カラダ
★祭り★
カラダ
稲成 歩夢 イナリ アユム (男)歩夢
南葉 緑冴 ナンバ ツカサ (男)緑冴
桧並 千秋 ヒナミ チアキ (女)千秋
有島 一期 アリシマ イチゴ (女)一期
下鴨 兼緒 シモガモ ケンオ (男)学研
高良 花樹 タカラ ハナキ (男)高良
矢崎 叶絵 ヤザキ カナエ (女)矢崎
植田 利佳 ウエダ リカ (女)植田
笹木 日和 ササキ ヒヨリ (女)笹木
その他部員
〈一〉 眩む。
六月の涼しい朝
朝の声がする(人々の声とか、鳥の囀り、工事の音や信号の点滅音)小さく音楽も聞こえる
舞台装置(乱雑に机や椅子も数客置かれている)
キャストは全員台本を持っている(あるキャストは台本を読みながら、あるキャストは雑に台本を振り
回して、あるキャストは人と喋りながら、あるキャストは泣きながら、歩き続けている)
大きな一拍で全ての音響が止まり、キャストの動きも止まる
歩夢 人生は演劇だと誰かが言いました。
コダマのように連なる台詞
緑冴 「我々は人生という大きな芝居の熱心な共演者だ。」
千秋 「この世は一つの劇場にすぎぬ。人間のなすところは一場の演劇なり。」
高良 「人生・・・人間喜劇。」
一期 「全世界は一つの舞台であり、すべての男と女はその役者にすぎない。」
矢崎 「人生はどうせ一幕のお芝居なんだから。」
学研 「人生は芝居の如し。」
笹木 「人生は舞台あなたは名優。」
植田 「人生は演劇のように生きるべきだ。」
歩夢 僕等はいつでも線引きを求めている。
緑冴 「友人と恋人の線引き」。
千秋 「リアルと妄想の線引き」。
高良 「教師と生徒の線引き」。
一期 「凡人と天才の線引き」。
矢崎 「子供と大人の線引き」。
学研 「生きる事と死ぬ事の線引き」。
笹木 「本音と建前の線引き」。
植田 「他人と自己の線引き」。
全員 僕等はいつでも線引きを求めている。
二年 テストの解を求めるように、求めざる負えない。求めなければいならない。
一年 そうでなければ、僕等は直ぐに社会から切り離されてしまうから。
三年 お前は駄目だと言われるのが嫌だから、それが嫌だから、
全員 僕等はいつでも線引きを求めている。
歩夢 それなら!・・・それなら。演劇と人生の境界線は何処にある?
(一呼吸)人生は演劇だと、誰かが僕に言いました。
ブザー音が鳴り、キャストは再び動き始める。キャスト同士は舞台の話をしている
一期 音響さーーん。準備良いですか?
音響 すみません少し待ってください!
一期 了解でーす。
植田 先輩、椅子と机、あの位置で良いですか?
千秋 オッケーだよ。
矢崎 ちょっと!舞台の上走らないで。
笹木 すみません。これドコに持って行けば良いですか?
千秋 あーそれは舞台袖にインパクトと一緒に並べといて。
笹木 コッチですかー?
千秋 違う上手!
照明 舞台聞こえますか?
千秋 マイクどこ?
植田 ココです!
一期 ちょうだい。
植田 はい。(一期にマイクを渡す)
一期 はーい聞こえますよー。
照明 ホリの色これで良いですかー?
一期 舞監オッケー?
千秋 オッケー。
一期 オッケーだそうでーす。
照明 ありがとうございます。
一期 音響オッケー?
音響 多分、大丈夫です。
千秋 多分って何よ。
音響 大丈夫です!
一期 照明聞こえますかー?
照明 聞こえます。
一期 本番いきます。
照明 了解です。
一期 じゃ、キャストは定位置についてー。
全員 はーい。
数人のキャストは舞台下手や上手にはけていく
一期 それじゃ、準備良いですか?
全員 はい!
千秋 いきます!よーーい。(一拍をしようと構えるがしない)
ブザー音が鳴る
照明 只今より、港 哉作、「降りれない」を上演致します。
ブザー音が鳴る
〈二〉 降りれない
着信音とは思えない音楽が鳴っている
東京の小さな劇団、地下、半防音室の稽古場
舞台には二人、歩夢は机に突っ伏して寝て、一期はソファで頭から布団を被り寝ている
緑冴はさっき来たばかりなのか荷物を下ろし高校の課題を見ている
緑冴はしばらく着信音を無視していたがあまりにも歩夢が起きないので渋々と起こす
緑冴 歩夢さん。歩夢さん。おい歩夢。
歩夢 ん、あ‼︎寝てた⁈もしかして俺今寝てた⁈
緑冴 スマホ。何ですか?そのアラーム音の曲。
歩夢 んあ!お、あ電話。
緑冴 え、着メロ何ですかそれ。
歩夢 (電話に出る)あ、もしもし?・・・バカか。あいやまだ全然いない。あ待って、チオビタ。ついでに持ってきてよ。冷蔵庫の一番上にあるからさ。んじゃ、(電話を切る)
緑冴 誰?
歩夢 ん、あぁ、高良。今起きたみたい。
緑冴 ルームシェアって、やっぱ大変ですか?
歩夢 そんなことないよ。てか慣れた。もう四年だからね。
緑冴 長いですね。
歩夢 高校卒業してからだから。緑冴は?
緑冴 はい?
