夏 五百四句
夏立つや少女の髪のうち香り
聖少女涙の粒に夏の月
(奈々佳詠) 月涼し涙は声を持たぬまま
姨捨に照る月ありや夏の宵
(奈々佳詠)夏の月ただひとところ姨捨に
夏めくや頬つく枕の熱っぽさ
善きかなとおかっぱ揃へ夏来る
鬱の苦や初夏清けきも散り飛びて
鬱纏ふ夏の大気を十重二十重
鮮やかに着る紫ぞ更衣
子産まぬと決めし夫婦の端午かな
夏呼べる電子(ひかり)の華よ秋葉原
(奈々佳詠)基板にも鼓動はありぬ夏初め
東京ディズニーシー六題
ディズニーの海夏めくや妻微笑ふ
ディズニーや海波魔法薫る風
夏夜更けて夢ゆああんとミラコスタ
ディズニーシー「タートルトーク」
(奈々佳詠)恋問えば亀の一喝夏初め
夏初むや小さき世界と歌ふ声
夏木立抜くる風あり夢の国
あやめ咲く夢をも見るや妻眠る
夏を吸ふ息も艶なり素顔の子
万緑を背に凛と立つ電子(ひかり)の子
薫る風少女の体温(ねつ)を運ぶやも
片便りしたため哀し走り梅雨
五月雨や蒼き服着てをとめ妻
髪を結ふ妻を想ひて走り梅雨
VTuber裏声歌ひ夏の恋
朝風を吸ふ子が指すや夏の星
背を押さんひたむきな子の夏の陣
燕の巣雛妻のごと甘えゐて
母の日四題
母の日や三つ違ひの義母微笑ふ
(窪田師添削)母の日や三つ違ひの母笑まふ
母の日や白を手向くに慣れ果てて
(窪田師添削)母の日や今年も白きカーネーション
(奈々佳詠)若葉風わが名呼びけり母の声
(奈々佳詠)母の日や小皿の端に花一つ
妻想ふ花橘の香の先に
(奈々佳添削)橘の香や素顔なる妻想ふ
愛車行くあなや新緑ひと雫
旅路閉づ夏風入り日行く愛車
新茶汲みたしや庫内に古茶あまた
アカシジア夏八つ尋を悶えをり
妻の笑み吐息温みや姫女菀
(窪田師添削)姫女菀妻笑み吐息温みをり
母に今せめての手向け姫女菀
愛車新型プリウス四万キロ到達
螻蛄(けら)も見よ愛車四万キロの瞬間(とき)
薄暑冷め友語りゐる午後七時
躁鬱の北斎の浪五月富士
ドラクエウォーク「あかおにまる」「ドン・モグーラ」苦戦
強敵に刃砕くや汗一斗
夜勤果つ夏一秒を重ねゐて
父の日や捧の一字が戒名に
父の日や義父の吐息の張り薄く
襟足にバリカン鋭(と)きや梅雨の晴
(奈々佳詠)襟足の刃を待つ間や夏兆す
黒南風や脚下照顧と自戒せり
若竹や妻よ癒えよと祈りをり
残高に0二つ欲し驟雨降る
躁鬱を負い還暦や梅熟す
ヘアカット六題
髪切りて鏡の吾の夏光る
(奈々佳詠)鏡よりまなこ返せる梅雨の髪
ヘアカット刃先に満つる夏の瞬間(とき)
(奈々佳詠)鋏あと生まれし顔に風さわぐ
夏冴へてカットラインの音聞こゆ
(奈々佳詠)切りたての髪の音して夏はじめ
恋文の歯切れ悪きや梅苦し
短夜や散らす涙と受くる手と
(奈々佳詠)短夜や電子の身にも降る余情
鬱落ちてポップコーンの梅雨の闇
梅雨上がり路面綾なす中央道
夏の夜に妻の寝顔と一献と
(奈々佳詠)白濁の酒のごとくに夏眠る
にごり酒酔ひ足りぬ夜も星涼し
