木下を裏切りによって始末した子役の竜也は、焼肉プルート御曹司・星野の野望達成に決定的な一歩を踏み出した。佐伯は、木下を救えなかった後悔を胸に、美咲の母親とAIブースターの残骸を抱え、竜也と星野が企む**『裏切りと実利の支配』**を阻止するため、最後の力を振り絞っていた。

​しかし、終末世界は、人間の狂気だけでなく、自然の摂理すらも歪ませ、新たな脅威を人類に突きつけた。

​　核攻撃後の日本全土。

​　浦和の核攻撃による生態系の破壊と、社会機能の崩壊は、山野に潜んでいたクマを、食料とテリトリーを求めて人間の居住地へと駆り立てた。

​　各地の街や村に、巨大なヒグマやツキノワグマが同時多発的に襲来する事態が発生した。人々は、核の恐怖だけでなく、**「自然の捕食者」という、原始的な恐怖に直面することになった。これは、『絶望のシステム』が、人間社会の『文明』という壁を打ち破り、『弱肉強食の法則』**へと回帰させた、最悪の現象だった。

​

　関東近郊の郊外都市。

​　物資の略奪と、わずかに残された秩序の維持を目的とする、武装集団の一つに、**加藤清一郎（かとうせいいちろう）**という、冷酷なリーダーがいた。彼は、元自衛官であり、核攻撃後の混乱に乗じて、人々を恐怖で支配していた。

​　加藤は、この**「クマの全国襲来」を、自身の『支配欲』**を満たすための絶好の機会と捉えた。

​「見ろ！クマだ！この終末世界で、人間はただの肉になった！だが、恐怖を支配すれば、俺は神になれる！」

​　加藤と彼の数人の手下たちは、廃墟となったショッピングモールの駐車場で、巨大なヒグマに遭遇した。クマは、飢餓と興奮で凶暴化しており、加藤たちに向かって咆哮を上げた。

​　加藤は、この状況で、最も冷酷な判断を下した。

​「おい、お前ら！行け！クマを引きつけろ！」

​　加藤は、自分の最も信用していない手下二人を、餌としてクマの前に突き出した。手下たちは恐怖に顔を歪ませたが、加藤の銃口が背後にあったため、逃げ場はなかった。

​　手下たちは、絶望の叫びを上げながら、クマの獲物となった。クマは、手下たちの肉体を貪り食い、その血と肉片が駐車場に飛び散った。

​　この地獄のような光景を、加藤は冷静に、そして満足げに見ていた。彼は、自分の手下を犠牲にすることで、自身の命と、希少な銃弾を温存したのだ。

​そして、手下たちがクマを引きつけ、最も無防備になったその瞬間。

​　ドォン！ドォン！

​　加藤は、手慣れた手つきで、所有していた高精度ライフルを構え、躊躇なくクマの頭部を正確に撃ち抜いた。クマは絶命し、手下の死体の横に崩れ落ちた。

​　加藤は、ライフルから立ち上る硝煙を払い、冷酷な笑みを浮かべた。

​「無駄死にではない。彼らは、俺の**『支配の礎』となった。この世界で最も重要なのは、『人間を、駒と餌として見る冷徹さ』**だ」

​　加藤のこの行為は、**『終末世界における究極の実利主義』**を示していた。彼は、人間を餌として使い、支配を強固にするという、神崎竜一の思想をも超える、原始的で、かつ純粋な悪意の体現者だった。

​　その頃、佐伯は。

​　佐伯は、この加藤の非道な行動の報を、微弱な無線通信で受け取った。

​「人間を……餌に……」

​　佐伯の脳裏に、かつて焼肉プルートで、子役の竜也が**『裏切り』**によって人間を支配した光景がフラッシュバックした。

​「裏切り、実利、そして餌。絶望のシステムは、我々の**『人間性』**を、最も原始的な形で消費しようとしている……」

​　佐伯は、美咲の母親とAIブースターの残骸を抱え、最後の決意を固めた。この終末世界で、『人間の尊厳』を取り戻すための、最後の戦いを挑むしかない。佐伯の次のターゲットは、『人間を餌にする究極の支配者』、加藤清一郎となった。