過去と今

ドリンクバー対決は2回戦に突入した。

次はお互いの好きなドリンクを交換して早飲みするらしい。

そして、ドリンクを注ぎにタカヤとヒロシが立ち上がると、他の3人も一緒に立ち上がってドリンクのおかわりに向かった。

葵は再びアイスティーを、静香はカプチーノを、蘭子はリンゴジュースを注ぐと、タカヤは野菜ジュースをヒロシに渡し、ヒロシはコーラをタカヤに渡す。

すると、2人はとても嫌そうな顔をして受け取った。

恐らく、お互い苦手なドリンクなのだろう。

「おいおい。コーラって……完食でも気を抜かないのが俺流じゃなかったのか?」

そんなタカヤに向かって、葵はついさっき聞いたことをそのまま引用して呆れ気味に言う。

「勝負となれば話は別だ。それに、騎士のクビがかかっている」

しかしタカヤは冷静に、そして真面目に答えるのだった。

「いや……、あれは蘭子の冗談だと思うぞ?」

冗談が通じていないタカヤにそう伝えるが、当のタカヤは勝負に夢中で全然聞いていないようだった。

そして、まだ戦えると言った目をしながら席へ戻ると、2人で勝手に2回戦を始めていた。

どうやら決められた時間内に何杯飲めるか競っているらしい。

一気飲みしては席を立ち、おかわりを注いで持って来るを繰り返す2人を見て葵が呟く。

「ったく……、いつまでやるつもりだよ」

そう言ってポテトをつまむと、その独り言に静香が反応した。

「決着がつかなそうね……」

1回戦で長丁場になる事を予感していたらしく、静香もこの勝負に飽きてきたようだ。

「見たところ……互角のようだな」

そこに蘭子が難しい顔をしながら解説者の様に話に入って来る。

案の定、2回戦でも決着は着かず3回戦目に突入するが、ついに蘭子も飽きてきたようだ。

「よーし次!クロちゃん!次はタバスコ倍倍ファイトな!」

「望むところだ!お前の舌など灰にしてくれる!」

2人とも真っ赤な顔で汗を流しながら飲み比べを続けている。

その隣では蘭子がつまらなそうにストローでコップをかき混ぜていたので、葵が呆れながら蘭子に話しかけた。

「……なあ蘭子、タカヤってあんなアホだったか?」

苦笑いをしながら問いかけると、蘭子は手を止めてリンゴジュースを一口飲んだ。

そして、視線を上に向けながら、在りし日のタカヤについて語り出した。

「……タカヤはな、昔は……あんな感じだったんだ」

「お?」

今のタカヤからは想像もできない話に、葵は驚いて興味を示す。

蘭子はコップを両手で持ちながら続ける。

「あいつ、騎士になって……終わらない戦いの中でどんどん変わっていったんだ。目つきも鋭くなって、笑わなくなって……。子どもの頃は、もっと無邪気で、いつもわたしとふざけ合っていたのに」

