第4話 カメの下準備
ねぐらに帰ったカメはせっせと仕込みを始めた。
器用なカメであった。
ニンジンを円筒型に切り取ると、底の方を何か所か筋状に切り取り、そこに薬を仕込んでいった。
元通りに嵌めると茎の根元の円形の部分と重なって切り取ったようには見えない。
カメはほくそ笑んだ。
散々馬鹿にされプライドを傷つけられたのだ。
これでウサギを見返すことが出来る。
カメは薬を仕掛けたしたニンジンをコースのどの位置に置くか検討し始める。
山のてっぺんまでのレースコースは曲がりくねってアップダウンしている。
スタートラインで開始を見守る森の仲間からもゴールラインで待っている森の仲間にも見えない位置にニンジンを仕掛けなくてはならない。
仕掛けたニンジンもニンジンを食べているウサギも見えない場所でなくてはならない。
ウサギの足は速い、薬が効き始める前にゴールインしてしまうかもしれない。
よし、最初の下りの坂道でスタートラインの仲間たちから見えない場所に置こう。
カメは明日の天気を気にしたが、さっそくニンジンを背負って出かけていった。
時間がかかりそうならスタートラインの近くで野営するつもりだった。
カメの心配は取り越し苦労に終わった。
翌日、「トーテンコー(東天紅)」とニワトリが鳴き、日が昇ってきた空には雲一つなかった。
約束していたスタートラインの付近にはウサギが頼んだ応援する森の仲間、クマ、リス、小鳥たちが集まっていた。
動物村にキリンやウマがいたかわからないが、ワシなどの視点が高い位置を持つ動物をウサギは招待していなかった。
これからのレース展開が丸見えでは困るのだ。
仲間が見守る中、ウサギとカメはスタートラインに就いた。
クマの合図で二匹は同時に走り出した。
カメは徐に、ウサギはロッケトスタートだ。
あっという間にカメを引き離すと最初の下り道の所まで来てしまった。
立ち止まってスタートラインを振り返る。カメは本当に競争する気があるのかと思うほど、ゆっくり動いている。
ここから見るとまだスタートラインから移動していないようにも見える。
ウサギはゆっくり下り坂を降りて行った。
そして、スタートラインの連中から姿が見られない位置で立ち止まると、ニンジンを探し始めた。
左右を見ながら少しずつ前進していく。
すぐに見つけることが出来た。
全力で疾走していても見逃すことがない場所に明らかに意図的に置かれたニンジンがあった。
近寄ってニンジンを口で持ち上げるとウサギは道から離れた叢にニンジンを運んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます