神殺しのセルラート

妖魏識 コヨミ

Ⅰ竜殺し

 今から約2世紀前。”神”と呼ばれる存在は堕落だらくし、欲にまみれた人間に痺れを切らし完全に悪へと染まった。

 神に対抗する力を持たぬ人類はなすすべもなく、次々と殺されていった。

 人類滅亡寸前にまで追いやられた矢先、神に深い対抗心を持つ悪魔たちが神に対抗するため、人類に協力。複数人に自らの力を与え、《ゴッドエグゼキューショナー》を誕生させた。

 その後悪魔達の協力もあり人類は完全滅亡を防いだ。

 そのため、人類は悪魔を神の代わりに信仰の対象とし、崇め、奉った。

そして神は神魔じんまと呼ばれ、悪魔は聖天魔せいてんまと呼ばれるようになった。

そんな世界で私、ラニア•クラスファーは今腹を空かせたドラゴンに食われそうになっていた。


『グワアアアアアア!』


崩れた瓦礫で足が折れ、で顔を真青にして怯える私にドラゴンは吠える。


「あ…………あぁ……!」


私を見つめる10メートル以上はあるだろう巨体のドラゴンに私は体に力が入らず、尿を漏らしてしまった。


(何で誰も助けに来てくれないの……!?みんなどこに行ったの……!こんなのどうしろって言うのよ!左の足は折れて力をが入らない……そもそも魔法だけじゃドラゴンは倒せない……!学校の警備隊はみんな原形が残らないほどバラバラにされた……!)


ドラゴンの奥には血の海が広がって、内臓や人間のなんの部分かわからないものが飛び散りまくっていた。


(国の憲兵が到着するまでには私はきっと食べられちゃう……!私……ちゃんといい子にしてたハズなのに……!何でこんな目に……身分が低い子が……農民の子が魔法学校でトップ生徒になるのがそんなにだめなの……?みんなが私を憎んでたのは知ってるけどこんな死に方ってないじゃない……!)


ドラゴンが顔を近づける。途端に私は息が荒くなり、涙を流す。

そして大口を開け食そうとする。私はもうおしまいだと悟りドラゴンの口内を見つめる。


(あぁ……私の人生これにて終了ね…………お父さん……お母さん……!立派な魔術師になりたかったけどごめんなさい!今まで育ててくれてありがとうっ……)


私は父母に今までの感謝を述べ、ただ静かに死を待った……

その時だった。誰かが走って来る音が聞こえ……


「っっふんッッッぬぅぅぅぅ!」


『ウギャアアアアアア?!』


と、走って来た人がドラゴンの横顔にドロップキックをかまし、15メートル先にある旧校舎の壁までふっとばした。


「……へ?」


唖然する私の目にはガラガラと崩れる旧校舎と全身を包むボロボロの布を纏った長髪の男が映った。


「えっ?……えぇ??」


『グアアアアアアアア!!』


私がこの状況を読み込めていないのにも関わらず、ドラゴンが崩れた旧校舎の中から怒りの表情で体を出す。


「うむ。やはりまだ息絶えていなかったか……」


そう言うと男は布の中から切っ先の無い大剣を取り出しドラゴンの方へ近づく。


「やっぱり竜は倒しがいのあるやつじゃなきゃね〜。」


男がドラゴンに向かってそう言うとドラゴンは咆哮し巨大な前足で男をなぎ倒そうとした。


悪神龍断つ諸刃の剣クラレント


ジャキンッッ!


その瞬間何故か男にあと一歩のところでドラゴンの攻撃が止まった。

すると数秒後、ドラゴンの首から大量に血が吹き出てズルりとドラゴンの頭が落ちた。


「なっ……な……!」

(一瞬すぎてよく分からなかった。なに?何が起きたの?剣が黒くなったと思ったら……ドラゴンの首が……てか、あの人どこに行ったの?!攻撃される前にどっかに……)


私は辺りを見渡す。すると……


「大丈夫か?お嬢さん。」


「うぇえぇえ?!」


私は驚き後ろに振り返る。なんと先程ドラゴンの前にいた男が背後にいつの間にか居たのだ。


「な、なんで……!てかどうやって?!」


私が困惑していると男は私の足を見つめ私を肩に抱えだした。


「ちょちょ!はっ?!な、何すんのよ!!」


「お嬢さん。足折れてんだろ。俺が病院まで運んでやる。」


と、男は病院がある方向に進もうとした瞬間


「ドラゴンは中庭の方にいるぞ!」

「どうやら女子生徒が1人取り残されてるらしい!」

「救護隊の要請を!警備隊も重症らしい!」


中庭から外の大運動場に繋がる門の奥の方から憲兵隊の人達の声が聞こえてきた。


「やべっ!憲兵の奴らか!すまねぇお嬢ちゃん。オレはちょっと諸事情があって憲兵の奴らとは顔を合わせらんねぇんだ。憲兵の奴らに運んで貰ってくれ。オレはここでおいとまさせてもらう。」