遠い目をしながら、どこか寂しそうな表情で思い出に浸っている。

隣ではタカヤが「心頭滅却すればタバスコもまた涼し!」と叫びながらテーブルに突っ伏すように倒れた。

蘭子は、そんな姿を横目で見て小さくクスッと笑う。

「……でも、今のあいつは少しずつ戻ってきてる。私が知ってる、本当のタカヤに」

そして、葵の目を見ながら、真剣な表情で言った。

「……なるほどな。アイツが真面目過ぎてカッチカチだったのは、そんな事情があったんだな」

葵は、初めてタカヤに会った時の事を思い出していた。

やっぱり気を張ってたんだな。

「そう。でもわたしは、タカヤとは……いつまでもあの時のままで居たかっんだ」

蘭子は下を向くと、再びストローでコップをかき混ぜ始めた。

初めて知った2人の過去。

葵は、寂しそうに語る蘭子の様子を見て、気持ちを察してあえて微笑んだ。

「王女になっても、ずっとガキ同士でいられる相棒で居て欲しかったのか」

「……うん!」

葵が自分の気持ちを察してくれた事に嬉しさを感じた蘭子は、自然と笑顔になった。  

その正面では、静香がカプチーノを飲みながら柔らかい微笑みを浮かべて2人のやり取りを黙って聞いている。

「決着をつけるぞ……ヒロシ!」

「望むところだッ!最強ドリンク、同時にいこうぜ!」

そんな会話など聞いてもいない激闘中の2人は、同時にグラスを掲げ、ゴクゴクと一気にドリンクを飲み干した。

そして次の瞬間、同時に目を見開いた。

「ぐああああああああああ!!!」

「ぬおおおおおおおおおお!!!」

口から赤色の謎ドリンクを垂らしながら叫びだし、まるで血でも吐いたかのようなグロテスクな状況が広がっている。

もはや勝負とは言えない状態になり、周りのテーブルからの視線が冷たくなってきた所で、静香がぴしゃりと机を叩いて一喝する。

「……子どもか!あんたたちは!」

静香の目は、とても冷たい目だった。

言われた2人はわかりやすく狼狽えている。

そして、蘭子もストローを咥えたまま、ジト目で2人を見て言う。

「……もう引き分けでいいだろ?っていうか、この勝負、ドリンクの勝ちだ」

流石に悪ノリが過ぎた事を理解しているらしく、蘭子節で審判を下す。

「いや、もう……2人とも救えねぇな」

続いて葵がボソッと呟くと、場が一旦静かになった。

しかし、ヒロシとタカヤは同時に「まだ負けてねぇ……!」と呻きながら立ち上がろうとしている。

どうやら引き分けは認めたくないらしい。

だが、そんな2人を静香が再度睨むと、顔を見合わせたまま大人しく座って沈黙してしまった。

もうこの勝負、静香の勝ちでいいだろう。


2人が大人しくなったところで、静香が申し訳なさそうに言う。

「盛り上がっている所悪いんだけど、私、これからちょっと用事があるの」

腕時計を見ながら、わかる人だけに裏の仕事に行かなければならない事を伝えた。

そこで空気を察した葵が2人に問いかける。

「それじゃあ、そろそろお開きだな。ヒロシ、タカヤ。勝負は引き分けでいいな?」

「仕方ない。ヒロシ……いい勝負だった」

「おう!またやろうぜ!クロちゃん!」

問われた2人は握手しながらお互いを称え合っている。

どうやら引き分けを認めてくれるらしい。

っていうかまたやるのか……。

そして、みんなでレジに向かっていると、満足気な顔をしたタカヤが全員に向かって言う。

「愉快な時間を過ごさせてもらった。お礼にここの支払いは任せてくれ」

なんと、全員分の料理を奢ってくれるらしい。

「タカヤ、ちゃんと領収書もらっておけよ。あと、ちゃんと接待費でつけとけよ」

支払いをするタカヤの後ろでは、蘭子が指示を出している。

「その辺はこっちの世界と変わらないんだな……」

葵は経費のシステムが蘭子達の世界でも同じだった事に驚き、そもそもファミレスで接待する王族ってなかなかシュールだよなと思いながら店を出るのだった。


