第5話 ジルフォード54歳 回顧(4)

マッシュ達4人は体力面の合格をもらった。

しかし道具を何一つ揃えていない事が発覚すると待ったがかかった。


4人で貯めた少ない金を出し合って、最低品質の煙玉、匂玉、回復薬、麻痺針を1つ購入した。

そうしてようやくFランクの魔物生息域に限って狩りの許可が降りた。


彼らが行けそうなエリアは2箇所あるが、午前は清掃業務があるため、実質街から最も近い平原限定だ。


半月ほどで全員のLvが2つ上がった。



翌日の訓練場


「身体強化Lv1と魔力操作Lv1を全員取るんだよな?」

「お勧めと言ってもわしの主観、無くても鍛錬はできるぞ。

 SPの1つ2つと軽く考えず、よく考えてから決めれば良い」

「もう考えて決めました」

ミーラスカがそう言って真っ先に身体強化Lvのスキルを取得すると、3人も頷いてステータスを開いて取得していった。




「スキルの力は大別すると4つに分かれる」

ジルフォードは地面に木剣で絵を描きながら説明を始めた。


1.体の補助

2.魔力の蛇口

3.魔力の補助

4.属性の変化(特殊)


「体の内側、魔力量、体の外側。と考えて良い」

「まあ、なんとなく」

「私は理解したわ」

4人とも頷いているのを見てジルフォードは続ける。


「『補助』というのは頭で描いている理想型に近づけるということじゃ。

 どのスキルがどれを担っているか理解するのが1歩目になる」

「俺の初級剣術の効果は体の保助だよな?」

「そうじゃ」

ジルフォードは頷きながら地面に4つの印をつける。


「4人とも木剣でこの地面の点を10回叩いてみい。点からずれないように正確に狙うんじゃ」


それぞれ素振りの要領で静止したまま地面を叩くと、フランツが一番ずれが小さい。

つまり剣術スキルを持たぬフランツがマッシュより正確に打ち込めていると説明する。


「これはスキルではなく本人の努力や資質の成果じゃ。大抵のスキルは努力で再現できるし上回れる」

「じゃあ火魔法を覚えなくても火球が使えるのか?」

「使えんな」

「再現できねえじゃん」

「属性変化も備わっているからじゃ。わしが出来んだけで出来る者もいるかもしれんがの」

説明しながらマッシュの反論に答え、ミーラスカを見ながら言い添える。


次に、とフランツとリリアに目を向ける。

「例えば、今のリリアがフランツより正確に打ち込むためには、初級剣術Lv5程度まで取得するか、時間をかけて修練するかの2択じゃ」

「わかったわ!つまり努力で追い抜ける、剣術スキルはSPの無駄ってことね?」

「違うのう」

リリアが勢いよく手を上げて答えるが、ジルフォードは首を振る。


「フランツが同様にLv5にすれば再び差が開く、それにLvを上げなければ解放されない派生スキルもある」

「じゃあ結局スキルLvはあげた方が良いじゃん」

マッシュが再び反論する。

期待通りの反論は説明しやすいのでありがたいと微笑みながら、ジルフォードは続ける。


「そう、修練もスキルLvも両方意味がある。

 スキルは初めこそ上げ易いが、どんどん上げにくくなる。SPの1つ2つと侮れば後で必ず不足して後悔する。

 スキルを得なくても出来る事を増やし、スキルLvに頼りきらない努力も必要じゃ」

4人はうーんと首を捻る。


実際に見せた方が早いと言い、ジルフォードも木剣を手にする。

「剣術スキルは、初級が1.肉体の補助、中級が2.魔力の蛇口、上級が3.魔力の補助に当たる。そして、わしが持っているのは初級剣術Lv1のみ。

 ここまでは良いか?」


4人がうんうんと頷く。


まずは1、と言いながら地面の点に剣を10回振るうと、それがほぼ一点に打ち込まれる。

「「「「お〜」」」」

「とまあ、修練を続ければLv10に近い正確性は出せる。

 スキルでは威力や速度、無理な体勢からの補正など諸々ある故、実際にはわしはLv7にも達しておらん。

 マッシュやフランツがLv7か8まで取れば剣術では敵わんじゃろ」


毎日散々打ちのめされている2人の目が輝く。


次に2、と言いながら訓練用の人形に剣を振るうと、大きな打撃音とともに肩口が少し破壊される。

「「「「おぉー!!!」」」」

見た目がわかりやすいので反応がいい。


「身体強化を発動して魔力を放出、魔力操作で木剣へ魔力を移行した。

 中級剣術を習得することで取得可能になる強打スキルの模倣じゃ。スキルが無くても、修練でスキルの原理をなぞることはできる」


マッシュが必死に剣に魔力を込めようとしているが、聞いた程度でできれば苦労はしない。


次に3、と言いながら少し離れて訓練用の人形に剣を振るうと、人形が若干揺れた。

「「「「?」」」」

「魔力を飛ばしたのじゃ。

 上級剣術は、部分的に魔力密度や形状を変化させたり、その速度を助ける。才能もなく、感覚すら体験できんわしにはこれが限界、恐らく上級剣術Lv1程度じゃろうな。

 知らんがの」

ジルフォードは少し不貞腐れて言い捨てる。

良い歳こいたジジイの残念な様子に、4人からは先ほどまでの尊敬の念が少し薄れている。


「えっと、2つのスキルをお勧めしたのは、武器系の中・上級スキルがなくても感覚が掴めて修練がしやすい。ってこと?」

「正解じゃフランツ。50点じゃな」


…なら武器系に限らない?…派生スキルも?

