第4話 4日目
避難施設に移ってから丸二日が経った。
夫妻は保護対象として政府の管理下に置かれ、外部との連絡はすべて制限されていた。今後のことを考えると、とても勘助は寝つけなかった。夜間、隣でいびきをかいて寝ている幸子を羨ましく思った。
勘助は、きっと朝には自宅に沢山の人が蘇生しているのだと考えた。それは喜ばしいことのはずなのに、何故か身体中がぞっとした。
だがその二日間、一度も蘇生は起きなかった。勘助、そして世界中にいる多くの研究者の憶測が外れた。
二日経った朝早く、勘助夫妻の前に防衛省の担当官が現れた。
「率直に申し上げます。あなた方が自宅に戻れば、現象が再発する可能性があります。政府は、その確認を要求します」
幸子は言葉を失う。またあの家に戻らねばならないのか、と言いたげに勘助のほうをちらりと見た。
勘助は困惑した。だが、せっかく手にした自宅に帰れるチャンスを得たのだ。
「わかりました。帰らさせていただきます」
勘助は答えた。隣で、幸子が血の気が引いた表情をしていたが無視した。
官邸では深夜まで議論が続いていた。
「夫婦の意思確認を優先したいところだが、国民感情が限界だ。各地で“うちの家族を蘇らせろ”というデモが発生している」
「拒否されれば、強制措置も検討せざるを得ない」
「倫理的に許されるのか?」
「許されないが、許されないまま世界は動いている」
議論は紛糾し、結論がでないままにあちこちに話が進んでは止まってを繰り返していた。
これまで傍観していた総理は静かに言った。
「……彼らは、歴史の大きな転換点だ。だが、彼らは人であることを忘れるな」
勘助夫妻は政府側と面会し、このように伝えた。どうにかして安全に暮らせるよう、夫婦で十分に話し合って決めたのだ。
「私達は我が家に帰宅します。ただし、いくつかの条件があります」
勘助は条件を記した書面を相手方に提示した。
1. 自宅周辺3kmを“無人保護区域”に指定すること(ただし、元々いた住人を対象から除く)
2. 監視や研究目的の居住は認めないこと(遠距離監視のみ)、ただし万一の事態に備えて最低限の救護班だけを配置する
3. 蘇生が確認された場合、その人物の意思と尊厳を最優先すること
政府としては素直に通せない条件ではあった。だが、しばらくの沈黙の後、政府は了承した。理由は明白だった。彼らの帰宅こそが、手がかりのない超現象を解決する唯一の突破口だったからだ。
夕刻、防護車両に乗せられ、夫妻は2日ぶりに自宅へと戻った。自宅周辺は驚くほどに沈黙していた。住民の気配さえない。ただ、目では捉えられないが、遠くの丘から無数の報道カメラがこちらを向いているような気がした。
幸子が玄関の鍵を握る。指先が震えていた。
「ただいま……」
小さく呟き扉を開けた瞬間、庭の空気が揺れたような気がした。風も吹いていないのに、木々の葉が震えたように見えた。
勘助は息を呑んだ。極々普通の平屋が、もはやもの言わぬ怪物に見えて仕方なかった。
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