第14話

「ふぅ......」

自販機で買ったお茶をひと口飲み、ひと息つく。

(何だか疲れちゃったな......)

大勢でワイワイするのは好きだけど、やっぱり疲れてしまう。

でもそろそろゲームの順番もまわってくるから戻った方が良いよね?

そう思って早足で歩き出そうとした時、ふと誰かに呼び止められた。

「ねぇ、白崎さんだよね?」

ハッとして振り向くと、そこには見覚えのない男の子がいて......。

多分、他のクラスの子だと思うけど、誰だろう?

「そうだけど......」

「良かった!白崎さんのこと探してたんだ」

「え?」

「俺の友達が呼んできてって言うからさ」

それを聞いて友達って誰なんだろう?って思ったのもつかの間、ギュッと手を掴まれ、引っ張られる。

「良いからちょっと来てよ」

そして、そのまま二人部屋の洋室に連れてこられた。

「あの......私に何か用?」

今更のように尋ねる私。

だけど彼はその質問に答えるより先にドアの扉をガチャっと開けた。

「おーい!良平、連れてきたぞ〜」

「え?」

なんとそこには、始業式の日に連絡先を聞いてきた田中良平くん(変成くん曰くナンパ)がいて......。

「おお!真宵ちゃん、待ってたぜ〜」

嬉しそうに出迎えてくれる田中くん。

(連れて来られただけですけど......)

「ありがとうな、藤和とうわ

「いえいえ、あとは二人でごゆっくり〜」

私を連れて来た藤和という人はニヤニヤしながらそう告げると、去ってしまった。

「あの......ちょっと待って!?私、友達待たせてるから......」

慌てて田中くんに断りを入れようとしたら、彼は私の腕をギュッと掴んだ。

「ダーメ」

そしてそのまま私を強引に部屋に入れると、ガチャっと鍵を掛けた。

「せっかく真宵ちゃんと二人きりになれたのに、帰す訳ないじゃん」

「なっ......!」

「今から俺と真宵ちゃんでトランプ対決しようよ。負けたら勝った人の言うことを一つだけ聞く」

(何それ......そんなの無茶苦茶だよ!)

あまりにも勝手な彼の提案に戸惑って何も答えられずにいたら、田中くんがそんな私の肩をサッと抱いてきた。

「それともトランプじゃなくて別の楽しいこする?」

その言葉に思わずゾッとする私。

だって、何か嫌な予感がしたから......。

「と、トランプで大丈夫......」

「ちぇ、まぁいっか。トランプしよーぜ」

そして、田中くんの言う通りトランプで対決することになってしまった。

どうしよう。何か強引すぎて何が何だか分からないけど、とりあえず私が勝てば良いんだよね?そしたら解放してくれるんだよね?

だったらもう、トランプに付き合うしかない。

別に二階から飛び降りることだってできるけど、誰かに見られたら終わる。

「よーし、それじゃあ、ババ抜きでもするか!」

田中くんはベットに腰掛け、トランプを配っていく。

(ババ抜きかぁ〜!小さい頃よく遊んでたな〜!)

変成くんと初江王のポーカーフェイスが凄すぎて、最後に残るのは私と宋だった。宋は逆に分かりやすすぎるから勝てた。閻魔と勝負した時も分かりやすかった。

もしかしたら、手加減してくれていたかも.....ないな。昔から分かりやすかったわ、あの人。

すると、その時ジャージのポケットに入れていたスマホがピコン音を立てて、すぐさま取り出したら美穂ちゃんからメッセージが届いていた。

『真宵、今どこにいるの?トイレ?もうすぐ始まるよ』

(もうそんな時間なの!?)

私は一瞬、田中くんから少しだけスマホを背中側に隠しながら、返信を打った。

『ごめん、ちょっと他クラスの人に呼ばれて......今から戻る!』

その横で、トランプをシャッフルしている田中くんは全く状況を分かってない様子で、

「ほらほら、早くしようぜ〜真宵ちゃん」

とヘラヘラしている。

(うーん……やっぱり、無理やり来させたの怪しくない?これ……)

でもここで無理に騒いだら、逆にまずい気もする。

だから私は一旦、冷静を装った。

「……でも、約束通りトランプでしょ?」

「お、やる気じゃん」

「うん。私が勝ったら、すぐ部屋の外に出してね?」

「はいはい、もちろんもちろん。よーし、じゃあババ抜きスタートな!」

田中くんがカードを配り始める。

でもね。

ここで私は、ふと思い出した。

(そういえば......)

変成くんに鍛えられたババ抜き。

初江王に手加減一切なしで教え込まれた読心術スレスレの心理戦。

宋との意味不明な年末トランプ大会。

(……うん、この人、レベル低いかも)

田中くん、顔に全部出てる。

しかも、ババ持ってる時「すっごくドヤ顔になる」という謎現象付き。

(なんでそこで得意気なの?)

私は内心でツッコミつつ、しれっとカードを引いていった。

一枚、また一枚。

そして―――

「……あ」

突然、田中くんの顔が引きつる。

「え?もう終わり?」

私はそっと、自分の手札をテーブルに伏せた。

「あーがり!」

「えっ……ちょ、待って」

「約束通り、ドア開けてね?」

田中くんは苦虫を噛み潰したみたいな顔で、しばらく固まっていたけど、

「……チッ」

と舌打ちしたあと、ノロノロ立ち上がってドアに向かう。

ガチャ。

鍵が開く音。

その瞬間——

「真宵」

低くて、よく通る声が廊下から響いた。

「……大丈夫だった?」

そこに立っていたのは、

渋い顔をした変成くんだった。

しかも背後には、美穂ちゃんと何故か初江王と宋までいる。

変成くんは田中くんの方をチラッと見てから、

「この部屋、鍵が掛かってたけど?」

と、静かに一言。

田中くんは露骨に目を逸らす。

「いやさ〜、ちょっと話してただけだし?あと誰だよ!不法侵入だろ!!」

田中くんが宋と初江王を指差す。

「私達はここの宿泊客だ。な、オムライス」

初江王はオムライスに声を掛けると「ワン!」と元気良く鳴いた。

「不法侵入なんて人聞きが悪いな〜!」

いや、宋はいつも不法侵入してくるじゃん。という言葉を寸のところで飲み込む。

「へぇ」

変成くんは笑ってない目で微笑んだ。

「……じゃあ次は、俺と勝負しよっか」

「え、いや、俺は別に……」

「ババ抜きで勝負しようか」

ぽんっとトランプを机に置いた。

「負けたら―――」

少しだけ顔を田中くんに近づける変成くん。

「二度と真宵に近づくな」

―――一気に空気が冷える。

あ、これ。

田中くん、絶対に負けるやつだ。

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