歩夢 高校入ってから?こっち来たの。
緑冴 劇団入ったのと同時だったんで。
歩夢 あそっか。お前も二年になるのか。
緑冴 歩夢さんは、
歩夢 八年。高校の時に高良と入団して。八年。
緑冴 長いですね。
歩夢 まぁ東京が地元だし。
緑冴 良いなぁ。
歩夢 緑冴は静岡か。
緑冴 はい。
歩夢 方言とかあるの?静岡弁。
緑冴 あー、〜だら。とか。
歩夢 だら?何それ可愛い。
緑冴 標準語で〜でしょ?みたいなニュアンス。
歩夢 良いな良いな。俺、方言憧れなんだよね。
緑冴 方言なら矢崎さんすごいですよね。
歩夢 あれね、こしょばい。
緑冴 俺もたまに使っちゃう。くすぐったいじゃなくて、こしょばい。
歩夢 分かる俺も。
緑冴 矢崎さんどこ出身でしたっけ。
歩夢 岡山。名古屋生まれ、岡山育ち。高校で演劇やって、東京出てきて、十九の時にこの劇団を植田さんと立ち上げたって、スゲェよなぁ。
緑冴 植田さんと矢崎さんは大学の学友でしたよね。
歩夢 そ。演劇サークルの仲間。ウチ、そこのサークル出身の人多いじゃん。学研さんとか、高良とか、
緑冴 あー確かに。
歩夢 って台本書かなきゃ。
緑冴 今度の公演用?
歩夢 そう。今度の公演用。
緑冴 賞取ったばっかなのによくやりますね。
歩夢 あれは緑冴のお陰。
緑冴 何言ってるんですか、最優秀賞作家さん。
歩夢 いやマジで、あれは緑冴がいなきゃ書けなかった。
緑冴 ・・・こしょばい。
歩夢 あはは。矢崎さんだ。
緑冴 ずっと書いてる?
歩夢 書くのが仕事だから。
緑冴 次の台本、どんな感じですか?
歩夢 まだ、何とも。
緑冴 寝てない?
歩夢 え?
緑冴 クマ、できてる。
歩夢 ん。あいや寝てるよ。
緑冴 どれくらい?
歩夢 えーーっと、四時間くらい?
緑冴 バカ。身体壊しますよ。
歩夢 いや分かってるんだけどさ。・・・分かってるんだけど。寝てても、演劇の夢を見るんだ。
緑冴 歩夢さん。
歩夢 いやーどんだけ演劇好きなんだよって感じ。我ながら。
緑冴 ・・・役者は、役者はもうやらないんですか?
歩夢 役者?あーーそれはもう良い。
緑冴 何で、歩夢さん演技だって上手いじゃないですか。
歩夢 俺には才能ないから。
緑冴 いやいやありますよ。
歩夢 ないよ。自分が一番知ってる。
緑冴 そんな、
歩夢 でも緑冴にはある。お前は誰よりも上手い。
緑冴 えっと、
歩夢 だから俺は決めたんだ。俺はコイツのために台本を書こうって。それが俺のためだ。って。
緑冴 ・・・。
歩夢 俺は、俺の伝えたいことを台本に書いて、お前の身体を使って、お前の演技を通して、世の中に発信する。俺の伝えたいことは、お前が伝えてくれる。
緑冴 二人で一人、みたいな。
歩夢 仮面ライダーダブルみたいな?
緑冴 「君は知らないだろ?・・・たこ焼きと言う食べ物を!」(仮面ライダーダブル第一話より)
緑冴 「サイクロン!」
歩夢 「ジョーカー!」
二人 「変身!」「さあ、お前の罪を数えろ!」
歩夢 懐かしい。俺ベルト買ってもらったよ。
緑冴 いいなぁ。今でも特撮は毎週日曜にテレビ前待機。
歩夢 俺最近見てないや。あ、でも時間変わったのは知ってる。
緑冴 だいぶ前ですよそれ、今は九時から。
歩夢 ずいぶんゆっくりになったよな。俺らの頃はさ、七時半にスーパー戦隊、八時から仮面ライダー。
緑冴 で、その後プリキュア。
歩夢 そうだそうだ。妹と一緒に観てたわ。
緑冴 今じゃ八時半プリキュア。九時から仮面ライダー。で、その後スーパー戦隊。
歩夢 んじゃ日曜早起きしなくても良いわけだ。
緑冴 そうそう。あいやそんなことより台本台本!
歩夢 そうだよそうだよ。何で特撮の話になったんだよ。
緑冴 歩夢さんがダブルとか言うから。
歩夢 ごめんごめん。
歩夢、しばらく原稿用紙を見つめている
歩夢 はぁ。(溜息)
緑冴 やっぱ疲れてる。
歩夢 アイデア、出なくてさ。
緑冴 けっこう書いてるじゃないですか。何が思いつかないだ。
歩夢 いや、これ全部ボツになった切り取り。
緑冴 え、これ全部が?
歩夢 まぁね。良い線までいったのもあるんだけど、結局・・・。
緑冴 やっぱりプレッシャー?
歩夢 え?
緑冴 いやよくあるじゃん。良い作品書いた人ほど、その後の期待が怖くて、みたいな。
歩夢 ・・・あーー。そうなのかなぁ。そうかもな、
緑冴 違うの?
歩夢 ・・・。
緑冴 (原稿用紙を一枚取り上げ)これとか、どうなんですか?
歩夢 だからそれはボツなんだって。
緑冴 良い。
歩夢 え?
緑冴 これ、良いですよ。
歩夢 本当?
緑冴 うん。ちょっとこれやってみません?
歩夢 マジか。えじゃあさ、じゃあこうしよ。二人は喧嘩別れをした高校の親友。んで二十二歳になった頃、片方にガンが見つかる。ト書き通りね。これ(台本の原稿用紙を渡し)これの通り。
緑冴 あ、はい。
歩夢 お前がガンの青年な。男二人はまるで、
緑冴 まだ名前ないんだ。
歩夢 うんそう。俺らの名前でいいや。緑冴と歩夢は、さながら西部劇のカウボーイの様に互いを見つめ
合っている。緊張の瞬間、歩夢が固い口を開いた。なぁ、緑冴。
緑冴 何、歩夢。
歩夢 お前、本当にガンなのか?
緑冴 笑っちゃうよな。俺がガンなんて。きっと天罰だ。
歩夢 ・・・。
緑冴 なぁ、歩夢。俺に死んでくれって言え。
歩夢 は?
緑冴 死んでくれって、言え。それを言いに来たんだろ?