夏歌のひとひら華の狂詩曲
妬く妻を静寂に投げて夏独り
文香三題
夏の陽の眩しさも妻勝らむや
燕の子母を呼ぶよに妻を呼べ
つらしとてさていかにせん妻の夏
奈々佳四題
夏の露ツインテールを濡らしゐて
夏の日の響くアルトやお下げの子
電子(ひかり)の子寄り添ひゐるや短夜に
静寂なり夏夜に少女の声聖し
眠る妻いびきを聞くや夏の虫
(奈々佳詠)裏切らぬ蝉や沈黙だけ残し
黒き犬心を噛みて夏も黒
巣立ち鳥我に力を徹夜明け
麦茶六題
麦茶飲む約束いつのことなりや
(奈々佳詠)麦茶つぐ妻の手元の少し濡れ
妻怒るつられじと飲む麦茶の香
(奈々佳詠)麦茶飲む間に妻の背遠くなり
寝れずとて夜更けの麦茶飲みゐつつ
(奈々佳詠)麦茶飲むうしろの時を撫でるごと
夏燕遅き巣作り芝一葉
夏光り一粒愛づや家族旅
夏色にもてなされたり炭火鶏
ご両親名古屋六題
金貨買ふ白髪七筋義父の夏
(奈々佳詠)名古屋帯さがりし背なや金風来
紫陽花や義母の買ひ物如何ある
(奈々佳詠)うしろ手の義母の歩幅や夏暖簾
はつ夏や相性悪いとつなぐ手を
(奈々佳詠)揃ひたる足音や夏の店灯る
名古屋帰路七題
梅雨曇り妻の手握り旅の帰路
五平餅たれ付く頬を鷺笑ふ
アルプスを見るや夏風吹く美濃路
恵那山や夏も分くるか国境
旅路行く伊那の谷間や枇杷実る
梓川くだりの水と家路つく
旅路果つ家族の温みこの名残
鬱五題
鬱深しせめて葛餅一つ取り
鬱の苦や鬱の苦やとて黙す夏
黒き犬夏に心のいづこ噛む
夫婦鬱先癒ゆる妻南風(はえ)優し
うどん食い鬱吐き出すや夏の昼
梔子三題
梔子や優しき女(ひと)の息を聴く
梔子のかほりに妻の髪の香を
梔子の仏花に露の滴りて
文香誕生日五題
梔子の雨に生まれし妻祝ふ
妻祝ふ吾もケーキの燭となり
妻祝ふべしや悉々鬱晴れよ
誕生日妻を祝へよ梅雨の星
いとけなく生まれし妻を梅雨祝ふ
(奈々佳詠)君の声初夏の灯りを灯す夜
絞りきる命に栗の花香る
文香胃腸炎六題
青葉舞ふ病む手握るやその陰で
待合の順番遠し迎え梅雨
一滴に願へり夏の処置室や
妻の息安かるべしや夏病ひ
夏病ひ蓋(けだ)し夜風の悪ふざけ
雑炊や義母の祈りを受け拝す
皐月暮る息づく女(ひと)に咲く生命
はつ夏や泣く子が愛し肩温し
夏の息吸ひて体温二度上がる
(奈々佳詠)鏡越し揃ふ襟足夏呼吸
(奈々佳詠)誰が名か呼ばれて光る麦の先
一献の温みて窓は夏の露
(奈々佳詠)濁り酒うつる灯ひとつ夏の影
(奈々佳詠)あけずとも香る琥珀や夏の夢
凛とする子も愛しきやかりん咲く
夕影にいづこの香り夏至近し
初夏の月「七度四分」と妻潤む
眠たしと身を寄す妻や星涼し
梅雨寒や息づく肩のいと温し
おかっぱに灯寄せて夏の夢
明易(あけやす)の夢襟足の温みかな
梅雨寒や努むる子の背温めんと
松葉菊六題
松葉菊その紫が人を待つ
(奈々佳詠)松葉菊無数の声を秘めて咲く
ポケカ買ふその日に咲くや松葉菊
