第7話 できない

 ネットで、匿名で悩みを相談できる電子掲示板に記入した。「処女体験は、少しも気持ちよくありませんでした。少しも濡れるという状態が起こりませんでした。自分は女として失格なのかもしれないと思いました」

 すると、「それ、男が下手だったんじゃない?」という意見が複数かえってきた。「処女ならそういうこともあるよ」とか「処女って、はっきり言って面倒なんだよね」とか、そうしたコメントもついた。

「どうしたら、気持ちのいいセックスを体験できますか?」と書いたら、「連絡先さえわかれば、オレが相手してやるのに」「処女萌え、たまらん」「いつでも相手するよ~」などといったコメントがつづき、「そんなにしたければ、出会い系に登録すればいくらでも相手がみつかるよ」と現実的な意見もあった。

 出会い系サイトで誰かと知りあうのは怖かった。けれども、自分のなかにある焦燥のほうが勝った。

 出会い系サイトで募集をかけると、たちまちメールが数秒おきに何通も届いた。気持ち悪いくらい。その中から、なるべく誠実そうな文章を書く人を選んだ。

 それにしたって、なかなか気持ちのいいセックスには至らなかった。よくわかったのは、AVに出てくる女性は、ぜったいに気持ちいいセックスなんかしていないということだった。出会った男たちは、だいたいがAVを参考にしたように強引だった。唇に舌がねじりこまれた瞬間は、あまりに気持ち悪くて吐きたくなった。威勢ばかりよくて、やっぱり私はあまり濡れなかった。ほとんどの男ががっかりしたように諦めた。私のほうだって、がっかりだった。

 マサルは少し違った。マサルは四人目の男だった。

「気持ちのいいセックス、したいんだろう。はじめはちょっとくらい我慢しろよ」と言って、無理やりペニスを膣に押しつけた。腕力が強く、怖くなって私は目をつぶり、耐えようとした。けれども、どうしても受けいれられそうになかった。

「ヤダッ」気がつくと、大声を出し、マサルを足で蹴り飛ばしていた。

マサルはやる気を喪失し、「なんだよ、それ」と他の男と同じようにベッドに寝ころんだ。

「あんたがヤリたかったんだろ。俺だってすっかりその気だったんだぜ」

マサルはそそり勃ったペニスを見せつけてきた。私は生まれてはじめて、男のそれをまじまじと見た。女の膣とはだいぶ違う。

「触ってもいい?」

「なんだよ、やらせないくせに、興味はあるのか」

 私が指先でペニスを触ると先端からぬるりと液体が糸を引いた。「しごいてよ」マサルが私の手をつかんだ。「こうやって上下に動かすんだよ」自分の手を筒状にしてペニスを軽くつかむようにしてしごく。私は同じように真似をしてマサルのペニスを握ってやった。手を動かすと「もっと強くして」とか「もっとゆっくり」「はやく」とか注文をつけ、ときどき「ああ」と小さく声を漏らした。

「フェラできる?」マサルが吐息をもらしながら尋ねる。

「なに、それ?」

「手でやってるのを口でやれるかってこと」

 やればやれないこともなさそうだったが、なんとなく気持ち悪い気がした。「無理かな」と答えると、マサルは「あっそ」と気落ちしたように溜息をつき、そのまま手でいいからこすりつづけてと指示した。言われるままこすりつづけていると、マサルは「ああ」「ああ」と何度も呻くような声をあげた。「あ、イクイク、イク」と叫び、私の手の中にあるペニスの先端から白い液体が噴きだした。その様を不思議な気持ちでながめた。

 こんなふうに自分のうちから何かが噴出したら、きっと爽快だ。そう、思った。

「何回かやってるうちに気持ちよくなるかもしれない。また会おう」とマサルは言ってきたけれど、私はマサルとの連絡も断った。何度ホテルへ行っても、同じことだと思った。

 そこまでして、どうして私はこんなにもセックスに執着するのか。もう、やめてもいいんじゃないか。そう思いもした。けれども、私は、どうしても認められなかったのだ。自分がふつうでない気がするのを。親からも、誰からも理解してもらえない存在になるのを。

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ねじれた果肉 川口 いちじく @MaiKawa

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