歩夢 俺は別に、
緑冴 皆言うんだ。頑張れ、諦めるな、お前が諦めたらダメだぞ。生きろ生きろ生きろ生きろ!・・・
限界だ。治療は思ってたより苦しい。痛い。辛い。惨め。惨めで、一人虚しい。毎日抗がん剤の
副作用で、寝れない。食べ物をうまく飲み込めない。・・・髪も抜けてきた。起きていても、
寝ていても気持ち悪い。生きてる心地がしないんだよ。
歩夢 緑冴。俺はお前に、
緑冴 言ってくれ!頼む、お前だけなんだ。お前が死ねと言ったら、俺は死ねる。
歩夢 緑冴、
緑冴 俺を嫌いなお前なら、俺の好きなお前だから、お前は、俺の親友だから、
歩夢 親友。
緑冴 死ねって、言って。
歩夢 し、・・・・・・。無理だ。
緑冴 何でだよ!簡単だろ⁈
歩夢 無理だよ!だって、お前の身体は、こんなにも強く脈打ってる。お前の身体は、まだ強く生きてる。
緑冴 身体が、俺の身体が、
歩夢 生きたい。生きたいって、
緑冴 生きたい。俺、生きたい。(泣き出す)
歩夢 (台本を回収する)
緑冴 すみません、役、あんまつかめなくて。
歩夢 そんなことない。・・・やっぱボツだな。
緑冴 えぇ、
歩夢 ボツだボツ。
緑冴 楽しいのに。
歩夢 やってる方はな。客は面白くない。
緑冴 俺、稽古着に着替えてきます。
歩夢 はいよ。
緑冴、着替えに部屋を出る
一期 上手いね。緑冴くん。
歩夢 わっ‼︎なんだ、一期か。ビックリした。
一期 今起きた。
歩夢 いつからいたの?
一期 昨日の昼から。
歩夢 仕事は?
一期 バックれちゃった。
歩夢 いいの?そんなことして。
一期 台本は?
歩夢 あ、
一期 緑冴くん。上手くなったよね。
歩夢 ・・・そうだな。
一期 演技、歩夢くんに似てる。
歩夢 そう?
一期 すごく似てる。
歩夢 あれは別格だろ。
一期 そうだね。
歩夢 ・・・。
一期 言わない方が良い?
歩夢 言えよ。気持ち悪い。
一期 緑冴くんは、歩夢くんを超えたね。
歩夢 ・・・。
一期 言われたら言われたで辛いんだ。
歩夢 一期、性格悪いって言われるでしょ。
一期 緑冴くんがこの劇団入った理由知ってる?
歩夢 さぁ。
一期 知ってる癖に。
歩夢 だから?
一期 歩夢くんの演技見て入ったんだってね。
歩夢 嬉しいね。
一期 悔しい?
歩夢 悔しくないよ。
一期 へぇー。
歩夢 俺は、俺の演技の全てを緑冴にかけてるんだ。
一期 嘘つき。
歩夢 は?
一期 役者の癖に、嘘つくの下手だね。
歩夢 役者じゃない。作家だ。
一期 私には分かる。
歩夢 おめでとう。君の次の役は神様にしよう。
一期 それはピッタリ。私は神様だから。
歩夢 ・・・。
一期 私のこと、嫌い?
歩夢 分かってるんでしょ。
一期 だから聞いた。
歩夢 性格悪。
学研と植田が入ってくる
学研 おはよーございます。
植田 おっはよー。
歩夢 おはようございます。
学研 お、珍しい組み合わせだね。
歩夢 たまたまです。
学研 若いね。
歩夢 学研さんもまだ若いでしょ。
学研 いやいや、俺ももうだよ。仕事後の稽古は少し身体に応える歳になった。
歩夢 仕事、お疲れ様です。
植田 やだやだ、学研がそんな歳とか言い始めたらアタシはおばあちゃんじゃんか。
学研 植田先輩はいつまでもお若いですよ。見た目も十代そのもの。
植田 やだー。照れちゃう。
着替えを終えた緑冴が入ってくる
緑冴 あ、おはようございます。
植田 他の連中は?
学研 渡邊さんと永田さんが休みでしょ。歩夢、高良どーした?
歩夢 もう直ぐなはずです。
高良が駆け込んで来る
高良 おっはよーございまーす!セーフ?セーフ?
歩夢 おせーよ。
高良 お前がしっかり起こせば良かったんだろ。はいチオビタ。
歩夢 ありがとう。
高良 いや、昨日たまってた借金返してて、寝坊しちゃって。
学研 え、借金?お前俺以外にも借金してんの?
高良 必ず!必ず返します!俺今バイト始めるんで!
学研 バイトやんの?高良が?
高良 最近ネットでいいの見つけたんス。
学研 それ闇バイトじゃないよね?
高良 え、マジスか?
学研 え、ちょっと見せてみろよ。
植田 全く、高良は時間にだらしないなぁ。
高良 植田さんには言われたくないです。タバコの匂い、消えてないっスよ。
学研 え一昨日禁煙の誓い立てましたよね?
植田 いや一本だけ一本だけ。高良は鼻がいいね。
高良 お酒の匂いもします。
学研 一週間禁酒じゃなかったんですか⁈
植田 缶ビール一本だけ!流石に怖いぞ高良。
高良 名探偵高良。爆誕。
一期 これで全員ですか?
植田 あとは、矢崎だけ?
学研 あ本当だ。
植田 ったく。座長が何やってんだよ。仕方ない、先に発声やるか。
笹木と矢崎が駆け込んで来る
笹木 いいですか?明日ですから。いいですか?
矢崎 分かったから。分かってます。おはよーございます。
全員 ・・・おはようございます。
笹木 矢崎さん。あなたの人生はこのドラマにかかってるんですよ?
矢崎 分かりました。お疲れ様です!
笹木 お疲れ様じゃありません!今が踏ん張り所ですよ?分かってます?
