鋼鉄化の錬金術師は、錆びた迷宮都市で記憶を掘り当てる

新手の宗教介入

プロローグ

「錆びた迷宮都市ネクロポリス」**の悪名高い西ゲートをくぐる時、アーク・アイゼンはいつも決まったことをする。


硬質な革手袋をはめた右手の甲を、都市の象徴である巨大な鋼鉄の門に当てる。門の表面には、数百年の風雨と、かつてこの地で繰り広げられた激戦の傷跡が、複雑な幾何学模様となって刻まれている。そして、低く呟く。


「今日も、何も持ち帰るなよ、感情のゴミども」


ネクロポリスは、数百年前に突如として、何の前触れもなく大地から隆起した巨大な金属と石の塊だ。古代の強力な錬金術文明の遺産だとされ、その内部には、現在の文明の核となるエネルギー資源、「記憶結晶(メモリー・クリスタル)」が眠っている。結晶は光を浴びると淡く輝き、触れる者の脳裏に、古代人の断片的な感情と記憶をフラッシュバックさせる性質を持つ。


アークは、その危険な結晶を採掘し、地上都市へと運ぶ「潜り(ダイバー)」を生業にしている。この街では、錬金術士よりも、鋼鉄化した拳と、結晶が放出する感情の波に耐える精神力の方が重要だ。


今日の依頼は、都市の深層部にある第三階層への潜入。そこは特に「感情を喰らう幻獣(エモーション・イーター)」の出現率が高い危険地帯だ。


「遅いぞ、アーク。待たせたな」


背後から、皮肉めいた声が響いた。振り向くと、ギルドから派遣された今回の監視役、細身で神経質そうな青年錬金術士が立っていた。ローブの下から覗く首筋には、彼が強力な術者であることを示す「変換の印」が焼き付けられている。


「ライナスか。感情を怖がって都市の入り口で小便を漏らすようなヘマはするなよ。お前の変換の印が錆びる」


「無礼な!私は都市の錬金術師の中でも指折りの術者だ。お前のような野蛮な『鋼鉄化』しかできない人間とは違う」ライナスは侮蔑を込めて言った。「早く行け。目標地点は、古代の『禁忌の術式』が刻まれた**『調停者の大広間』**だ。そこで、最大級の記憶結晶を採掘する」


「禁忌の術式……また厄介なものを」アークは舌打ちをした。


古代の禁忌の術式が刻まれた場所は、記憶結晶の純度が最も高い代わりに、最も強力な**「感情の断片」が渦巻く場所でもある。そして、その感情の濁流が、幻獣を呼び寄せる最大の引き金になるのだ。アークは、自分の心の奥底に封印した、ある少女の「悲しい記憶」**を、この街で再び呼び起こされることを何よりも恐れていた。


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