最短瞬動は、最後の離脱〜
最短瞬動は、最後の離脱〜
納刀後のカウンターを待つ
リーネから「一直線の居合斬りは読まれる」という致命的な弱点を指摘されたヒカリは、次なる特訓を申し込んだ。それは、納刀後の隙を狙うカウンターへの対策。
「リーネ師範代。次は、俺が居合斬りを放ち、納刀の隙を晒します。その隙を、あなたのホーミングショットで狙ってください」
ヒカリは依頼した。
「良いわ。ただし、あなたの居合の音を聴けば、どの程度のチャージか私には分かる。全力で仕留めに行くわよ」
タマキは訓練場の端で、心配そうに狼耳を伏せている。
「アカン。あの子、また無理する気や……」
ヒカリは、あえてチャージタイムを30秒に設定した。この時間であれば、居合の威力は中級魔物を確実に両断できるレベルだ。
チャージタイム:30秒開始。
リーネはヒカリの居合の音に備え、集中を高める。
チャージタイム:30秒完了。
シュンッ!ドォン!
ヒカリは中級の瞬動でリーネに向かい、寸分違わずリーネの横を通り過ぎ、あらかじめ目標としていた訓練場の標的を両断した。
そして、ヒカリが納刀動作に入った、その刹那。
ヒュオォォォン!
リーネの『風纏いのホーミングショット』が、ヒカリの背中に向かって放たれる。矢は、納刀で微動だにできないヒカリを標的として、空気の抵抗を無視して曲がり、追尾してきた。
最短の賭け
(来た!これが、最も危険な納刀の隙!)
ヒカリは『無の回避』で頭を振るが、矢は追ってくる。この追尾性能は、通常の回避では躱せない。
(ここで動いたら、体勢が崩れる。次は来ない。――だが、逃げの一手がある!)
矢が皮膚に触れる究極の瞬間。
ヒカリは、刀が鞘に収まりきる直前、納刀動作を中断し、改めて刀の柄に親指をかけた。
「3秒チャージ、開始!」
タマキが思わず叫んだ。
「嘘やろ!?その場でチャージする気か!」
矢がヒカリの背中に吸い込まれようとした、その0.1秒前。
チャージタイム:3秒完了。
『居合斬り・瞬動(3秒チャージ) ――離脱』
シュッ!
ヒカリは鞘から刀を抜き放った。刀は空を斬り、攻撃対象はいない。ただ、抜刀に伴う最短の瞬動が発動しただけだ。ヒカリの体は、光の速さで前方に3メートル移動した。
ホーミングショットは、ヒカリが元いた場所を通過し、そのまま勢いを殺せず、訓練場の壁に突き刺さった。
「やった……!」
回避は成功した。ヒカリは静かに刀を鞘に収め、体勢を立て直そうとする。
しかし、ここで、リーネの指摘が現実となった。
「いけない!アサクラ君、威力を解放していない!」
リーネが警告する。
ヒカリは、刀を納めようとした瞬間、制御を失ったSランクの加速エネルギーが、自身に反動として逆流するのを感じた。
「う、ぐ…っ!止まれ、止まってくれ!」
納刀を完了しようとした体は、超加速したまま減速することができず、制御不能のまま前方の壁へと突進してしまう。
リーネの制止も虚しく、ヒカリの体は凄まじい勢いのまま、訓練場後方のコンクリートの壁に背中から叩きつけられた。
ドォンッ!!
壁はひび割れ、衝撃音と共にヒカリの体は力なく地面に崩れ落ちた。
タマキが絶叫し、ヒカリのもとに駆け寄る。
「アサクラ!アンタ、何しとるんや!」
ヒカリは意識を失う寸前、かすれた声で呟いた。
「逃げの……一手は……、命綱じゃ……なくて……、命懸け……か……」
ヒカリの特訓は、最強の攻撃手段が、使い方を間違えれば最強の自滅手段にもなり得るという、Sランクの力の恐ろしさを突きつける結果となった。
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