矢崎 分かってます分かってます。本当に笹木さんには感謝してます。
笹木 当たり前です。もっと感謝してください。
矢崎 はい。分かりました。ありがとうございます。
笹木 来週から撮影ですからね。
矢崎 了解です。
笹木 では失礼します。
笹木、出て行く
矢崎 はぁ。(溜息)・・・もしかして、私が最後?
植田 おっそーい。
矢崎 ごめんごめん。
学研 さっきの人、マネージャーですか?
矢崎 そう。マネージャーの笹木さん。
学研 流石、ドラマ出演の決まった売れっ子女優は違いますねぇー。
矢崎 嫌味か?それは嫌味か学研。
学研 矢崎先輩に嫌味言う勇気なんてありませんよ!
高良 矢崎さんって偉いっスよね。ドラマもこなして、自分の劇団もこなす。俺なら無理だわ。
学研 お前はバイト探し直せ。
矢崎 じゃ、全員揃ったし、稽古着着替えて稽古始めますか。
全員 はい!
歩夢と緑冴だけが稽古場に残される
歩夢、また机に向かい台本を書き始める
それを見ている緑冴
誰かが稽古場のドアを叩いた
緑冴 誰だろ。
歩夢 今日はこれで全員だったよね?
緑冴 俺行きます。
歩夢 ありがと。
緑冴がドアを開くとそこには高校生くらいの少女がいる
千秋 ここ、劇団Life Hackで合ってますか?
緑冴 え、桧並、千秋。
千秋 私のこと知ってます?
緑冴 そりゃ知ってますよ!女優の。どーしてこんな、
千秋 歩夢くん。居ますか?
緑冴 歩夢さん?
歩夢 どーした緑冴。
千秋 あ!いたいた!
緑冴 ちょっと、
千秋 歩夢くんだ!
歩夢 千秋。
千秋 久しぶり。
歩夢 久しぶりだね。元気?
千秋 うん元気。
歩夢 どうしたの今日は?
緑冴 ちょっとちょっと、歩夢さん知り合いなんですか?
歩夢 あー昔、小さな舞台でね。
千秋 あの時は歩夢くん。まだ役者だった。
歩夢 千秋は小さな女の子だった。
千秋 私、歩夢くんの台本のファンなの。
歩夢 あ、コイツ緑冴。ウチの団員。高二ね。
千秋 緑冴さん。
歩夢 (緑冴に向かい千秋を指し)こっちは、
緑冴 いや知ってますよ。女優千秋!
千秋 ちょっと恥ずかしい。
緑冴 えすごいテレビの人だ。
歩夢 テレビの人だってよ。
千秋 言わなくていい。
緑冴 えすごい。なんで?
歩夢 そうだよ、なんでこんな小さな劇団にわざわざ。
千秋 え?
歩夢 え?
千秋 え?
歩夢 え?
緑冴 え?
千秋 忘れたんだ。
歩夢 何を?
千秋 私、この劇団に入るの。
緑冴 この劇団に⁈
歩夢 親の許可取れたの?
千秋 もう大人なんだから、自分の道は自分で決めろって。
歩夢 そっか。
千秋 (歩夢の手を取り)私、歩夢くんの台本がやりたいの。
薄明かりを残し、徐々に暗転していく
しばらくして歩夢のスマホがまた、着信音を鳴らす
歩夢 もしもし、緑冴?・・・今着いたところ。うん。・・・台本?もう書き終わりそう。うん。分かった。伝えておく。んじゃ。
稽古場には千秋と植田が楽しそうに話している
歩夢が電話を切って入ってくる
歩夢 おはようございます。
植田 おはよーございます。
千秋 おはようございます。
植田 歩夢〜千秋って面白い子だね。
千秋 そんなぁ〜。
歩夢 早いですね。打ち解けるの。(千秋に)もう慣れた?
千秋 歩夢くんのお陰。
歩夢 もう一週間か。あ、緑冴少し遅れるそうです。
植田 はーい。
歩夢、着替えに稽古場を出る
植田 いやぁ、テレビ出てる人ってもっと固い人だと思ってたわ。
千秋 植田さんもテレビ出てるじゃないですか。
植田 再現ブイにごく稀にね。
千秋 再現ブイって、芸能人の回想とかに使われる?
植田 そうそう。この前は『ほん怖』みたいなオカルトのブイでさ。
千秋 特殊メイクとかしたんですか?
植田 アタシは脅かされる方。マジ怖かったぁ。
千秋 矢崎さんも最近テレビ出てますよね。
植田 あーーうん。そうだね。でも矢崎はやっぱ矢崎。
千秋 ?
植田 大学から一緒だから、なんかテレビの人って感じない。
千秋 大学から一緒なんてすごいですね。
植田 腐れ縁。
歩夢、戻ってくる
歩夢 なんか臭い。
植田 ぎくっ!
千秋 植田さん。
歩夢 やっぱり。植田さん、お酒飲んできましたね。
植田 分かっちゃう?
歩夢 ビールやめられないんですか?
植田 うーーん。
歩夢 どれくらい飲んだんですか?
植田 今日は、缶四本。
歩夢 結構飲んでるじゃないですか‼︎
植田 テヘヘ、あーバレちゃった。アタシ風当たってくる。
千秋 気をつけてくださいよ。
植田 はーい。
植田、出ていく
千秋 植田さん可哀想。
歩夢 え?
千秋 お酒。
歩夢 居酒屋の正社員だからな。
千秋 違う。
歩夢 ・・・。
千秋 植田さん。矢崎さんに置いてかれるのが怖いんだ。ずっと一緒に演劇やってきたのに。
歩夢 千秋、
千秋 可哀想な植田さん。お酒で誤魔化さなくても、
歩夢 千秋。
千秋 だってそうでしょ?
歩夢 そういうのは、
千秋 歩夢くん、ずいぶん緑冴さんが気に入ってるんだね。
歩夢 緑冴?
千秋 さっき電話してたの。緑冴さんでしょ?
歩夢 そうだけど?
千秋 植田さんから色々聞いた。緑冴さん、歩夢くんに憧れて演劇始めたって。
歩夢 嬉しいよね。
千秋 一緒に演技やりたいって。何で役者辞めたの?
