淡い夢

僕の友だちのRとの話です。彼は変わり者というか……いや、僕も変わり者ですかね。

当時23歳で僕らは定職にも就かずプラプラしていた、今で言えばフリーターだとか言うんですか。バイトはしてましたからね、ニートではないわけですが。

彼は「なんか面白くないことないかな」なんて言いながら、ネットサーフィンをするのが趣味で……その当時はSNSなんてなかったですから、ネットの掲示板を探したりとかしてたんです。

そしたら、一つ面白い書き込みがありまして。


『疲れたし、もうなんか楽しくないから夢だけでも楽しもうかな?』


という出だしだったのは強烈に覚えています。

それで、その内容は、まあ今で言えばチープな明晰夢の方法なんですよ。

まあ、楽しくないと言うか、面白みもなく生きていた僕らですから、試してみることにしたんです。

その日からは「ダメだね」なんてメールのやり取りをするのが、まあ朝の日課みたいになりましてね。


するとある日を境にRからの朝のメールが止まったんですよね。だけど日中は普通というか、だから「まあ飽きたんだなー」なんて思いまして。そりゃそうですよね、『夢のコントロール』なんて荒唐無稽な話ですから。


それでそれから何ヶ月から経って、彼に「あれどうなった」って聞いたんですよ。したらRは「あれ?成功したって毎日メールしてるだろ?」なんて言うんですよ。


僕は「いやいや来てないよ」と。だけど彼は「来るよ、ほら」と僕にケータイを見せてくるんです。

そこには確かに「そうか」と毎回返信が入ってるんですよ。僕は思い当たりがなかったし、送信ボックスにも入っていないんで「変だね、怖いな」と言う話になりました。


まあ、しかし学もない僕らですからね「そんなこともあるのか」なんて流してたんですよ。


で、その次の日からは彼から「また夢見たんだよね」って朝のメールが来るようになりました。

都度、内容を送ってくれるんですが大体は『夢バイト先の女の子とデートした』とか『パチンコで大当たり』とか、そんな他愛のないもので……


しかし、ある時から「毎回同じ女と会うようになった」と言うんですよ。それからは、メールだけではなくて実際に会った時もその子の話で「今日はドライブデートに行った。車も免許もないのにね」とか「映画を見に行ったんだけど、内容はめちゃくちゃだったな」とか「水族館でデートしたんだ」とか。

その話をする彼は、どこか自慢げと言うか……まあ、女性とのそういう関係は僕らはご無沙汰でしたからね。


半年すると彼が「もう見なくて良いんだけどな」って愚痴をこぼし始めたんです。そして、気恥ずかしそうに「バイト先の女の子と付き合うようになった」と。


「え?あのAさん?」

「そうそう!一回夢に出てきた、あの子」

「そうなんだ」

「だから、もう用はないと言うか」

「お前は、夢をコントロールしてるんだろ?じゃあ、出なくすることもできるんじゃないか?」

「そうもいかないんだ。その女は消えてくれないんだ」


そんな会話が続きましてね。


「今日は?」

「また出た」


それが毎朝のメールになりました。


ある夜、バイト終わりに彼が「いやー今日は変な夢でね。Aさんがあの女に殺されちゃうんだよね、俺の部屋で」と笑いながら言うんですよ。

「困るよね」なんて笑いながら。


そしたら、その日以来ぱったり出なくなったようです。


それから数日してですかね、彼はパチンコで大当たりを出したんで「焼肉でも行こうぜ」と言う話で2人で夜までご飯を食べて家に帰ったんですよ。


解散して、少ししたら電話が入ってですね。


「困ったことになった」と……だけどすぐに女の声に電話先が変わりましてね。その女の金切り声が聞こえたんですよ。

以来、会えてないですね。彼とは……

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