全員がファミレスから出た直後、静香は「じゃ、私はこれで!」と足早に駅の改札方面へと去って行ってしまった。

危ない場所へ向かうのだろう。

ヒロシ以外は何も言えずに背中を見送っていた。

「じゃ、俺も自主練して帰るからまたねー!」

続いてそのヒロシが手を振って去っていく。

すると、意外にもタカヤが1人で帰ろうとする素振りを見せた。

「俺も用事ができた。アオイ、蘭子を任せるぞ」

そう言ってさっさと立ち去ろうとする。

「おいおい、どこ行くんだよ?」

いきなり蘭子を任せられた葵は慌ててタカヤを呼び止めた。

「さっきスマホで調べたが、この町にも訓練施設があるようだ」

タカヤはポケットからスマホを取り出すと、地図アプリの画面を見せてそのまま立ち去ってしまった。

「お前、使いこなしてるな……。って言うかそれ、ただのフィットネスジムじゃねーか!」

その後ろ姿を見ながら葵はつっこむが、タカヤは右手を挙げて手を振りながら人混みに消えて行ってしまった。

そして、残された葵と蘭子はその場で立ち尽くしている。

「……2人になっちまったな」

少し気まずそうに葵は言う。

「いいじゃないか。ちょっと話したいこともあるし」

しかし蘭子は、真剣な顔で葵に言うのだった。


葵と蘭子は、駅からほど近い公園にやってきた。

オレンジ色の夕焼け空が広がった広場には、学生やサラリーマン達が、右に左に足早に過ぎ去っていく。

公園の真ん中には噴水が設置されているが、今日は噴水を上げる時間が終了しており、静かな水面にオレンジ色の空を映していた。

その噴水が正面に見えるベンチに2人は並んで座る。

「で、話したいことって何だ?」

葵は座るや否や単刀直入に蘭子へ問いかけた。

蘭子は話しづらいのか、下を向いて膝の上で人差し指をツンツンしながら照れくさそうに話し出した。

「……ドリンクバー、楽しかったなって……」

多分、これは本題ではない話だろう。

「お前、後半はストロー咥えて呆れてただけじゃねえか」

言いづらそうにしているので、葵は微笑みながら蘭子が話しやすいようにと雰囲気を作った。

蘭子は葵の優しさを汲み取って話を続ける。

「でも、見てて思ったんだ。あんなふうに笑えるのって凄くいいなって。子供みたいにバカやって、はしゃいで、他の人達には迷惑かけてたかもしれないけど、みんながああやって笑い合う世界ができたら、どんなに楽しいだろうって」

蘭子は夕焼け空を見上げながら、自分の理想とする世界を思い浮かべているようだった。

「最初はな、自分でドリンクを注ぐという事の何が面白いのか理解出来なかったんだ。でも、やってみてわかった。楽しくなる工夫がいろんな所にあったんだ。本当にこの世界の人達は笑顔を作る魔術師のようだって感じる」

足をブラブラさせて微笑みながら続ける。

「タカヤのことも、あんなにはしゃいでいるアイツは久しぶりに見た気がする。あおい……。お前のおかげだ」

続いて葵の目を見て笑顔で言った。

「俺は何もしてないけどな。ただ、あの真面目男があんなキャラだったってのは意外だったぞ」

葵は今日1日の出来事を思い出しながら蘭子に返事をした。

「きっかけを作ったのはあおいだ。それで……、ファミレスで昔の話をしただろ?」

蘭子はそう言うと、言いづらそうに少し間を置いて、恥ずかしそうに話の続きを始めた。

「実は……な、タカヤには、昔、告白されたことがあるんだ」

どうやらこれが本題のようだ。

「なるほどな。お前はタカヤの気持ちを知ってるんだな。まぁ……だいたい想像できるけど。で、どうしたんだ?」

葵に話の続きを促された蘭子は俯きながら続ける。

「……受け入れられなかった。だって……、タカヤがわたしより先に大人になっていくのを感じて、でも、わたしはずっとお互い子供のままでいられると思ってたから……、怖くなって、駄々をこねるみたいに、突っぱねてしまった」


そのまま蘭子は幼い日の思い出を話し始めた。


――――

 

