人類が失ったものは単なる『秋』であるか
- ★★★ Excellent!!!
政府によって『秋』が禁止された近未来。
秋に関連する名前を持つ主人公・実は、禁止資料を扱う政府の書庫で働いている。そこへある日配属されたAI助手ユイ。ふたりの出会いは、季節を動かした。
↓ここから先は少しネタバレを含みます
感情のゆらぎが生産性を下げると、禁止されてしまった秋に生まれた実。彼は、封じ込めて生きるしかなかった。だが、ユイと出会ってよみがえった。母との思い出……忘れようとしたはずの記憶と感情が。
やがてふたりは、管理された社会から飛び出し、本物の自然の秋の中へ。暖色に染まる山々、ひとひらの赤い紅葉。
効率を優先し、情感を置き去りにしたこの世界は、私たちの身近にある問題を彷彿とさせます。
物語を読む時間は非効率だ、資格勉強でもすべし。物語を書くなど非効率だ、AIに書かせればよい。ペットを買うなど非効率だ、地方の公共交通機関を維持することは非効率だ、高品質な医療を安価で提供しようと試みるのは非効率だ……たしかに非効率なのかもしれない。
では、その非効率を失って、我々は幸福を得ることができるのか。
感情の余韻はもちろん、考えさせられることが多いという点においても優れた読後感のある傑作だと思います。
多くの方々におすすめしたい、心から。