの言う通り上を目指せという事か。

自身の目的と貴族様方の期待が一致しているなら、ハンブルク子爵様が仰った『節度を持って学園生活を楽しめばいい』の言葉通り。

あれは嘘ではなかったようだ。


「自分のレベルも上げておきたいんじゃが、土日に付き合っては貰えんか?」

「まだ早いでしょう」

ロヴィリアはそれだけ言い、軽く掃除などを済ませてまた出ていってしまった。



この『早い』とは、恐らくレベルの話だろう。

今の自分とロヴィリアでは、まともに経験値が分配されない程のレベル差があると。


普段は何をしているのか気になり、前回ロヴィリアが戻った後に尾行してみたのだが、厠・水場・学園を出て女性用の服飾店へと足を運んだ後、あっさりと見失った。

初めから尾行には気づいていて、跡をつける者の情緒を弄んだ挙句、いつでも撒けると暗に示された。

彼女がその気になれば自分など瞬殺、寝込みに暗殺する事も容易いだろう。


魔族戦でも感じたが、修練だけでは絶対に追いつけない大きな力の差がある。

レベルも更に上げ続けなければならない。


たった3ヶ月で前生の40年分の戦闘力に迫って浮ついた気持ちにもなったが、まだまだ未熟なのだと痛感する。

そもそも弱すぎたのだから、いつ迄も昔の自分と比較していては駄目なのだ。




※ステータス参考

 前回 15歳 30話(Lv20)+シャルロッテ、マーカス

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