「は?!え?!なっ?!」


男は私を下ろして反対方向へ走ってゆき消えてしまった。


「ちょっとま……!行っちゃった……」


「いたぞ!あそこだ!」


すると憲兵が私を指さし、駆け寄って来る。


「怪我は……!?」


「あっ。ちょっと足が折れてて……」


「そうか。救護隊がもう少しで到着する。それまで待機しててくれ。」


「隊長!あのドラゴンをみてください!」


と、一人の憲兵が私に声をかけた隊長と呼ばれた人物に声をかけ、ドラゴンがいた方向を指差す。


「なっ……!またあいつか……」


と、隊長は首が切られたドラゴンを見て困った顔をした。


「あの……あいつってさっきの……」


「ん?お嬢さんあいつを見たのかい?」


「はい……長髪の男性で、ボロ布を纏っていた……何か関係してるんですか?あなた達が来たらすぐに逃げてしまって……」


そう言うと、隊長はため息を付いて


「あいつはちょっと事情があってな、俺らが捕まえなくちゃいけねえやつなんだ。別にこれと言って悪いことはしてないんだが……うちのがね……」


と言った。

その後数分足らずで救護隊が到着。私は病院でしっかり治療を受け、全治二ヶ月に収まった。


-------------二ヶ月後------------


「はぁ……学校行きたくないなぁ……」


私は完治し、ため息を付きながら寮から学校に向かって歩く。

そして学校での出来事を思い返す


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『農民のクセにイキってんじゃねえよッッッ!』


と、男子生徒複数人から殴る蹴る、石を投げつけられるなどの暴行を受けたり


『やっぱりあの子めちゃくちゃ粋がってますよ?』


『やっぱりね!まあ、こっちはあいつの家族なんて一瞬でどうにかできちゃうんだけどね!』


信頼していた友達にもいじめっ子に情報共有され、裏切られたり。

挙げ句の果てには……


『クラスファーくん。君。どうやら魔法を使って窃盗をしたらしいじゃないか。』


『えっ?!わ、私そんなことをしてません!』


『そんなハズ無いだろう。証言があるんだ。校長室まで来なさい。』


と、アリもしないことを先生に伝えられたりした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「来年で卒業だけど……耐えられる気がしない……もういっそのこと……」


「いたぞー!追いかけろーー!」


私が言いかけた瞬間。私の横側から憲兵の声が聞こえて来た。


「うん?何ごとかし……あ!!」


私が憲兵の方へ振り向くと、例の男が十人ほどの憲兵に追いかけられていた。


「あの時の!」


「ん?お!あん時のお嬢ちゃん!ちょいと失礼するよ!!」


と、男はまた私を担ぐ


「え!?え?!ちょっと何し……てか足早っ!」


「なあアンタ魔法学校の生徒だろ!瞬間移動魔法使えるか?!」


「え?!ま、まあ使えるけど……」


「頼むっ!後でこの街に返してやるから瞬間移動してどっか遠い森とかに移動させてくれ!」


と、男が息を切らし、緊迫した表情で言う。


「え〜どっか遠いってそんな……」


「いいから早くやってくれ!」


男がそう怒りながら言うので私はままよ!と瞬間移動魔法を使った。

そして私達は憲兵の前から姿を消した。


「なっ!総長!やつ、魔法学校の生徒を抱え姿を消しました!」


「何だとこの!クソッッ!また取り逃したか!」


と、複数の憲兵の中から鎧こそ他の憲兵と同じだが兜を被らず自身の赤髪と顔を晒した若い兵士が出てきた。


「探せっ!まだこのオルナルムがいの何処かにいるはずだ!」


若い兵士が他の兵士に命令すると「ハッ!」と、兵士が散らばっていった。


―――――――――――――――――


「はぁ……はぁ……ここどこーー!!」


私は涙目になり草木が生い茂り、高々と木々が生えた森の中で叫ぶ。


「どうやらみやこから随分遠くに来たっぽいな。すまねぇ嬢ちゃん。帰すとは言ったが俺もここがどこの森かわからん。悪ぃがもう1回移動魔法使って帰ってくれ。」


と、男が大剣で腰の高さの草達を切りながら進む。


「そんなの無理よ!瞬間移動魔法って結構魔力使うし、その魔力充填まりょくじゅうてんに4時間もかかるのよ!しかも場所設定出来ないから都に帰るかどうかもわかんないし!」


「えっ。そうなの?じゃあ運ゲーガチャ回し頑張って!」


と、男は一瞬驚いた顔をしたがまた草を切り分け足早に去ろうとした。


「ちょちょちょ!待ちなさいよ!」


そこで私は思った。このまま魔力が溜まるのを待って自分の運で都に戻るとゆう選択をする。でももし戻れなかったら飢えて死ぬか、モンスターに食われて死ぬ。連絡魔法は使えない。しかし都に戻り再び学校に通ったところでまた虐められる。


(なら……)


と、私は男の背中を見て


(お父さん!お母さん!ごめんなさい!絶対親孝行する娘になるから!)


「私!あなたに着いてく!」


私は男にそう言うと動きがピタッと止まり、驚愕した顔で振り向き「はぁ?」と私に言った。





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