「わざわざ待ってたの?」

 公開授業が終わって、俺は少しだけ担任の先生と話をさせてもらった。前みたいに応接室で面談のように、というわけではなく、廊下の角で立ち話程度の内容だ。

 俺は保護者じゃないしそこまで深い話をするわけじゃない。所詮ただの大学生だし、できることには限りがある。だから話したのは多少の雑談と、


「何かあれば遠慮なく学校を頼りなさい」


 というありがたいお言葉だけだ。何かあったら頼らせてもらおう。何があるのかはわからないけど。

 それから学校の近くのお店で日葵の学校が終わるまで時間を潰した。せっかくここまで来たんだし、日葵と一緒に帰ろうかな、なんて思ったからだ。


 ……なんかもう、日葵が俺の部屋にいることが当たり前になりすぎてるな。一緒に帰ろうなんて自然に思ってしまうくらいには、日葵が俺の部屋にいることに違和感が無くなってしまった。

 まあ最近は実家に帰らずずっと俺の部屋で寝泊まりしてるし。さもありなんというか。俺、日葵の実家の場所も知らないんだよなぁ。


 今の状態が健全じゃないことはよくわかってるつもりだ。でも、だからといってどうしたらいいかなんてわからない。

 日葵がもっと小さければ、俺も児童養護施設とかに連絡してどうにかしてもらったと思う。今もそうしてもらった方がいいかな、なんて思う気持ちももちろんある。


 でも、日葵はもう高校三年生の秋まできてしまっている。それに加えて、今はほとんど自立しているというか、自分でお金を稼いで生活している。それも前とは違う、コンビニのバイトっていうまっとうな手段でだ。俺の部屋に転がり込んでいるということに目をつむればだけど。

 心穏やか……かどうかははっきりとはわからないけど、安定して生活できてるし学校にも通えるようになってる。それが施設に入ってくださいってなったら、崩れてしまうかもしれない……なんて。あの日の日葵を見たらそう思ってしまうのも無理はないと思う。


 全部俺の勝手な想像だ。実際はそうじゃないかもしれないし、俺が考えてる通りかもしれない。現実にそうなってみないとわからないことではあるんだ。

 ――いろいろ言い訳を考えているけど。そういう言い訳と同じくらい、俺が日葵と離れ難く思っているってことも、あるにはあるんだ。


 なんてぐだぐだと考えながら、学校が終わる時間に合わせて日葵の学校の校門へと足を運ぶ。入校許可証は返却してしまったから中には入らずに、校門の傍で立って待つ。

 守衛さんも俺の顔はちょっと前に見たばっかりだから何も言ってこなかった。俺以外に子供の帰りを待っているような親は見えないけど、まあ高校生にもなってあんまり親と帰る子供もいないか。もしかしたら見えないちょっと離れたところで待機してたりするのかもしれないけど。


 校門から出て行く高校生たちを見ながらぼーっと日葵が出てくるのを待つ。友達同士集まって騒ぎながら帰って行く様子は、俺が高校生だった時を思い返させてくれた。まだ二年しか経ってないのにちょっと懐かしい。

 校門を通っていく高校生たちの中には俺にちらちらと視線を向けてくる子たちもいたけど、特に話しかけられることはなかった。


 そんなこんなで日葵が出てくるのを待っていると、校舎の中から日葵らしき女子生徒が出てくるのが見えた。

 周りの子で髪を染めてる子なんていなくて、黒髪か明るくても茶髪くらいの子しかいないから青い髪の日葵は結構目立った。


 その日葵の横には……友達か? 一人の男子生徒が並んで歩いていた。ツーブロックにした髪にちょっと日に焼けたような肌。明るい雰囲気のイケメン男子だ。

 日葵に笑顔で話しかけている。内容までは聞き取れないけど、日葵もそれに答えているみたいだった。


 ……学校に居場所がない、みたいなことを前に言ってた気がするけど。友達がいないとか、そういうわけじゃなかったのか。

 いや別に。別にあの男子がイケメンだからって、ちょっと心にモヤっとしたものがあったとか、そんなことは全然ないから。そんな、別にねぇ? 日葵と付き合ってるわけでもないのに。


「――だからさ、今度遊びに行こうよ!」

「忙しいって言ったじゃん。――って」


 校門に近付いてきた日葵が、俺が立っていることに気付いた。隣の男子との会話を中断して、目を丸くして俺の顔を見つめてくる。


「お疲れ、日葵」


 俺とあと数歩って距離で固まってしまった日葵に声をかける。


「な、なんで……ナツがいるわけ?」

「いや、せっかくだから一緒に帰ろうと思ってさ」


 こんな機会もうないだろうし。……一緒に出掛ける機会とかじゃなくてね? 学校から一緒に帰るって機会ね。そもそも俺が日葵の高校に来ることがないし。


「わざわざ待ってたの?」

「わざわざって程でもないけど、まあ。……隣の男子は友達?」


 日葵との会話が中断されて手持無沙汰になっていた男子生徒について尋ねる。ここで声をかける必要があるかどうかはわからないけど、無視するのも気まずいし。

 俺が日葵に尋ねると、日葵が答える前に男子生徒が自己紹介をしてくれた。


「あ、俺糸原健介って言います。えっと……小鳥遊のお兄さんですか?」


 糸原君の顔を見ていると、そう言えば日葵の教室にいた男子生徒だったなと思い返す。なら糸原君は俺が教室にいたことも知ってるだろうし、こうして日葵を迎えに来ているんだから兄だと思っても仕方ないだろう。

 実際には違うんだけど、だからといって赤の他人だなんて言うのもここにいる説明がしづらい。だから俺は糸原君の疑問を肯定するような返事をしようとして。


「まあ、そう思ってくれて――」

「ちがう」


 短い言葉で日葵が俺の言葉を遮った。思わず日葵の方に視線を移そうとして、いつの間にか距離を詰めてきていた日葵に腕を掴まれた。


「ひ、日葵?」

「ほら、行くよっ」

「あ、ちょっと! なんかごめんな糸原君!」

「いいから行くよっ」


 結構な力で引きずられるように日葵に引っ張られた。突然の出来事に、思わず糸原君に謝罪だけ入れて引っ張る日葵に合わせて俺も歩き始めた。

 俺と目を合わせようとせずに強引に進もうとする日葵と、ぽかーんとしてあっけにとられた表情の糸原君が印象的な、そんな放課後の帰り道だった。











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