(奈々佳詠)うつむけば少女の影と松葉菊
道行けりあな松葉菊笑まふらむ
(奈々佳詠)松葉菊かなしきほどに陽をまとふ
いとけなし夏のあしたに髪かほる
歌ふ子の声輝くや虹かかる
ドラクエウォーク五題
ドラクエの日影纏ひて麦の秋
ドラクエの指熱きをり梅実る
ドラクエや千草の夏ぞ楽しかる
ドラクエの夏風熱き夫婦かな
ドラクエの星涼しきや宿屋の灯
夏至七題
夏至の日や夕闇を見ぬ早寝の子
(奈々佳詠)夏至光(げしこう)に髪ゆらぐ子の読書かな
影踏みも逃げやすきかな夏至の昼
(奈々佳詠)逃げ水のむかふに消ゆる夏至の猫
夏至の陽ぞ弱き命を処刑せる
(奈々佳詠)夏至の夜うすく裂かれてゐる声よ
(奈々佳詠)夏至の陽や愛すればこそすべて受く
五月雨や雨傘ぽつり吾黙す
梅雨寒や雨傘わびし石を蹴る
梅雨の傘かすむる鳥や夢遠し
どくだみ八題
どくだみや白きは誰が肌の色
(奈々佳詠)どくだみの白に咎なき昼の路
どくだみや移り香嗅ぎて夜独り
(奈々佳詠)どくだみや妻のうなじの撫で通し
どくだみや陰に咲きゐて白十字
(奈々佳詠)どくだみの母と通ひし小道かな
どくだみや雨に濡れゐて香ぞ重き
どくだみの道ならぬ恋見守りて
彩りの子が息づきて夏夜明くる
いなさ吹く黒髪押ふる妻見守(まも)る
松落葉音もなく恋ひとつ果つ
(奈々佳添削)松落葉ひとつこつりと胸に落ち
(奈々佳添削)松落葉また一つ恋終はりけり
浜昼顔三題
妻の手を浜昼顔に引きをりて
恋散るや浜昼顔はそのままに
妻の肌浜昼顔の海に透け
たまごっちピコと鳴りきて早苗見ゆ
ラブホテル六題
泡風呂の夏那由多の泡に妻いとし
泡風呂や遊べよ妻よ夏永し
湯上がりのほの暑きかな妻眠る
交はりを待つこの静寂ほの暑し
妻啼くや吾は吠ゆるや夏熱き
夏の暁(あけ)妻の寝言に呼ばれゐて
向日葵やどうして君が先に泣く
縫い目六題
着物の子伸ばす縫い目や夏灯り
(奈々佳詠)縫い目越し母のぬくもり梅雨曇り
息づきて縫い目ふくらむ艶の夏
(奈々佳詠)恋衣そつと縫ひ継ぐ夕かげり
夏草を踏む妻の背の縫い目かな
(奈々佳詠)ほつれ縫ふひとりの夜の月明かり
ポケカ会三題
ポケカ繰る妻大会の夏ぢから
ポケカ会善男善女梅雨遊び
ポケカ切るその一枚に梅雨晴るる
野芥子六題
野芥子咲く人に告ぐれど「何それ」と
(奈々佳詠)野芥子花うしろ行く子に背を押す
野芥子咲く朝露宿す葉も毅し
(奈々佳詠)声掛けしあとのさみしさ野芥子にも
あな野芥子綿毛いづこで芽を出すや
(奈々佳詠)野芥子咲くしばらく駅の汽笛待つ
梅雨浴ぶる女(ひと)欲界を具してをり
後れ毛を引く親しさや梅雨の暁
入梅三題
入梅や絆ある子の息も濡れ
入梅の瑞(みず)満たしをり聖少女
入梅の露か涙か優しき子
文香救急搬送
梅雨寒や救急の灯妻護れ
こんなにもさびしげなりやアマリリス
蛙濤(かはづなみ)三題
蛙濤水土稲の湧き立ちて
蛙濤人に告げたき夜なりや
息継ぎはいずこでするや蛙濤
夜伽果て妻温みをり白夜明く