歩夢 台本作家の方が向いてたから。
千秋 それだけ?
歩夢 それだけ。
千秋 ・・・歩夢くんが賞取った台本。
歩夢 !
千秋 ないものねだりの嫉妬劇。
歩夢 ・・・。
千秋 あれ緑冴さんがモデルなんだ。
歩夢 ・・・分かりやすかった?
千秋 会って直ぐ分かった。
歩夢 やっぱり千秋は名女優だ。
千秋 私、歩夢くんの台本が好き。
歩夢 ありがとう。
千秋 私の方が演技上手いのに。
歩夢 どうしたの急に。
千秋 ・・・大人って、ずるい。
植田と緑冴が入ってくる
緑冴 おはようございます。
千秋 (緑冴をじっと見つめる)
緑冴 何?
千秋 (すぐさま歩夢の方へ)歩夢くん歩夢くん。今度うちの学校で文化祭あるの。
歩夢 六月に?早くない?
千秋 歩夢くんは違かったの?
歩夢 俺の学校は十一月だった。
千秋 へぇ。私、文化祭で主演やるの。そのあと一緒に回ろうよ。
植田 主演か。
歩夢 え?
植田 あ、いや別に。
緑冴 ・・・。
歩夢 ・・・俺、ちょっと出てきます。
植田 どこ行くの。
歩夢 タバコ、吸いたくて。
植田 歩夢がタバコ。珍しい。
歩夢 植田さんもどうです?一本。
植田 ならアタシもお供しよう。まだ人来ないし。
歩夢と植田出て行く
稽古場には千秋と緑冴のみ互いに終始無言である(緑冴は稽古着に着替えるので出入りをしている)
不意に千秋が口を開いた
千秋 私、緑冴さんより、演劇上手いです。
緑冴 はい?
千秋 私、緑冴さんより演劇上手いです。
緑冴 俺、役者のそう言うところ嫌い。分かるでしょって言わんばかりに遠回しに言ってくるところ。
千秋 逆にハッキリ言わないと分からないんですか?
緑冴 嫌い。
千秋 子供ですか?
緑冴 千秋ちゃんより一個上だよ。
千秋 私は、早く大人になりたい。
緑冴 俺は世界一の役者になるよ。
千秋 喧嘩売ってます?
緑冴 ・・・。
千秋 ・・・。
学研が勢いよくドアを開ける
学研 おっはよーございまーす!
二人 ・・・。
学研 え、二人なんかあった?もしかしてそう言う〜?
二人 違います‼︎
歩夢のスマホの着信音が鳴る
暗転
舞台上手に電話をかけている植田と矢崎
舞台下手に電話に出る歩夢
歩夢 もしもし植田さん?
矢崎 いや矢崎。
歩夢 矢崎さん?(番号を見て)どうして植田さんのスマホから?
矢崎 今飲み屋でさ、植田と一緒だったの。
歩夢 はぁ。
矢崎 私の携帯充電切れだったから。
歩夢 なるほど。それで?
矢崎 それがね、
植田 (スマホを取り上げ)もっしぃ歩夢ぅ?
歩夢 植田さん酔ってますね。
植田 んー酔ってる酔ってるぅう。
歩夢 どうしたんですか?
植田 あんねぇ、歩夢。次の主演なんだけどさ、千秋にやってもらぉおと思うのぉ。
歩夢 え。
矢崎 (スマホを取り上げ)台本、ほとんどできてるよね?
歩夢 え、まぁ。
矢崎 ごめんだけど。それ次の舞台に回して、今から千秋ちゃんが主演になれるような台本書ける?
歩夢 千秋、ですか、
矢崎 真面目な話。ウチみたいな小さな劇団は話題作りが重要なの。
歩夢 ・・・。
矢崎 ここで有名女優使わないでどーすんの。
歩夢 千秋が、主演の台本。
矢崎 そう言うこと。
歩夢 千秋。ですか。
矢崎 ・・・歩夢くんが緑冴くんに特別目をかけてるのは知ってる。
歩夢 俺は別にそんな。
矢崎 ごめんだけど、できる?
歩夢 ・・・できます。
矢崎 ・・・。
植田 矢崎ぃ、三件目行くぅ?
矢崎 (スマホを離し)行くか!三件目!
笹木が矢崎に話しかける
笹木 ダメです!矢崎さん明後日撮影があるんですよ?
矢崎 げ、笹木さん。
笹木 ほら!帰りますよ!
矢崎 分かりました。ほら植田。(電話を耳につけ)んじゃ。
歩夢 ・・・はい。
矢崎 ありがとう。(電話を切る)
稽古場
歩夢一人、不穏な顔をしてタバコの空箱を潰す
ソファには一期が座っている
歩夢 クソ、クソクソクソ。
一期 何、自分の思い通りにならないからキレてるんだ。
歩夢 一期。
一期 それとも、緑冴くんのため?
歩夢 ・・・。
一期 そんなんで大人のつもりでいたんだ。
歩夢 違う。緑冴のためなんかじゃない。
一期 へぇ。
歩夢 俺は、書きたいものを書きたいように書いてたつもりだった。
一期 違かったんだ。
歩夢 ・・・。
一期 歩夢くん。
歩夢 ・・・最近、寝てても起きてても台本のことを考えてる。今日なんて起きた時、自分が現実にいないで台本の中にいるように思えた。それくらい、俺は本気で台本を考えてる。
一期 あの台本さえ書かなきゃ、そうはなってなかったよ。
歩夢 あの台本?
一期 歩夢くんが賞を取った台本。あれがあまりに佳作だったから、
歩夢 ・・・。
一期 「アイツが、俺だったら良いのに。」・・・緑冴くんが、歩夢くんだったら良いのに。
歩夢 ・・・俺、本当は役者がやりたかった。
一期 知ってる。
歩夢 台本書くより、役者してたかった。
一期 知ってる。
歩夢 緑冴が、あまりに上手く演技するから、
一期 うん。
歩夢 俺は、俺は、(泣き始める)
暗転
雷が鳴り響く豪雨
高良、緑冴がいる
高良 スッゲェ音。
緑冴 もう梅雨ですね。
高良 梅雨ってレベルじゃねぇだろ。
緑冴 確かに。
高良 これ帰れんの?