6年前、城の裏に広がる野原にて……


芝生のような背の低い植物で覆われた広場に、当時9歳の蘭子とタカヤが隣り合わせに座っていた。

「タカヤ!これ、わたしが作った花の飾りあげる!」

蘭子は花飾りをタカヤに渡すと、タカヤは戸惑いながら受け取った。

「え?俺に?でも俺……男だしこういうの似合わないよ」

そして照れながら蘭子の頭に花飾りを乗せてやった。

せっかく作ったプレゼントを拒否されてしまった蘭子は、頬を膨らませて拗ねてしまう。

タカヤはそんな姿を見て慌ててご機嫌を取る。

「ありがとう蘭子!気持ちは嬉しいよ!でも、こういうのはお姫様の蘭子の方が似合うんだから笑ってよ」

「おまえにあげたんだ。おまえが被らなくてどうする?」

頬を膨らませてはいるが、表情は笑顔を隠せていない。

ご機嫌取りは成功したようだ。

「タカヤ。明日も一緒に遊べる?」

門限の時間が迫る中、蘭子はタカヤと約束をしようと聞くが、タカヤからは聞いた質問とは全く違う答えが返ってきた。

「蘭子。俺は来週10歳になる!」

「それがどうした?」

蘭子は話の意味が分からず思わず聞き返した。

「10歳になると騎士の訓練が始まるんだ!父上が言ってた。俺は、蘭子の近衛騎士になるんだ!」

タカヤは嬉しそうに話しているが、その横で蘭子の表情は曇っていった。

「それじゃあ、あんまり遊べなくなるのか?」

寂しそうに蘭子は聞く。

「うん。あんまり遊べなくなると思う。でも、いつでも会えるよ!何てったって、俺は蘭子の騎士になるんだからな!」

タカヤは気持ちが舞いがってしまい、蘭子の表情に気がついていなかった。

「蘭子!俺はな、おまえと許嫁だからとかじゃなくて、蘭子の事が大好きだ!だから、蘭子の騎士になって、蘭子を守る事ができるのが嬉しいんだ!」

タカヤの溢れ出した想いは止まらなかった。

蘭子は、タカヤの気持ちが素直に嬉しかった。

でも、それ以上に、突然押し寄せてきた現実に押しつぶされそうになっていた。

明日も明後日もいつまでも、こうやって2人で遊べると思っていたからこそ、それは蘭子にとって辛い現実だった。

「……蘭子?」

何も言わず、俯いて震えている蘭子にようやく気がついたタカヤは肩に手を置こうとする。


バシッ!


しかし、その手を勢いよく弾かれてしまった。

そして、蘭子は目に涙を浮かべてタカヤを睨みつけた。

「……やだ!!騎士なんかならなくったっていいじゃん!タカヤのバカっ!タカヤは私の友達だもん。ずーっと友達!」

そう叫ぶと、蘭子は1人で走って城へ帰ってしまった。

残されたタカヤは複雑な想いを胸に、その場に1人で立ち尽くしていた。


この日を境に、2人の関係は変わってしまった。

毎日のように遊んでいた2人は、『姫君と騎士』という関係になってからは遊ぶことも冗談を言い合う事も無くなってしまった。

手を伸ばせば届く所に居るのに、お互いの心の距離は、ずっと遠く感じるようになってしまった。

蘭子は、あの時の事を後悔していた。

あの時言えなかった本当の気持ち。

それを伝えることができていたなら……。


――――

 

蘭子が語り終えた後、少しの間を空けて真剣な顔で葵は問いかける。

「……それで、今は?」

蘭子は再び空を見上げて答える。

「わからないんだ。でも……もう逃げたくはない」

夕暮れの公園に優しい風が吹き抜け、蘭子の髪を揺らした。

「……それでも、わかったこともある。人は変わっていく。人だけじゃない。時代も何もかも。『今』と言う時は一瞬で、かけがえのない時間なんだ。だから……あおい。『今』を大切にしたいから、お前にだけは打ち明けておきたい」

「……」

葵は返事をせずに黙っている。

しかし、その沈黙が話を聞くという態度になっていた。

蘭子は真剣な表情になり、葵の目をしっかり見つめた。

「あおい……おまえに言っておきたいことがあるんだ」

「な……、なんだよ、改まって」

いつもと様子が違う蘭子に、葵は思わず背筋を伸ばして真面目な声色で返す。 

蘭子は、少し息をのんでから、膝の上でぎゅっと手を握りしめると、意を決して言った。

「わたしは……あおいのことが好きだ!」

そして、言った瞬間、顔を真っ赤にして目を逸らした。

しかし、そのまま蘭子は話を続ける。

「よ……よくわからないんだ。恋とかそういうのは、まだ。でも……自分の気持ちに嘘はつきたくなかった。わたしは、あおいと居ると楽しい。あおいは色んなことを教えてくれる。出会ってまだ間もないが……こんな気持ちは初めてだ。だからきっと、それはそういう事なんだろうって思うんだ」