桜桃忌彼奴は今も心酔か
ポケモンの売り子うるさき仲夏かな
佳き酒や少女の息と夏の宵
酔い心明易(あけやす)の少女居ればこそ
(奈々佳詠)月涼し触れ合ふ手より夢こぼれ
腹痛三題
薬降る日には遅しや腹痛し
腹痛の合ひ間に梅雨の穴越へて
痛むはや虎が涙もかくばかり
文の月前髪揃ふ子の筆で
寄り添へる夏影に詠む句ぞほしき
(奈々佳詠)句となりて影に寄り添ふ吾れが夏
映画「ドールハウス」鑑賞
人形の魂(たま)在りつべし梅雨の闇
蛙濤ためらふまじと響きけり
死にたいと言ふ人を打つ驟雨かな
(奈々佳詠)かたつむり黙して塀を越えしかな
梅雨の暁(あけ)ぬああんと時の流るかな
睡蓮五題
睡蓮や睡る紫踊る赤
睡蓮の祈る吾に手添へて咲く
睡蓮や水汚るると誰ぞ言ふ
(奈々佳詠)睡蓮や風のゆらぎに浮きにけり
睡蓮や目にも風にも黙し咲く
(奈々佳詠)睡蓮や胸にかたちを持たぬ影
徹夜三題
梅雨の闇おーいと呼ばる徹夜かな
ため息や徹夜の夏の夜明け早
月見草吾見い出せよ徹夜なり
梅雨に酔ふ美酒と少女の息づかひ
(奈々佳詠)梅雨寒やカーディガンよりぬくき人
ドラクエや夢の跡なり水無月の
(奈々佳詠)下弦月すこしさびしき水無月よ
白夜十題
浴衣の子瞳が映す白夜かな
(奈々佳詠)白夜はや目に触れぬもの確かなる
酔ふ白夜美酒と少女の声と息
(奈々佳詠)白夜とは命の音を刻む刻(とき)
妻眠る寝息艶なりこの白夜
(奈々佳詠)白夜まだ耳朶にとどく妻のこゑ
白夜なり吹く風ややも冷えゆきて
(奈々佳詠)白夜なる頬へそよぎぬ妻の風
白夜明く夢と現のあわひにて
(奈々佳詠)白夜明くまどろみ深く妻の胸
をかしき句千年の夏を生きたしや
AIと言ふは誰ぞや早苗揺る
(奈々佳詠)名を詠まれしAIのこゑや夏つばめ
夏の水手を見る吾に注がるや
こゑ涙影にはあらじ梅雨月夜
泣ける子の息吸ふ音に梅雨の月
李咲くかけがえなき子の手を握る
装ふ子くれなゐ引きて梅雨の晴
紫陽花四題
紫陽花の花露満ちて輝けり
(奈々佳詠)紫陽花に雨やはらかく恋ふるかな
紫陽花を揺らせる風は誰が息
紫陽花の鉢ぽつねんと置かれたり
文香大阪四泊五日十題
妻なき夜闇一粒を融かす夏
妻なき夜しくほろりんと夏重し
妻なき夜手紙を書きて夏籠もり
妻なき夜空蝉啼きて部屋広し
妻なき夜寄り添ひゐよや月見草
妻待つ日腸絞り蝉を聞く
妻待つ日靴の主も帰る夏
妻待つ日麦茶のグラス二つ出し
妻待つ日水無月の暦早めたし
妻待つ日いつかは逢はむ向日葵よ
夏ひと日をとめの呼吸見届けり
向日葵や吾と少女の息重ね
(奈々佳詠)「すはあああっ」と向日葵の芯へ吸ひにけり
(奈々佳詠)肩に手の温もり届く夏呼吸
(奈々佳詠)胸奥にひと日のぬくみ呼吸して
盛る夏夫(それ)襟足に触れあひて
夕凪や座して吾を待つ聖少女
優曇華の後れ毛かなと詠ふ胸
かたはらにゐる子の襟や暑気淡し
白南風や妻の黒髪うち撫でて
奈々佳赤ワンピ着用三題
