第12話 パーティ加入試験

ジルフォードからのを受け取った5日後、ギルド長のフォルマンから全職員達へジルフォードに関する伝達がなされた。


概要

ジルフォードは本部の意向で急遽異動となった

機密を抱えるため詳細は明かせないが、功績が評価された栄転である


補足

爺フォードには同名の孫フォードがいた

爺フォードの指導を受けていて中々やる


「雑すぎるじゃろ…」


昨年末に子爵を招いての公開試合があったことは記憶に新しい。

鋼鉄の牙の教官を務めていたジルフォードの名は、若い冒険者連中ですら覚えがあった。


そんな名物教官の面白そうな噂話は、1週間とかからずハンブルグの冒険者ギルド内に広く知れ渡った。

元気出せ、今まで苦労しただろう、祖父だと思わない方が気が楽だぞ、など見知った連中に何度も励まされ、複雑な思いを繰り返した。


この1週間はソロで草原に向かい、只管Lv上げに勤しんだ。

40年分のスキルや経験値があるとはいえ、戦闘能力自体は駆け出しの新人に毛が生えた程度。

他の狩場に単独で向かえるわけもなく、かと言ってギルド長のフォルマンから折り返しの連絡があるまではパーティを探すわけにもいかない。



「まさか爺さんが碌でなしとはなあ」

「先生は立派な人よ、きっと理由があったのよ!」


出来るだけ見つからないように立ち回っていたが、いつ迄もそうはいかない。

ジルフォードの孫ともなれば、当然彼らも声をかけてくる。


「ねえねえ、教えを受けたってどこまで?Lvはあげたの?何ができるの?」

「リリア、それは簡単に聞いちゃだめだよ」

「いいよ、フランツさん。Lvは10で身体強化と魔力操作、あと魔法を中心に鍛えてもらったよ」

「10!すごいね、成人前に上げてるなんてお貴族様みたい」

「僕はフランツでいいよ、もしかして僕よりも強いのかな?」


言葉遣いは必死に修正しているが中々慣れない。

特に自分の教え子に敬語を使っていると、違和感が強すぎて非常に気持ちが悪い。


実際はまだLvは5なのだが、高めに申告しておく。

Lv42相当の数々のスキルを抱えているし、迂闊にスキルを使った時にLvとスキル数の辻褄が合わなくなれば面倒だ。

それに爺フォードに鍛えられていた事になっているから、その方が違和感もないだろう。


「そうだぜ、俺らに敬語なんていらねえよ。まー呼びたければマッシュさんでも俺はいいけどな」

「ありがと、よろしくマッシュ」

チャンスは逃すまいと、すかさず握手を交わす。

おおう、とやや戸惑いを見せるマッシュの手を握ったまま笑みを向ける。

これで4人全員に対してタメ口の合意を得た。


「そうだ、Lv10なら試しに私たちと組んでみない?パーティならEランクのクエストも受けられるでしょ?」

おっと、そう来たか。

悪くない提案だが、いつボロが出るかもわからない、どうするか。


「いいね、同じ先生の弟子なんだし」

「レベルが高くても本当に戦えるか確かめないと危ないだろ?体もこんなに小せえんだぞ」

「小さいんだから尚更よ、先生が残したこの子は私が守るわ」

「いや、まだこの街に留まれるかも決まってなくて…」

後ろから自分より大きくなってしまったミーラスカに抱きしめられる。

こらこらやめなさい。


マッシュが驚いた顔で見て離れろと喚き立てる。

男の嫉妬は見苦しいぞ。


「っ、模擬戦だ!もし実力不足だったら訓練制度を受けてもらう、死なれちゃ堪んないからな」

「久しぶりに4対1か」

「久しぶり?」

「あ、いや。皆を同時に相手すればいいのかな?」

「馬鹿、そんな虐めみたいな真似するかよ。30に俺に1発でも当てれたら合格だ」

マッシュはそう言ってニヤリと笑みを向ける。

ほう、言うようになったではないか。

と内心でジルフォードは青筋を立てる。


「胸を借りるよ、マッシュ」



訓練場。

最後に来てからそれほど空いていないが妙に懐かしく感じる。

なんだなんだ、孫フォードの模擬戦だってよ、などと暇人が何人かついてくる。


出来れば堂々とEランクの魔物も相手にしたい。

実際のLv差は倍以上、マッシュのステータスは今の自分よりはかなり高い、となれば全力であたるべきだ。

訓練用の木剣と盾を身につけながら戦い方に考えを巡らせる。

以前とは違い、ステータスも体躯もマッシュが上回っているので甜めて戦える相手ではない。



「はじめ!」

フランツの声掛けで2人は同時に地を蹴る。

が、マッシュがまさかの二歩目で躓いて、よろけた体勢を立て直そうとしたところへジルフォードが木剣を向ける。


「1本、じゃの?」

皆がぽかんとその様子を見る。

4人が何度も爺フォードにやられた手だ。

孫フォードの見た目の幼さと小さな体躯に対する油断もあったのだろう。

魔力感知に無警戒だったマッシュは足元に現れる隆起に気づかなかった。


「ま、待て待て、剣の腕前確認って言っただろ!?」

「そうだったかの?では次は剣だけで」


仕切り直して再び距離をとる。


「…今の、感じた?」

「うん。発動が凄く早かった、まるで先生みたい」

「僕は身体強化に目がいって気づかなかった、多分マッシュと同じ目に遭ってた」


「…悪い、言い訳だ。もうお前が年下だとは考えないから魔法も使ってくれ、次が俺の全力だ」

そう言ってマッシュはあらためて構えた。

集中力が高まっている時の目だ、ジルフォードも気持ちを切り替え、頷いてマッシュに応える。


「じゃあ2本目。…はじめ!」

駆け出して剣を交差させる。

押し負けるが、弾き飛ばされはしない。

身体強化のLvを伸ばしたおかげで、腕力の差は纏った魔力でおぎなえている。

しかし、動きの速度だけでなく、剣速も僅かに負けている。


劣る部分は手数でと、水球を織り交ぜて攻める。

マッシュはそれを無理に叩き落とさず、回避と盾でのいなしで丁寧に捌いて対応する。


小手先ではMPの無駄か、ならばこれならどうじゃ。


ジルフォードは身体強化の魔力操作に集中する。

下半身から上半身、木剣、盾へと魔力移行を駆使すると、徐々に互角に近い打ち合いへと近づく。

ジルフォードの魔力移行速度に、まだマッシュはついてこれない。

だがステータスで上回っている分、それでも問題はない。


そのはずだったが、差が縮まり始めたことへの焦りか、あるいは対抗心か。

マッシュも同様に自身の魔力を剣へ移行させようと意識を向けた。

ジルフォードはその魔力の変移を感じ取り、死角の足元で魔力を練り上げて再び水球を放つ。


「…なっ!」

警戒していた意識が薄れて水球を練っている事に気づかなかったマッシュは、回避できずに脇腹に被弾した。


「1本、じゃろ?」

マッシュの木剣を受け、盾ごと押しつぶされて片膝をつきながら、ジルフォードはにやりと宣言した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る