第17話 プレゼント

 二人はバスにのり電機店へと移動する。


「エリザちゃん、どっちの色がすき?」

「赤じゃ!」

「じゃあこっちにしようか。契約は私に任せてね」 


 店頭で手際よくスマホの契約を済ませた千夜子。それを受け取ったエリザベートは目を輝かせた。


「こ……これがスマホ」

「安い機種だけどね」

「嬉しいのじゃ!」

「さて、そこのお店でエリザちゃん仕様にしようか」


 喫茶店に立ち寄り、コーヒーとオレンジジュースを注文。後、スマホのパスワードの設定などについて解説する千夜子。それから、いつの間にか持っていた紙袋をエリザベートに手渡した。


「これはなんじゃ?」

「初スマホ記念のプレゼントだよ」


 スマホを契約する際に一緒に購入していた品。それは水色の肩掛けポーチであった。


「かわいいのじゃ! ありがとうなのじゃ!」

「スマホとおサイフとちょっとしたお菓子くらいなら入るんじゃないかな?」


 エリザベートはクッションの効いた柔らかいポーチにスマホをしまって、肩からかけてみせる。


「ど、どうじゃ?」

「似合う似合う。いいね」


 千夜子は自身のスマホを取り出すと、何枚かエリザベートを撮影した。


「本当に、すごくすごく嬉しいのじゃ」


 黒いワンピースに映える水色のバッグ。エリザベートは愛しそうにそれを撫でる。


「ジュース飲みながらスマホの使い方を説明するね。オレンジジュース美味しい?」

「うむ、美味しいのじゃ!」

 

 千夜子は飲み込みの早いエリザベートに感心しながら、スマホの説明を続けた。


「のう、千夜子」


 あらかた説明が終わったところで、エリザベートが深刻そうな顔で言う。


「なに?」

「嬉しいこと、面白いことばかりで感情が爆発しそうなのじゃ」

「そっか、そうだよね」


 千夜子はそこではじめて、エリザベートがはしゃぎすぎないよう気をつけていることに気がついた。


「バスもすごかったし、スマホが売ってるお店もすごかったし、ジュースは美味しいし。もう我はどうしたらいいかわからぬ」

「そうだね、うん、そうだよね」

「一番は千夜子が優しすぎて幸せなのをどう表現したらいいかわからないのじゃ」

「ちゃんと伝わってるよ」


 千夜子はこの控えめな少女の感情を、できるだけ受け止めてあげたいと思う。

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居候は魔王の娘〜ほのぼのドタバタ二人暮らし〜 寝転寝子 @miyamakagome

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