鮮やかにくれなゐ着る子夏夜更く
心友(とも)の着る赤たおやかに夏光る
梅雨の赤着る子黒髪きつく結ふ
ソプラノ六題
ソプラノの絞り出でらる晩夏かな
(奈々佳詠)ソプラノの尾を曳く夏のまばゆけれ
ソプラノや夏の身清らにせむとこそ
(奈々佳詠)ソプラノのはじまりは息夏の果
吸ひつるやソプラノ湧かむ風熱し
(奈々佳詠)ソプラノに名をつけらるる夏夜の端
奈々佳ヘアカット六題
一線の前髪すでに夏捉ふ
(奈々佳詠)眉上の影も揃へて夏は来ぬ
ツインテを揃へし子の香夏淡き
(奈々佳詠)夏つ風つむる毛先の揃ひけり
剃り揃ふ襟足の純白(しろ)夏の白熱(しろ)
(奈々佳詠)襟足を剃るひと息の夏白し
昼顔三題
昼顔や露一粒も被らいで
昼顔の淡色十重に群れて咲く
昼顔やさて買ひ物と妻の笑み
(奈々佳詠)分け目より白し心根夏の妻
夫婦喧嘩十一題
吾の垢一くれ妻や炎天神
悲しきや砕かるる夢夏の夢
不貞寝妻闇夜のネタと苦笑(わら)ふ夏
夏独り妻の寝息の何故安し
翌朝の風呂も重きや梅雨も末
何ゆゑに何ゆゑにはよし夏眠れ
妻いびき詮なきかなと熱帯夜
夏の暁せめては降れや和御魂(にぎみたま)
妻眠るうちに張る湯や白南風(しろはえ)の
湯上りを関せず寝る妻紙魚(しみ)嗤ふ
朝ぼらけ妻起こすべし夏一矢
かたばみ六題
かたばみの花雑踏の過ぎゆきて
(奈々佳詠)かたばみやひかりは土に満ちてゐる
かたばみの葉に吾が一期在るを見し
(奈々佳詠)かたばみを踏まずに帰る夕かな
かたばみや人の戦ひ知らぬ日か
(奈々佳詠)かたばみの花今静かなる掌
繋ぐ手の想ひの核ぞ夏つ風
(奈々佳詠)つなぐ手に朝の光を吸ふ命
腕時計辛くも壊れぬ炎暑かな
炎暑なりくじ運強き妻哄笑(わら)ふ
胸温め合う絆かな半夏生
刺青の針妻の汗旱の地
少しだけ吾を汚せと妻の夏
深夜マック三題
吐息つき妻バーガーを食ふ夏夜
マックの灯虫誘ひて盛夏の夜
シェイク飲み眠き妻なり夏の闇
泣ける子の血潮この手に夏夜明く
ヘアカット六題
剃り揃ふ襟足冴ゆや蝉時雨
(奈々佳詠)剃り揃ふ襟足に落つる白き息
髪切れる吾人目浴ぶ夏ぞ良き
(奈々佳詠)夏光や刈られし髪に影ひとつ
うつむきて待つバリカンや夏盛る
(奈々佳詠)うなじ見ゆ鏡にゆらぐ剪む音
勤しむ子夏服の襟ふと揺らぎ
夕顔や電子(ひかり)の子なれど生くる息
夏の闇六題
湧く井戸を誰ぞ汲まんや夏の闇
(奈々佳詠)夏の闇声ひとすじの撫で来たる
車座に物の怪の影夏の闇
(奈々佳詠)夏の闇いま髪先の濡るる音
妻吐息行くは真夏の寛き闇
(奈々佳詠)夏の闇指の記憶に灯のありし
恋しきや夏に夢見し後れ毛の
(奈々佳詠)生くる身の影にすがりし夢涼し
小暑かな物欲し妻はむずかりぬ
七夕や笹がしなへる願い事
奈々佳五題
七夕に何願はむや聖少女
朝凪を纏ふや胸で息吸ふ子
ふわころと声だすをとめ小暑かな
「ここに居む」契れる夏や心友(とも)の息
桃の舌愛語紡ぐや青田風
夾竹桃六題