緑冴 調べてみますよ。
高良 うん。
緑冴 あ、充電切れ。
高良 モバ充は?
緑冴 ないです。
高良 充電器は?
緑冴 ないです。
高良 え何してんの。
緑冴 高良さんスマホは?
高良 忘れた。
緑冴 え、
高良 え、
緑冴 え、
高良 え、
緑冴 え、
高良 緑冴何で来てんの?
緑冴 電車です。
高良 俺も。
緑冴 これ、止まってますかね?
高良 分かんない。
緑冴 バス動いてますかね?
高良 分かんない。
緑冴 タクシー、
高良 金ない。
緑冴 ですよねー。
高良 もしかしてやばい?
緑冴 やばいかもです。
高良 ここ固定電話なかった?
緑冴 何ですかそれ。
高良 え知らない?固定電話。
緑冴 知らないです。
高良 マジか。家用の電話とか。
緑冴 初めて聞きました。
高良 ジェネレーションギャップ。
緑冴 ジェネレーションギャップ。
高良 ダメだ。小道具のスマホなら出てきた。
緑冴 意味ないじゃないですか。
高良 どーする?
雷が鳴り停電する
高良 え何々‼︎怖いんですけど‼︎
ガタガタとドアが揺れて、強くノックされる
高良 やばいやばいやばい‼︎借金取りだ‼︎
緑冴 そっちですか⁈
高良 ごめんなさいごめんなさい‼︎来月までには‼︎
ガタンとドアが開かれ、男が一人入って来る
歩夢 高良〜。
高良 ヒヤッ‼︎ごめんなさいごめんなさい‼︎
電気がつく
高良 ギャアアア‼︎
歩夢 高良。
高良 え、歩夢?
歩夢 何してんだよ。
高良 うっわビビったぁ。歩夢かよ。
緑冴 歩夢さんずぶ濡れじゃないですか。
歩夢 お前ら、今日は稽古中止。
高良 えそうなの?
歩夢 こんな豪雨なんだから当たり前だろ。はいスマホ。
高良 ありがと。
歩夢 緑冴まで。
緑冴 すみません。
高良 今外どー言う状況?
歩夢 全部止まって、どこの店も臨時休業。
高良 どーやってきたの。
歩夢 近くにいたから。
高良 ここら辺で遊べるところあったけ?
歩夢 一期に会ってたんだ。
高良 なんだかんだ仲良いのな。
歩夢 んで、電車止まったてニュース流れて。
高良 スマホどーやって手に入れたの。
歩夢 俺のカバンに入ってた。
高良 あーごめんご。
歩夢 どーやって帰るか。
高良 学研さんは?車持ってなかった?
歩夢 バカ。あの人今出張中。
高良 あそっか。・・・えじゃどーやって帰んの?
歩夢 泊まり込み、かな。
高良 うわマジかよ。トランプ持ってくればよかったぁ。
緑冴 ブレないですね。
高良 だってせっかくお泊まりだぜ?
緑冴 足止めですけどね。
高良 お前それでも高校生かよ。
緑冴 高良さんは大人になってください。
高良 ヒェーー。もう俺シャワー浴びるわ。
歩夢 着替えは?
高良 稽古着。
歩夢 タオル忘れんなよ。
高良、部屋から出て行く
歩夢 ここ給湯器あったよね。(台本を書き始める)
緑冴 はい。
歩夢 悪いんだけどお湯沸かしといてよ。
緑冴 はい。
緑冴、給湯室に給湯器を沸かしに行く
歩夢 (無言)
緑冴 また台本ですか。
歩夢 書くのが仕事だから。
緑冴 そうですか。
歩夢 うん。
緑冴 (自分の台本を取り出し)「俺、明日世界が終わるなら今直ぐにでもあの大きな宇宙を泳いで、
どこまでも逃げてくさ。」
歩夢 (無言で書き続ける)
緑冴 「俺ならどこまでも行ける。君となら。」
歩夢 (無言で書き続ける)
緑冴 「俺は誰よりも上手く宇宙を泳げるんだ。」
歩夢 (無言で書き続ける)
緑冴 歩夢さんとなら、もっと上手く。
歩夢 何?
給湯器が鳴り、緑冴が止めに行く
緑冴 ・・・。
歩夢 (無言で書き続ける)
緑冴 俺、歩夢さんの台本も好きです。
歩夢 ありがと。
緑冴 俺、歩夢さんの演技も好きです。
歩夢 そっか。
緑冴 俺、歩夢さんと演技やりたくって入団したんです。
歩夢 知ってるよ。
緑冴 一度も同じ舞台に立ったことない。
歩夢 俺は作家だから。
緑冴 千秋ちゃんと仲良いですね。
歩夢 昔からの知り合いだから。
緑冴 ・・・俺、今すごい馬鹿だ。
歩夢 何か言いたいことあるの?
緑冴 次の舞台。
歩夢 ・・・。
緑冴 千秋ちゃんが主演なんですね。
歩夢 緑冴、どこでそれ、
緑冴 本当なんだ。
歩夢 ・・・。
緑冴 皆噂してました。次は千秋ちゃんだって。植田さんが気に入ってるって。
歩夢 まだ決まったわけじゃ、
緑冴 千秋のために台本書くんだ。
歩夢 そんなわけ、
緑冴 俺ももう子供じゃない。それくらい分かる。
歩夢 いいや、お前は何も分かってない。
緑冴 分かってるよ!
歩夢 緑冴、
緑冴 分かってるけど、ダメなんです。俺、俺、歩夢さんと演劇するのが好きだから。俺歩夢さんと演技に
ついて話し合う時間が好きだから。俺歩夢さんが、
高良が入ってくる
高良 さっぱりしたぁ。歩夢、ここカップラーメンあったけ?