ぶつぶつとミーラスカが思考を巡らしている。

先生は、『どのスキルがどれを担っているか理解するのが1歩目』と言った。


「…まさか。他のスキルも身体強化と魔力操作で鍛えられるんですか?」

「そうじゃ。80点じゃな」

ジルフォードが満足げに頷いて答える。


「っ、はいはいはーい!わかったわ!」

「ほう、リリア」

「さっきLvを上げたら差がまた開くって。なら同じLv10でも頑張った方が強くなれるわ」

「3人合わせて100点じゃ」

ふっふーんと、リリアは唯一回答できなかったマッシュにドヤ顔を決める。


「えー、でもそれって当たり前だろ?」

「その当たり前が中々できんのじゃ。

 なまじスキルで補えるから修練よりもLv上げが重視される。若いうちほどその傾向は強い。そうして本人が高Lvになったり、スキルLv10に達すると伸び代を失い壁にぶつかる」

言い終えてマッシュとフランツに目をむける。


「さっき2人は、初級剣術Lv7以上にしてわしに勝とうと思ったじゃろ?

 40年のわしの努力を、スキルの力で簡単に追い抜こうと」

「いや…」

「別にそんなことは…」

図星を突かれた2人はぎくりとして目を逸す。


「早く強くなりたい、それは結構。

 しかし修練による成長は若いうちほど伸びが良い。歳を食ってからが手遅れとは言わんが、到達地点は自ずと低くなる」

「あれ?40年の努力って、先生って何歳なの?」

「ちゃんと聞いとったか?歳は54じゃ」

「えー!」

「嘘!?」

「老け過だろ!」

「一応わしでも傷つくぞ」

「「「ご、ごめんなさい」」」


ジルフォードは45歳を迎えた時に一気に髪も髭も白に染まり老け込んだ。

見た目相応の言葉遣いをしているうちに、今では誰がどう見ても爺さんだった。



「先生、もしかして私は風だけじゃなく、全ての属性魔法をLv1でも取得した方が良いですか?」

「ほう、どうしてそう思った?」

ミーラスカは講義の最初から1つ情報を得るたびに考え込んでいる。


「私は風魔法を始めに取りました。でも習得していない魔法は使えません。

 魔力操作を取った後でもダメでした。それは属性変化のせいなんですよね?」

「その通りじゃが、使えないと断言はできん」


「それがどうしたんだ?魔法属性は1つか2つにしないと中途半端になるって言ってたろ?」

マッシュがミーラスカを牽制する。

ミーラスカは風属性をメイン、水属性をサブの使い手を目指したいという事は皆が知っている。


「そうなんだけど、えっと、、、さっき取った身体強化は風魔法と違って、魔力そのものを出してるの。でも風魔法は違う魔力で…。

 えっと、説明しにくいけど、緑というか、別に緑色ではないんだけど…」

ジルフォードは頷いて聞いている。


「その感覚がわかれば話は早い。確かに属性魔法はそれぞれ質が異なる、わしも各魔法の質はスキルを取得してようやく理解した」

そう言ってマジックボックスを唱えて空間を開く。


「これもまた属性が異なる。わからぬうちは修練しようも無く、再現も模倣もできん。少なくともわしはそうじゃった」

「なら私は、魔法系は先生みたいに取れる属性は全部Lv1で取っておきたいです」

「修練が分散して疎かになれば、中途半端な使い手になるのは本当じゃ。苦労はするぞ?」


ミーラスカは力強い瞳でうなづく。


「なら魔力操作に慣れたら組み合わせの応用も幾つか教えてやろう。

 外でお湯浴びや洗濯が出来るようになると便利じゃ。何せ戦闘後の野営は死ぬほど臭いからの」


補足を聞いてやったーと両手を上げて大喜びするミーラスカ。


「えーずるいずるい!私も覚えたい!」

「バカ待てって!全員魔法使いになってどうするんだよ!」

「でも僕も覚えたくなってきた…」


「戦闘系の属性もあるぞ?」

「「「!!!」」」

そう言うと一気に騒がしくなってしまった。


「言うて応用はまだまだ先じゃ、基本から伸ばして属性は後で考えれば良い。これから1ヶ月は身体強化と魔力操作じゃ。

 ミーラスカも、流石に全部は欠点も大きいからの。修練しながらまた悩んでも遅くはない」

「わかりました」

そう言って自分の魔力をしっかり感じることから始めさせる。


「そういえば、パーティ名は決めたのか?」

「【鋼鉄の牙】だぜ」

「ほう、由来はあるのか?」

「牙狼の群れを圧倒するパーティだ!」

「そ、そうか。頑張りなさい」


群れればそれなりの脅威だが、最低ランクの魔物の打倒が目標でいいのだろうか。

低すぎる志に、ジルフォードは狼で脅しすぎたかと申し訳なさを感じながら、卒業祝いに菓子でも買うかと考えを巡らせた。

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