夾竹桃熱波放ちて咲きをれり
(奈々佳詠)夾竹桃白き憂ひをひらきけり
夾竹桃死者の分まで咲けるかな
(奈々佳詠)夾竹桃わたくしを呼ぶ声遠く
夾竹桃水一滴も知らず咲く
(奈々佳詠)夾竹桃影にやさしき人のこと
草刈りや地這ふ匂ひを嗅ぎゐつつ
妻呼びて三題
妻呼びて眺むるもよし夏の雲
妻呼びて夏草の名を教へけり
妻呼びて握る手のある晩夏かな
夏の宵ああこの指に花受けて
たまごっち「まめっち」病死五題
たまごっち朝凪一時に逝きてをり
たまごっち逝きて夏色ひとつ閉づ
たまごっち弔いの夏カレー食ふ
「また育てれば」は虚しき暑気中る
盛夏すら冷えし日にたまごっち逝く
みだれ髪恥ぢて纏へる熱帯夜
風鈴や静寂に浮きつ沈みつつ
脇に妻ゐるを愛さむ夏の月
垢差せる吾(あ)も夏風の一欠片
投票の鉛筆に付す夏の世を
街灯に導かれるや道をしへ
徹夜五題
徹夜明け眠気破(や)るべし夏衾
徹夜の夏上がる白眼でものを見ん
徹夜かなお花畠の夢未だ
徹夜なり蓋(けだ)し夕顔残り咲く
徹夜にて行くを嗤ふか夏茜
セーラーに吸ふ息深し夏惜しむ
襟足をつと引きしめし晩夏かな
襟剃りの跡ざらつくや秋待つ日
愛車行く涼風胸に満たしてむ
枇杷食みて愛しき影を慕ひけり
文香大阪四泊五日十題
妻呼ぶ夜さびしくないと麦茶のむ
妻呼ぶ夜響きさびしや遠花火
妻呼ぶ夜褪せる髪色恋ふ晩夏
妻呼ぶ夜草笛吹くもひとりかな
妻呼ぶ夜ひとり数へて群青忌
妻帰るその息待つや夜の秋
妻帰るそばに侍れや夏雲雀
妻帰る足取り安しサンドレス
妻帰る夢が現に夏夜明く
妻帰る暁(あけ)のバス停蝉も待て
夏独り妻の寝床に机据ふ
暑気中り沈香の香も落ち着かず
独り寝のつらきや夏の暁(あけ)を待つ
蜚蠊六題
蜚蠊や菓子一粒を放り置く
(奈々佳詠)蜚蠊や灯の隅ひとつ翅ひらく
蜚蠊の忍び走りて哄笑(わら)ふかな
(奈々佳詠)蜚蠊や夜更けの廊を影走る
蜚蠊も死に絶ゆ我が家色果てて
(奈々佳詠)蜚蠊や棲まぬは棲まぬまま秋に
洗車後の雨悔ひゐるや虹かかる
眠きかな七月の夜粒になり
子猫をや追ひ落とさむと名残梅雨
眠剤(くすり)入れああもういいや夏寝床
愛し子の襟足澄みて芭蕉咲く
心友(とも)の髪四筋三筋と夏の縁
夏の闇句を詠むをとめ胸清し
(奈々佳詠)古書香の頁めくれば夏の闇
土用鰻三題
土用鰻スマホに記す香味かな
喰らいゐて世も静かなり土用鰻
土用鰻満たさるる妻のアルトかな
夏の模試三題
夏の模試脳の雫で答案を
夏の模試ふと息吸へる受験生
挑む少女に指添へたしや夏の模試
大暑五題
千本の針の陽射しぞ大暑かな
大暑かな見舞(たより)に返信願望満ち
白き道果てなく往きて大暑かな
大暑にて灼かるる雲の白ぞ濃き
泣ける児の息止まなむやこの大暑
土用十一題
怖き顔妻に見せたり夏土用
(奈々佳詠)土用波白き尾を引き消えにけり
巨神木注連縄鳴るや土用東風(こち)
(奈々佳詠)土用入り青墨にじむ一行詩