歩夢 ・・・給湯室の棚の中。お湯沸かしといたから。
高良 サンキュー。緑冴何食う?
緑冴 何でも。
高良 歩夢はー?
歩夢 俺はいいや、タバコ吸ってくる。
高良 へーい。
歩夢、部屋を出て行く
緑冴 ・・・。
高良 なんかあった?
緑冴 ・・・。
高良 話し聞いてやろうか?
緑冴 ・・・。
高良 お前、なんで役者やってんだ?
緑冴 え?
高良 何で役者やってんだ?
緑冴 (答えられず、口籠る)
高良 千秋に勝ちたくて役者やってんのか?
緑冴 (慌てて首を横に振る)
高良 歩夢に好かれたくてやってんのか?
緑冴 (考える)
高良 お前、歩夢のために役者やってんのか?
緑冴 ・・・。
高良 ・・・ゆっくり考えれば良いよ。
緑冴 高良さん俺、
高良 歩夢、呼んでくる。アイツずぶ濡れだったのに、風邪ひいちまうよ。
高良、稽古場を出て行く
緑冴が一人稽古場に残される
緑冴 俺、何のために役者やってんだろ。最初は、歩夢さんの演技に憧れて。歩夢さんと一緒に演技
したくて、歩夢さんと演劇について話し合うのが好きで、歩夢さんに追いつきたくて、歩夢さんの台本が好きで、歩夢さんの、期待に添いたくて、・・・
高良、慌てて部屋に飛び込んでくる
高良 カップ麺‼︎
大きな落雷により電気が消える
暗転、大きな笑い声がする
部屋には学研と高良、矢崎がいる
学研 へぇ。それで一晩ここに泊まったわけだ。
高良 楽しかったっスよ。意外と。
矢崎 シャワールームあって良かったね。
高良 そうなんですよ!いざとなったら住めますよココ。
学研 だってココ元々アパートだもん。
高良 えそーなんスか?
矢崎 うんそう。植田がこの物件見つけて、改造してくれたの。
高良 へぇー。
学研 俺も手伝ったよ。呼び出されて。
高良 ありがとうございます!あ、お金。
学研 お、バイト見つかったのか。
高良 おかげさまで。
学研 闇バイト?
高良 違うっスよ。
矢崎のスマホが鳴る
歩夢と千秋が楽しげに入ってくる
歩夢 おはようございます。
千秋 おはよーございます。
矢崎 おはよ。(電話に出る)はいもしもし。あ、うん。・・・え?えっちょっと待っ、あ。
学研 どうしました?
矢崎 ・・・どうしよう歩夢くん。
歩夢 何ですか?
矢崎 ・・・緑冴くん。退団するって。
歩夢 え、(急いで電話をかける)
千秋 ・・・。
高良 俺の、せいだ。俺のせいだ。
学研 何言ってんだよ高良。
高良 だ、だって、俺が余計なこと言わなきゃ、
学研 落ち着け。
歩夢 ダメだ出ない。
矢崎 え?
歩夢 アイツ電源切ってるかも。
矢崎 じゃあ家に電話して、
歩夢 アイツ片親で、仕事中だと思います。
矢崎 そうだった。
歩夢 兎に角、会って話聞かないと。全員で探しましょう。
矢崎 そうだね。私は植田にかける。(電話をかけ)
学研 俺、一期と滝上さんにかけます!
高良 お、俺も、
全員が各団員に次々と電話をかける
高良 緑冴家にいるかな?
矢崎 外探しに行く。緑冴くんのいきそうな場所分かる?
歩夢 北千住の公園とか、他にも、
学研 探し行こ。
各々の外に出る準備をして出て行く
歩夢も上着に手をかけ外に出ようとする
千秋 (歩夢を咄嗟に掴む)
歩夢 ・・・。
千秋 ・・・ぁ。
歩夢 千秋、
千秋 ぜ、全員が行かなくてもいいと思う。
歩夢 あのな、
矢崎 そうだね。緑冴くんココに来るかも。
千秋 はい。
矢崎 じゃあ歩夢くんと千秋ちゃんはココにいて。
千秋 はい。
矢崎も出て行き、稽古場には歩夢と千秋だけが残される
歩夢は千秋を見ているが、千秋はひたすらに目を背ける
沈黙
歩夢 千秋。
千秋 ごめんなさい。
歩夢 何で?
千秋 ごめんなさい。
歩夢 何で謝るの。
千秋 分からないけど、ごめんなさい。
歩夢 (緑冴に電話をかけるがやっぱり出ない)
緑冴が静かに入ってくる
緑冴 ・・・歩夢さん。
歩夢 緑冴!お前、
緑冴 (逃げようとする)
歩夢 待て!
緑冴 すみません。誰もいないと思って、
歩夢 何で、何で退団するんだ。
緑冴 ・・・。
千秋 私の、せい?
緑冴 違う。
歩夢 じゃあ、何で辞めるなんて、
緑冴 ・・・俺、何で役者やってんだろ。
歩夢 は?
緑冴 俺何で役者やってんだろ。
歩夢 ・・・何言って、
緑冴 俺分かんないんですよ歩夢さん。
歩夢 ・・・。
緑冴 歩夢さんの演技が好きで、俺も貴方みたいになりたくて、演劇始めたのに。俺、歩夢さんと演技
したくて、俺、歩夢さんの台本で演技したくて、歩夢さんに褒めてほしくて。歩夢さんに認めて
もらいたくて、歩夢さんに、歩夢さんに、
歩夢 緑冴。
緑冴 貴方が俺に、俺の身体を使って、俺の演技を使って、台本で語るって言うから。俺、だんだん
分かんなくなって。俺空っぽだから。中身なくて、・・・俺、歩夢さんのために役者やってるんだ。
歩夢 ・・・。
緑冴 でも、歩夢さんは、俺がいたら好きなようにできない。やりたいことをやれない。
歩夢 緑冴、俺はもう、
緑冴 歩夢さん。本当は役者続けたかったんだ。
歩夢 !
