第7話 魔法少女?なんスかそれ?

1週間前


「面白くねぇ〜」

黄間きはざま黒江くろえは陸上部の部室で1人そう呟いた。

陸上が好きだった。実際小学校から続けてて県3位くらいの実力はあったし、そこそこ友達も出来た。


しかし親の転勤でここ汐路逢浜しおじあいはまの桶丸第三高校に転校してから全てが変わった。

この高校にあった陸上部のまあ酷い事酷い事。設備は錆びたハードルくらいな物で部活の人数も自分含め6人、うち3人は幽霊部員。残りの2人は多種目練習してて全くもって張り合いなし。


そうなって初めて、私が欲しかったのは部活でも仲間でもなく全力を出せる相手ライバルだった事に気づいた。


外から体育祭の準備をする生徒の声が聞こえる。夏の日差しの中、黒江は途方に暮れていた。


「なんかもうなんでも良いからバトルしてえよなぁ〜」


誰もいない部室に独り言が響く。



____力が欲しいトロ?


最初は幻聴だと思った。


「力が…欲しいトロか?」

幻聴にしては変な語尾だった。


「力より相手が欲しいッス」


「え?そうなの?…相手トロねえ…まあ大体同義か…同義か?どうなんだトロ?。」


「駄目ッスか?大会年一回しかないんスよこの部活」


「まあいいトロ。とりあえず今日から君は怪じ…魔法少女トロ」


「?魔法…何?なんスかそれ」


「…もしかしてそう言うの通ってない人トロ?」


「全ッ然わかんないッス。陸上一本だったから」


「えぇ…どっから説明しよトロ…あっ自己紹介するトロね。僕はドグラ・マグロ。魔物トロ。ドグちゃんとよんでトロ。僕たち魔物を手伝ってくれたら戦う相手を用意するトロ。」


「へー…面白そう」


「これで怪人に変身して戦うトロ」


「誰と戦うの?」


「魔法少女トロ」


「さっき自分が魔法少女になったって言わなかったスか?」


「あーさっきのは口実テンプレだから忘れていいトロ。実の所君は怪人になるトロ。これを使って変身トロ」


「でっかい鎌っスね」


「妖精共の使ってるステッキの模造品トロ」


「でどうすんスか?」

大鎌を持ってドグちゃんに聞く


「えっと…変身した自分を想像して適当に叫ぶといいトロ」


「了解っス!オラァァァァァァアッ!」


辺りがドス黒い闇に包まれる。自分の何かが変わっていく感覚。やがて闇が晴れた。


「どうっスか?」

ぱっと見黒いドレスだ。黄色の差し色がある。


「似合ってるトロよ!今日から君はマグロ怪人、ブルフィン・トゥナーだトロ」


「で何すれば良いんスか?」


「定期的に場所を連絡するトロから、そこに向かって都度現地にいる魔物から指示をもらうトロ、まあ実際の業務は来週からでまずは怪人連盟に登録に行くトロ!」

ドグちゃんはなんか怪しげな業務内容を話す。


「はーなんか忙しくなりそうッスね」

まあ何あれ全力で戦えそうだからいいや。


こうして自分はマグロの怪人になった。



***



その後怪人連で適当な説明を受け、マグロの魔法を練習した。自分にピッタリの加速能力だった。何やら自分はスジが良いらしく、1週間の間にステッキなしで加速できるようにもなった(ステッキは重いので持たないようにした)。全然よくわかってないけど、自分の前途は明るいと思えた。思っていた。


 今日自分は負けた、あの悪役みたいな格好の魔法少女に。光線で吹き飛んだ私は気がつくと雑木林で倒れていた。負けたのはいつの大会ぶりだろうか、汐路逢浜に来てからは初敗北だ。決して手を抜いたわけじゃない。全力だ。全力だった。悔しい、そして


「…めっちゃ楽しいじゃんこれ」


静かな雑木林に私の呟きが響く。


「あ、もしもし、黄間っス。今雑木林ッス。怪我は…擦り傷ッス。」


地面に転がったままドグちゃんに通話する。


「あと、週末怪人連の練習場予約できるっスか?」


失っていた私の中の熱が息を吹き返してきた。



_____________________

つづく

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