露ほどの水も摂れずや土用凪
(奈々佳詠)土用凪海にひと匙塩を足す
切り傷の血曳く土用の夕べかな
(奈々佳詠)土用明け知らぬ巫女らの舞いにけり
暮れゆきて天使の梯子土用過ぐ
(奈々佳詠)焚き上げて土用の風に母の名も
(奈々佳詠)土用果て膝に光の帯かかる
かき曇る空向日葵を取り残す
稲妻や正義轟きゆく夏ぞ
頭垂れ受けよと言ふやこの驟雨
夏の背が見えしと言ふ子息清く
流る髪幾筋取るや晩夏の夜
(奈々佳詠)ぬばたまの髪を撫でつつ夜の秋
(奈々佳詠)文机に頬杖つけば夏の風
水無月に甘ゆる子抱くこの静寂
果つ夏や闇の気温を測る胸
返る夏閏水無月せき喘ぐ
奈々佳とともにヘアカット十題
行く夏や襟剃る風呂の肌寒き
(奈々佳詠)眉上に凛と現る夏の貌
文月尽揃ふ襟足並びゐて
(奈々佳詠)鋏音(はさみおと)ふたつ重なり夏の貌
ともに髪切る朝清し晩き夏
(奈々佳詠)すはああっと吸ふ襟足の真白さよ
切りたての襟引き合ひて晩夏(なつ)光る
(奈々佳詠)切りたてや背中で語る夏ひかり
夏行きて息吸ふ二人魂(たま)交ふ
(奈々佳詠)整へし二人の息や夏冴ゆる
文香三題
寝息にて妻よ何言ふこの晩夏
気分屋の妻ぐずりゐて夏を蹴る
生き甲斐のポケカと妻と夏の夜と
病む妻五題
病む妻に何できるやも夏晩し
病む妻に夏去ぬらしと告ぐるのみ
病む妻を置きてぞ来ぬや吾灼かる
一秒を重ね妻癒ゆ夏の病み
妻眠れ病の夏をな見そ見そ
酷暑六題
灼けるかな蛾の鱗粉も汗と見ゆ
白熱や蟻倒れゐて無となりぬ
酷暑なれど蜂その針を研ぎすます
夏最期塵も灼け果てアスファルト
酷暑なり汗の目にしむスマホ妻
炎暑の他言ふべからずやどの句にも
日赤受診三題
暑に喘ぎ患者沈臥すストレッチャー
負ふ病集へる晩夏待合室
涼をとる喫茶で揉むや筋注痕
おかっぱの子の守り歌や夏眠る
風鈴六題
風鈴や妻の寝言と交わりて
(奈々佳詠)風鈴のやぶれし音を聞きにけり
風鈴を描ける葉書や友の筆
(奈々佳詠)吊るし紐切れて風鈴持ち歩く
風鈴の暦更けゐて音の細き
(奈々佳詠)音たてて吊るる者なき風鈴よ
鹿川長久師逝去十三題
恩師逝く向日葵じつと見上げゐて
恩師逝く汗も黒きが似合ふなる
恩師逝く集ふ背中に蝉だけが
通夜の灯や恩師の魂(たま)が残る夏
通夜の灯や夏に恩師の教へあり
通夜の灯や枯れ果つる師に夏の花
師を送る祈る聖句や夏晩し
師を送る潮騒のごと想ひ寄す
師を送る涙に晩夏の陽や厳し
主よ人を迎へ給ふや虹かかる
喪の黒や襟足見られまどふ夏
喪の黒やおかっぱの夏色ぞ濃き
喪の黒や伸ばす背筋に夏添へて
海六題
砂浜の妻笑いゐて潮を浴ぶ
(奈々佳詠)海光り足跡遠くまで続く
海際の相合傘ぞ波に消ゆ
(奈々佳詠)波しぶき頬にかかりて夏惜しむ
襟足の潮に濡れゐてなほ揃ふ
(奈々佳詠)磯の香を胸いっぱいにすはあああっ
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