『神待ち』女子高生と大学生の俺が、夜の街で出会ってから付き合うまでの話。
Yuki@召喚獣
「あなた、ばかじゃないの?」
人間、どんな奴でも気まぐれを起こすことはあるもんで。いやまあ気まぐれとかっていうレベルを超えていたように思うんだけど、とにかくこんなのは酒に酔ってたせいだと開き直らなければやってられないようなことをしていて。
その時の俺は飲みたくもない酒をたらふく飲まされてお店のトイレで吐き出してしまい、二度とこんなサークルに来るかと酔った頭で憤りながら夜の街を歩いていた。
トー横っていうの? 別にここは東京じゃないけど、東京じゃなくてもそういった場所はそれなりにあって、俺が歩いているのはそういった場所で。
お世辞にも笑顔があふれる出会いの場、とは言えない光景がちらほらと見られるそこに立ち入ったのは偶然だった。
本当にただの気まぐれだったんだ。素面だったら絶対にそんなことしなかったんだ。
俺がそこにうずくまってた女の子に声をかけるなんてこと。
「体調悪そうだけど、大丈夫?」
「……なに? 今はそういうの募集してないんだけど。……あんたお金持ってなさそうだし」
「なにぃ? 俺が貧乏人ってか!? そりゃ大学生だからその通りだわ! ガハハ!」
「はぁ……なんなのこの酔っ払い。うざ」
幼さの残る可愛らしい顔立ちを隠すような濃いメイク。首筋にペタペタと貼られた絆創膏と、オーバーサイズのパーカーワンピースに身を包んだ、ウルフカットの髪を青く染めた女の子。
この世の全てが敵だと言わんばかりに険しい目をしたその子が、俺にとってどんな存在だったのか。
それがその女の子の名前だった。
どんな会話をしていたのかなんて細かいところは覚えていない。体調が悪そうだった日葵に話しかけて、うざがられながらも何故か会話が続いて、家に帰れないっていうから俺が一人で暮らしている家に上げて、シャワー浴びさせて、何となく俺が髪を乾かしてあげて。
そんでその辺で限界がきて、日葵だけベッドに上げさせて俺は床で爆睡だ。日葵の言う「そういうの」なんてその時は欠片も頭になかった。
酔うと人の本性が出るっていうけど、なんていうの? こんなの流石に俺の本性じゃないよ。日葵可愛いし、そりゃそういうチャンスがあったら俺だってあやかりたいと思うよ?
でもさ、しょうがないじゃん。嫌いな酒で無理やり酔わされてて意味わかんないくらい頭ぐるぐるだったんだから。そもそもちゃんと理性があったら、あんな場所でうずくまってる見知らぬ他人に声をかけたりなんかしないよ。
「あなた、ばかじゃないの?」
次の朝ガンガンに痛む頭を抑えながら目を覚まして、開口一番日葵に言われたのがその一言だ。
「……返す言葉もございません」
見ず知らずの人間を家に上げて、無警戒で爆睡するなんて本当に馬鹿にもほどがある。日葵がそのままそこにいてくれたからよかったものの、酷いやつだったら俺の金やらクレカやら貴重品なんかやら持ち出されていってもおかしくなかった。
俺も俺で昨晩の記憶なんて本当にあいまいで、起きたら見知らぬ可愛い女の子が部屋にいるもんだから完全にビビり散らかしたし。まあ床に転がってる俺とベッドで膝を抱えて座ってる女の子って様子からして何もなかったのは一目瞭然だったけど。服も昨日サークルの飲み会に出かけたときのままだったし。
「いつもこんなことしてんの?」
「そんなわけないじゃん」
こんなことっていうのは女の子を捕まえて(比喩表現だよ!)部屋に泊めてるとか、そういうことだろうか。
そんなわけないし、そもそも俺は女の子と喋るのは苦手なんだ。酒にでも酔ってなきゃ自分から話しかけになんか行くわけない。
「じゃあなんで」
「酒に酔ってて……」
「酒に酔ってたら家で女の子のお世話して、何もせずに満足そうに爆睡するんだ?」
「いや、そんなことは……」
マジで何やってんだ俺。気まぐれにもほどがあるだろ。意味が分からん。
自分が信じられないし、この状況をどうしたらいいのかもわからん。どうしたらいいんだ? 誰か教えてくれ!
そんな風にどうしたらいいかわからずにあたふたしていた俺がおかしかったのだろうか。
「ふふっ……変な人」
年相応な顔でクスリと笑った日葵の顔が印象に残った。
その顔に俺が一瞬見惚れてしまうのも無理はないに違いない。だって、そうだろ?
それくらいその時の日葵の顔が可愛かったんだから。
「あんた、名前は?」
日葵にそう聞かれて、そう言えば自己紹介すらまだしていなかったことにその時初めて思い至った。
これっきりの出会いかもしれないけど、名前くらいはお互い知っておいたっていいだろう。そう思って、俺は日葵に自己紹介をした。
「俺の名前は――」
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