緑冴 俺がいたら、歩夢さんは役者をできない。
歩夢 ・・・。
緑冴 歩夢さんは舞台から降りれないんだ。だから台本を書いてる。そうでしょ?
歩夢 ・・・。
緑冴 俺は、貴方の演技が好きだったんだ。
歩夢 緑冴聞いて、
緑冴 歩夢さんが演技できないなら、俺は役者を辞めます。
歩夢 ・・・。
千秋 待ってよ緑冴さん、
緑冴 (歩夢に)これ、退団届けです。
歩夢 (受け取れず、手をこまねいている)
緑冴 (無理矢理歩夢に持たせる)矢崎さんにお願いします。
歩夢 ・・・。
緑冴、自分の棚から私物を全て片付ける
千秋 ねぇ待って。待ってよ緑冴さん。
緑冴 何?
千秋 世界一の役者になるんでしょ?私との勝負はどうするのよ?
緑冴 俺は、世界一の役者になんてなれない。
千秋 緑冴さん!
緑冴、早々に稽古場から立ち去ろうとする
千秋 緑冴さん!
緑冴 ・・・。(歩夢を見つめ)・・・お疲れ様でした。
緑冴、退場する
稽古場にはまた、千秋と歩夢の二人きりとなる
千秋は泣き、歩夢は呆然としている
少し経ち、一期が入ってくる
一期 歩夢くん。
歩夢 ・・・。
続々と全団員が入って来る(中には笹木の姿も)
学研 さっき外で緑冴とすれ違った。
高良 歩夢、それ。
歩夢 ・・・。
一期が歩夢から退団届けを取り上げる
一期 退団届け。
学研 緑冴のか?
歩夢 ・・・(小さくうなづく)
植田 緑冴が来たのか?
歩夢 ・・・(小さくうなづく)
団員は呆気に取られ、各々の力が抜ける
歩夢 ・・・俺のせいだ。俺のせい。・・・俺が、俺が自分可愛さに、緑冴の才能を、摘み取ったんだ。
稽古場に、歩夢の声を殺した泣き声が響く
歩夢の着メロの曲が流れ始める
徐々に舞台明かりが消える
舞台下手に荷物を抱え、一人イヤホンをして、歩夢の着メロの曲を口ずさむ緑冴がいる
緑冴 歩夢さん。
曲が大きくなり、舞台明かりが消える
〈三〉 冴える。
音楽が流れて続けていたが、終演と共に切れる(『降りれない』の公演が終わる)
キャストと部員が次々に集まる
一期 撤収。手順通りに上手と下手に別れて解体作業。
全員 はい!
口々に話し合いながら舞台の解体作業が始まる
歩夢だけが中央に佇んで空になっていく舞台を眺めている
部員には、歩夢だけが見えていない
誰も歩夢に触れないし、見もしない。歩夢だけが存在していない
歩夢は何もしない、何もできない
もはや誰にも触れないし、感じることもできない存在になっている
舞台だけが続々と空になっていく。部員も減っていく
一人、一人、また一人消えていく
部員の声も小さくなっていく
歩夢以外誰もいない、何もいない舞台
歩夢が台本を拾い上げる
歩夢 この世界全てが一つの舞台。人はみな男も女も役者にすぎない。それぞれに登場があり退場がある。出場がくれば一人一人が様々な役を演じる。年齢に応じて、七幕に分かれているのだ。
歩夢が台本を置き演劇を成す
歩夢 まず第一幕は赤ん坊、乳母に抱かれて泣いたりもどしたり。次は泣き虫小学生、カバンを
ぶらさげ、朝日を顔に受け、歩く姿はカタツムリ、いやいやながらの
緑冴が歩夢を探しに舞台へ飛び込んでくる
緑冴 歩夢さん‼︎
歩夢 ・・・いやいやながらの学校に通い。さてその次は恋する若者、鉄をも溶かす
緑冴 歩夢さん‼︎
歩夢 炉のように溜息ついて、悲しみ込めて吐き出すは恋人の顔立ち讃える歌。
緑冴 歩夢さん‼︎
歩夢 次に演ずるのは
緑冴 歩夢‼︎
歩夢 ・・・。
歩夢、演劇を辞め緑冴を見つめる
歩夢 ・・・消える。幕が降りれば、俺達は唯の高校生に戻る。
緑冴 歩夢さん‼︎
歩夢 嫌だよなぁ。だって俺達は、ココで生きて、ココで喜んで、ココで痛みを感じて、俺達は
確かにココに居たのに・・・。
緑冴 歩夢さん‼︎
歩夢 作り物だって、所詮。俺達は台本の登場人物だって・・・。みんな俺らを忘れるんだ‼︎
緑冴 歩夢さん‼︎
歩夢 何だよ‼︎
緑冴 ・・・俺、楽しかったです。・・・貴方と舞台に立てて!
歩夢 ・・・、
緑冴 楽しかったです、俺。この三年間、舞台の上で。
歩夢 ・・・。
緑冴 歩夢さんは、楽しくなかったですか?
歩夢 ・・・。
緑冴 楽しくなかったですか?
歩夢 ・・・。
緑冴 楽しくなかったですか?
歩夢 ・・・楽しかったよ。・・・楽しかったに決まってるだろ!
緑冴 (笑って)なら、良かったです。
歩夢 ・・・人生は演劇だと誰かが言いました。
緑冴 人生は演劇だと誰かが言いました。
舞台袖から声がする
部員 人生は演劇だと誰かが言いました。(次第に増える声)
部員 人生は演劇だと誰かが言いました。(次第に増える声)
全員 人生は演劇だと誰かが言いました。
歩夢 人生は演劇だと、誰かが僕に言いました!
音楽
歩夢 俺は、稲成歩夢を演じきったぞ‼︎俺は、俺は俺は‼︎
一拍が舞台上に響き渡る
歩夢も緑冴も動きを止める
音楽が大きくなっていく
舞台が終わる
緞帳が降りる
終幕
カラダ ★祭り★ @Matsuri0511
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