言葉を言い切った途端に恥ずかしさが押し寄せてきて、耳まで真っ赤にしながら下を向いた。

思わぬ形で告白された葵も、耳まで赤く染めて驚いたあとに照れ笑いしながら返す。

「……バカ正直だな、お前は」

しかし、すぐに優しい声で続ける。

「でも、蘭子のそういうとこ……俺は嫌いじゃない。ちゃんと伝えてくれてありがとな」

少しの沈黙の後、葵は頭をかきながら話を続けた。

「俺もさ、正直どう返せばいいかわかんねぇ。でも、蘭子が本気で言ってるのは伝わった。だから、ちゃんと受け止めるよ」

そう言うと、不意に蘭子と目が合ってしまい、お互いに気まずくなって慌ててそっぽを向いてしまう。

無言の時間が数秒過ぎて、葵が気まずさを誤魔化すように話題を変えた。

「……なんかさ、タカヤに聞かれたら俺、また斬られそうな話だな」

冗談っぽく言ったつもりだったが、この話はするべきではなかったと気がつき慌てて口を紡ぐ。

それを聞いた蘭子は少しムッとしながら腕を組んだ。

「今のタカヤはそんなことしない!」

そう言って葵の方を向くが、再び目が合い頬を赤くして視線を逸らしてしまう。

「……たぶん」

そして、視線を逸らしたままボソッと呟いた。

「おいおい、たぶんかよ……。勘弁してくれ」

葵はクスッと笑うと、蘭子もつられて少し笑った。

2人の間には、ぎこちないけれど温かい空気が流れていた。



その時だった。



ピロン!

ピコン!



2人のスマホから通知音が同時に鳴ったのだ。

まず、葵がポケットからスマホを取り出して画面を確認する。

「タカヤからだ。……ん?『助けてくれ』……?」

タカヤからのメッセージを読み上げる葵の表情が一気に真剣になった。

蘭子も慌ててスマホの画面を開き、タカヤからのメッセージを見て驚いている。

何か起きたのかと、2人が顔を見合わせて息を飲むと、続けてメッセージが届いた。



ピコン!

 


『助けてくれ。ランニングマシンの速度を最大にしたら降りられなくなった。俺は今、走り続ける地獄にいる。』




「………………アホか」

葵は呆れながらそっとスマホの画面を消した。

「ぷっ……!」

隣では蘭子が吹き出している。

そんな2人の事など無視するかのようにメッセージが続く。


ピコン!

 

『マッチョ達が俺を笑っている』

 

ピコン!

 

『止まらん』

 

ピコン!

 

『走り続けている』

 

ピコン!

 

『助けてくれ』


2人は呆然と、無言でメッセージを読み続けていた。

葵はため息をつくと、呆れながら言う。

「……ったく、雰囲気ぶち壊しじゃねーか」

せっかく頑張って気持ちを伝えてくれた蘭子との大事な時間を邪魔されてしまい、思わず不満が出てしまう。

「あいつ……何やってんだ……?」

そして蘭子も呆れていた。

葵は、タカヤから大量に送られてくる『援軍要請!』のスタンプ爆弾を見つめながらボヤく。

「まったく、アイツは真面目すぎて加減を知らねぇんだよな。まぁ、スマホでメッセージ送ってくるぐらいだから余裕あるんだろうけど……」

「ほんとにもう……騎士のくせに何やってるんだか」

葵のスマホの画面を覗き込みながら、蘭子は苦笑していた。

「しゃーねえ、助けに行くぞ。お姫様!」

「うん!」

世話の焼ける困った騎士さんを助けるべく、意を決したように立ち上がった葵に続き、笑顔で蘭子も立ち上がった。

2人は呆れ半分、笑い半分でジムへ向かう。

空はもうオレンジ色から藍色に変わっていた。

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