第12話 イエスお仕事ノー遊び!


「15:45、魔法少女ジェリィ◎メドゥーサ、現着」


空から降って来たのは見知った顔だった。


「事務…員さん。」

朦朧とする意識で岩瀬は声を絞り出す。


「この姿の時はジェリィって呼んで頂戴ね」


「…新手の魔法少女っスか…」


「新手?いやぁね、私結構長いのよこの業界。」


「存じ上げねえッスよ!『超音速アクセソニック』!」


マグロの魔法に停止ブレーキはない。使えば使うほどに速度を増していくのみである。そして現在のブルフィン・トゥナーの速度は、音速を超えつつあった。彼女を止められる者は、___


「『紫電エレクトリ』」


「がッ…!?」

トゥナーに電撃が走り、痺れで動きが止まる。


「貴方、速度スピード自慢なんでしょうけど、音程度の速度で電撃から逃げられると思って?」


ジェリィ◎メドゥーサは淡々と電撃を放ち続ける。トゥナーはなんとか身を捩り後ろに飛び退いた。


「ゲホッ…マズイっスねこれは…悔しいけど一旦撤退ッス。万全になったらまた戦ってやるッスよ」


ブルフィン・トゥナーはそのスピードのまま後退する。


「撤退出来ると良いわね」


逃げようとした先には既にジェリィメドゥーサが居た。


「疲れたから逃げるだの、全力勝負が何だのってねえ…何か勘違いしてる様だから教えてあげるわ。魔法少女は遊びじゃないの、仕事よ。」


「…(言い切り過ぎトゲよ流石に)」


「だから手負いだろうと私は貴方を仕留める。地の果てまで追いかけてもね。」


「…なんで自分のスピードについて来れるっスか?」


「考えた事はなかった?貴方のコピー元のマグロの魔法は誰が使ってるのか」


「まさか…」


ジェリィは不敵な笑顔を崩さず当てつけの様にその魔法を口にした。


「『超音速アクセソニック』」


「くッ…!」

トゥナーも負けじと『超音速アクセソニック』で逃げる。


(同じ『超音速』の魔法であれば使った回数の多い自分の方が速度は上のはずっス…!その筈なのに…どうして引き離せないんスか!)


ぐらり


違和感。トゥナーの視界が揺らぐ。トゥナーは足元を見る。


足にまとわりついたディアデマ✴︎アクスの臓物の中に小さな黒い針が紛れて刺さっていた。


「まさかあの時…!」



「『針姫冠ニーディアラ』の麻痺毒が回って来たトゲ。何の意味もなく臓物吐くと思ったトゲか?トゲトゲトゲw(笑い声)」

アーちんはいつになく嬉しそうだ。



「……これは…参ったッス」



「『雷轟サンダ』」


容赦のない凄まじい雷鳴と共にブルフィン・トゥナーは地に伏した。気絶している。


「ウチの可愛い新人ちゃんを痛め付けたお礼はこのくらいにしとこうかしら。」

私よりエグいよこの人。


ジェリィは慣れた手つきでトゥナーを拘束すると、彼女が落とした大鎌型の魔法ステッキを拾う。


「まあ詳しい解析は後にしてとりあえず」


ボキッ


ジェリィはステッキをへし折った。


気絶したままブルフィン・トゥナーは変身が解け、元の黄間きはざまさんに戻る。


「これでもうマグロの怪人には変身できない、二度とね。後は署で聞くわ。」


そう言うと長い髪の毛が触手のように動き私と黄間さん、あと沙羅を抱えて(アーちんは自力で飛んだ)、あっと言う間に泥地哀浜の魔少連支部まで飛んでいった。



***



「お疲れ様。ディアデマ✴︎アクス」

変身を解いた事務員さんはいつもの人懐こい笑顔でそう言った。


「何となく分かってたけど、やっぱ事務員さんめっちゃ強いですね…」


「伊達に10年戦ってないトゲからね」


「今回は貴方がだいぶ削ってくれてたから楽だっただけよ。」


「それはそれとして今回の真鈴ちゃんの戦い方については後日指導するトゲよ。回復覚えた側から無茶し過ぎトゲ」


「ごめんて、あっそうだ沙羅は?」


「無事トゲ(ちょっと服焦げたけど)。休憩室で寝てるトゲ。」


「とりあえず何かあったら連絡するから今日は帰って良いわ。」


「…いや一応心配なんで沙羅と黄間さん見ときます」


私はお泊まりで学祭の準備とか適当な理由を家族へのメールにでっちあげて支部に居残った。


休憩室は静かだった。沙羅と、念の為拘束されたままの黄間さんが寝息を立てている。

私はアーちんとそれを無言で眺めていた。


「ねえアーちん。」


「何トゲ?」


「私もっと強くならなきゃ駄目だね。」


「…そう落ち込むなトゲ。最初から強い魔法少女は居ないトゲ。君は今やれる事が出来た、それだけトゲ。」


「…ありがと」


「あーもう辛気臭いトゲね!見張りはやるトゲから君もさっさと寝るトゲ!」

アーちんは私を布団に押し込む


「わかったわかった。…おやすみ」


次第にまどろんでいく。


「……世話が焼けるトゲよホント」


そう聞こえた気がする。

長い、一日だった。



_____________________

つづく

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