誰かの首と胴体と
せらひかり
誰かの首と胴体と(01 身の上)
夜更けに公園を散歩していたら、生首にされちゃったから助けてほしい、と声をかけられた。
よくよく身の上話を聞くと、千年前のことらしい。それではもう、胴体はこの世にいないかもしれない。
相手にするのも面倒なので諦めるよう説得するが、生首は話を終わらせてくれそうにない。
「君がさっき埋めた新鮮な胴体でもいいよ」
とまで、言い出した。
「見てきたように言うね」
低い声を出すと、生首は茂みをガサガサと鳴らした。威嚇のつもりか?
「もういいんだ、影から影へ渡り歩くのにも疲れた。全然見つからないし。他の胴体で妥協する。胴体があればもう少し移動しやすくなるし、それでねぐらへ帰るんだ」
それに、と生首は言い添えた。公園なんかに埋めたら、いずれ出てくる。くれたら、長く使ってやるから、足はつかないよ、と。
なるほど。
くれぐれも人に見つからないよう言い含めて、生首を新鮮な胴体に乗せてやる。
首の方は別の場所に埋めたから、出会うことはないだろう。
別れを告げて、それぞれ別方向へ歩き出す。ふと、生首の方が立ち止まった。
「そうだ、名前を聞いていなかった」
「聞かなくていいだろう」
「聞くよ、君が何かしらで捕まれば、胴体の方を探す者がいるかもしれないし。うまく逃げおおせたいだけさ」
ちなみに、と生首が自己紹介する。頭を揺らしても首は落ちない。上手にくっついているようだ。
嫌々ながら名乗り返す。
疎ましい元恋人の胴体が、見知らぬ生首を乗せて楽しげにこちらの名を口ずさむ。
「ではまたいつか。胴体か私に用事ができたら、呼んでくれ」
そんな日は永劫来ない。
それぞれの道を進む他ないのだ。
そういえば生首がなぜ胴体を失ったのか、聞き忘れたが、もはやどうでもいいことだった。
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