暴徒の更生と、役所裏の恩人


異形の集団と、王都の溶け込み方

ライルは、後ろから騒がしい三人の獣人を引き連れ、最初に王都の仕立て屋を訪れた。


「おい、この三人が目立たねぇように、街に溶け込める格好にしろ。金は払う」


ライルの口調は乱暴だが、懐から出す金は、ライル(転生者)が「投資」で得た、紛れもない大金であった。犬の獣人(タロ)は興奮して尻尾を振り、鳥の獣人(ガルーダ)はござる口調で「流石アニキ、太っ腹でござる!」と感嘆する。猫耳の獣人(シズク)は、無言でライルの側に佇んでいた。


次に、ライルは三人を連れて、王都の食堂に入った。


ガルーダは、ライルが鶏肉を食べているのを見て、少し寂しそうな表情を浮かべた。 


「アニキ、私のお肉も美味いでござるよ。一度食べてみるでござるか?」


ライルは冷たく突き放した。「俺は普通のチキンしか興味ねぇんだよ」


その瞬間、タロがガルーダの皿に盛られた肉に顔を突っ込んだ。


「それじゃあ私が貰うっす!」 


「この雌犬! やめんか!」


ガルーダとタロは、すぐに小さな喧嘩を始めた。ライルは、その騒がしさに心底苛立ち、冷たい眼差しで二人を睨みつけた。


「騒がしいからやめろ」


その一言に含まれた凄まじい威圧感に、二人はパッと動きを止め、凍りついた。


(ちっ、面倒な奴らだ)


役所の女帝

飯を食い終え、ライルは獣人たちを連れて王都の役所へと向かった。目的は、三人を正式な「住民」として登録させることだ。奴隷狩りに遭うリスクを最小限にするための、地道な作業だった。


役所のカウンターに着くと、ライルは横柄な態度で告げた。


「おい、ここの上の奴と合わせろ。話がある」


カウンターにいた女性職員は、その乱暴な口調と、背後にいる獣人たちに戸惑った。


「お、お客様!? アポは取られていますか?」


「そんなの持ってる訳ねーだろ」


職員が狼狽する中、奥の部屋から、優雅な声が響いた。


「はいはい、その人達は私の客人なの。通してあげて」


現れたのは、ライルの事業立ち上げを助け、彼の「革命」を影で支える有力者、カミラだった。彼女は王都の役所の一部を取り仕切る実力者で、ライルの良きビジネスパートナーである。

カミラはライルを見て微笑んだ。


「ライルちゃん、久しぶりね。最近顔見なかったけど元気してた? 後ろの子達も一緒に良いわよ」


カミラに促され、ライルと三人は会議室へ移動した。タロが興奮気味にライルに尋ねる。


「アニキの、僕っすか?」


カミラはタロを見て、楽しそうに笑った。

「アニキ? ライルちゃんらしいわね」


ライルは、カミラにこれまでの恩があるため、いつもの横柄な口調を少しだけ和らげた。


「ちげーよ、こい……じゃなかった。この人は俺の恩人だ」


カミラは、その言葉の裏に隠されたライルの変化と、彼が友人を紹介しているという事実に気づき、少し目を見開いた。


「あの時拾ったライルちゃんは、いつも孤独な目をしていたからね。いつの間にか窓から飛び出してたから驚いたけど、今日はなんのようかしら?」


カミラは、ライルが「2つの意識を持った未熟な子供」として役所の地下施設から飛び出した一件を知っている唯一の人間だった。


暴力的な依頼と、恩人の微笑み

ライルは、要件を単刀直入に伝えた。


「こいつらの仕事場見繕ってやってくれ。あんまり貴族の連中に騒がれたくねぇんだよ」


「騒がれたくない、ね」カミラは、獣人たちを解放したのがライルだと察した。そして、その裏には、アステルから依頼を拒否された辺境伯の影があることも。


「全くしょうがないわね。私が居ないと何も出来ないんだから」


カミラはため息をついたフリをしながら、即座に頭の中で最適な仕事と受け入れ先をリストアップしていった。獣人である彼らを正式に働かせることは、カミラにとっても「優劣の構造」を崩す、面白い革命の一つだったからだ。


「タロ、君は嗅覚が鋭い。食品の検査と警備を兼任する仕事があるわ。ガルーダは機敏。伝令や高所作業の仕事。シズク……貴女は無口だけど、洞察力が深そうね。静かに情報を集める仕事が向いているかもしれない」


カミラは、彼らに「仕事」という名の「居場所」と「社会的な地位」を与えた。


ライルは、それを聞いて静かに頷いた。彼の乱暴な行動の裏には、「獣人に尊厳を与える」という、転生者ライルから受け継いだ倫理観が確かに作用していた。


(これで、奴らが騒ごうにも、仕事と身分がある奴らに手出しはしにくいだろう。そして、俺の組織も動かしやすくなる)


カミラは、ライルの去り際に、心の中で本音を漏らした。


(孤独だったライルちゃんに、友達ができて良かったわね。本当に、地味な魔帝と無能な弟のやること、どこまで規格外なのかしら)


こうして、覚醒したライルは、暴力的な個性を持ちながらも、周囲を巻き込みながら、着実に王都の裏社会に「新たな優劣の構造」を築き始めていた。

覚醒したライルが、獣人たちに仕事と身分を与え、王都で地盤を固め始めました。

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