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○ ○ ○
「おはようございま~す」
猫の額ほどの駐車場を掃いていると、自転車を押して向かってくる深山ちゃんに声をかけられた。今日は時間通りか。ベージュのダウンジャケットを着こなす年齢には早い。
店内に戻ると、ダヤンがホットドリンクの補充をしていた。
助かる。
ちりとりの中身を捨てて道具庫にしまい、日除けを上げた。深山ちゃんがバックヤードから出て来るのが見えてようやく一息つきながら、首にかけていたブザーを彼女に手渡すと不思議な顔をされた。
「18時までですよ。ボルグ休みで、ダヤンさんが22時までなんで」
また勝手にシフト変えられた。
あとでちゃんと見ておこう。
ダヤンが休憩から上がるまでおあずけか。
我儘を言うタイミングは今しかない。
「ごめん。ちょっとタバコだけいい?」
「ダヤンさんに言ってください」
確かに。
彼に寄ってから同じことを申し出ると、「大丈夫です」と返され、ダッシュでバックヤードでコートを羽織り、外に出て庇の下で火を点けた。
はあっ。
なんでまあ、寒空の下で吸うタバコは格別に美味いのだろうか。
無造作に箱をポケットにしまい、最初だけゆっくりと、あとは金魚で終えて吸殻を押し付け、店内に戻った。
ふとホットドリンクに目が行き、什器から3本取ってセルフレジで決済した。
「バックヤードに置いとくから、暇な時飲んで」
「無糖の気分じゃないんで清水さんのと替えてもらえますか?」
好みなんて滅多に変わらないだろと思いながらバックヤードに入って着替え直した。
少しだけ無糖ティーに口をつけてからカバンにしまい、シフト表を確認してレモンティーとカフェオレを机に置くと、店頭に戻った。
やっぱ苦いわと思いつつダヤンとすれ違い、カウンターに入ると「私も入る前に吸って来ればよかった」と深山ちゃんはぼやいていたが、大量に商品の入ったカゴが彼女の前に置かれるのを見て思わず笑ってしまった。
※ ※ ※
ハイルに迫ったのは気の迷いだったかもしれない。
ただ遅かれ早かれ、今の関係にはなっていただろう。
『お帰りなさいませ。モスグ様』
彼が邸に来てから1年経った頃、敵国の再侵攻に備えた長期遠征の命が団に下った。遠征から帰郷して使用人一同から出迎えられたが、2年ぶりに見た彼の笑顔にだけは堪えられなかった。
不当に解雇されていないか、邸から去っていないだろうかと不安だった。
その夜、寝着を置きに来た彼の腕を取り上げた。
『どうなさったんです、モスグ様?』と彼は言っていたが、俺は真っ直ぐに首元に顔を埋めて鎖骨を舐めた。
執拗な愛撫に彼も膨らみはじめ、少しずつ息を漏らし出した。着ていたシャツを脱がせて直に胸を触れただけで、彼がにわかに攣えて感じたのが分かった。
『遊君を、呼びますから』
抜けている。
『俺が抱きたいのは君だ。ハイル』
彼の潤んだ瞳で瞠る顔に、俺は自身に歪みを感じた。
『ダメです、モスグ様っ、自分なんかに』
『ヨルガって呼んでくれないか』
『いえ、自分とっては、モスグ様で』
『ヨルガと言ってくれ』
『、ヨ、ヨルガ、さま』
様付けか。でもいい。
俺はハイルを抱きたかった。
下を脱がせると、彼の先走ったものが露わになった。
自分の長さの半分にも満たない白い茎に顔を寄せると、向こうに窮まった表情が見えた。
勢いのままに下半身を持ち上げてみると、彼の穴は決して綺麗とは呼べないものだった。舌を這わせると、手にしていた彼の両脚が震え出した途端、俺はいけないことをしたと直感して彼の腰を下ろした。
『ヨルガ、さま?』
彼の怯えた顔に自分は勃っているのがおかしくなった。
『笑っていてくれないか。俺は君の微笑みが好きなんだ』
『は、はい』
笑んだ頬は引き攣り、求めたものでは無かった。
「怖い顔してますよ」
マグカップの上に血行で上気した赤い顔があった。
タオルを載せて雫を垂らす黒髪に深緑の瞳。
バスローブでは隠しきれない首筋に鎖骨。
カップに伸びた骨張る指に情動がむくりと起きた。
「初めての夜を思い出していた。酷いことをしたと」
「6年も前ですよ」
たなびく煙のあいだで、微かに鼻息を漏らした表情は彼に求めているものだった。
耳に手を伸ばすと余計に好きなものになる。
後髪に手を回すと近づいて来る。
「今日はお休みになられては?」
「その言葉を聞いて休んだことがあったか?」
今日は特別な日だ。
独善かもしれない。
彼はいつものようにしたいだけかもしれない。
でも。
■ ■ ■
急に本気出したな。
引き換え、お前の顔が暗いな。
お前もハイルみたいに笑ったほうがいいんじゃないか。
人間、笑顔が一番だろ。
分かってるお前が暗澹としてどうする?
俺は@XXXの笑顔も好きだからな。
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