第3話前 やっぱり許可とかいるんかよ!

 ここは汐路逢浜四丁目の日本家屋

その一室で凄まじい寝相を披露する少女がいた。ご存知岩ヶ瀬がんがせ真鈴ますゞだ。しかし昨日魔法少女になったばかりで魔物と戦闘したと言えば無理もない話である。


だが今日は土曜日、やろうと思えば11:00までは寝ていても問題はない。そうと決まれば心ゆくまで__


「さっさと起きるトゲ」

ああ無情。


「いっだッ」

刺すような痛みで叩き起こされ__え?今刺された?マジで?私生身なのに?


「今何しやがったアーちん」


「毒のない針だから安心するトゲ」

妖精は悪びれもせずそう言った。


「刺すは刺したんだ…で何?」


「今日は隣町の魔少連(魔法少女連盟)支部に新規魔法少女の登録手続きしに行くって昨日伝えたトゲ!」


「え?…あーなんか言ってた気がする」

岩ヶ瀬は寝起きで回らない頭でぼんやりと昨日の会話を思い出した。


「なら早く支度するトゲ!バスに間に合わないトゲ!」

言われるがままに身支度を整え適当な私服に着替える。

「あとなんか要る物ある?ハンコとか」


「ハンコ不要トゲ。ボールペン一本有れば充分トゲね」


家を出てバス停につき待つ事30分。田舎にしては早い方だ。


「そういえばアーちんって周りの人にはどう見えてんの」


「ガッツリ見えてるトゲ」


「それ私が魔法少女って事バレるんじゃない?大丈夫?」


「大丈夫じゃないから契約後の妖精の周りにはその辺を上手い事隠す魔法が自動でかかる仕組みになってるトゲ。でもこの魔法は人間に使えないからキミは気をつけるトゲよ」


「はーい」

岩ヶ瀬はなんで人間に使えないんだろと少し考え、誰にも気付かれずに轢かれたりぶつかられたりと普通に嫌な想像が湧いてきて何となく禁止の理由を察した。

そんな妄想を膨らませるうちにバスが来た。



***



 景色がどんどん後ろに流れていく。バスには岩ヶ瀬たち以外誰も乗っていなかった。岩ヶ瀬は運転手に聞こえないように小声でアーちんに話しかける。


「ねぇ、今更聞くのも何だけど登録って具体的に何するの?」


「まず目的から話すトゲ」


「お願いします」


「一番の目的はステッキの所在の把握トゲ。まあ当然の事トゲけど、誰も把握してない個人が強力な魔法使ってたら善悪に関わらず大問題になり得るトゲね」


「確かに」


「そこで新しく魔法少女になった人間に魔少連の名簿に登録してもらう事でステッキの行方を管理してるトゲ。要するに今後僕たちが他の魔法少女と仲良くするためトゲね」


「なるほど〜。……だとしたら昨日私達が勝手に魔物倒したのって割とヤバいんじゃ?」


「えっあっヤベッ…まあ今日ついでに報告するトゲから大丈夫!大丈夫トゲ!」


(多分良くないぞコレ)


そう思っているとバスのアナウンスが鳴った。

___次は〜泥地哀浜どろじあいはま泥地哀浜どろじあいはま〜お降りの際は…


「あっ着いたみたいトゲ!」

降車ボタンを押し料金を払ってバスを降りる。


隣町の泥地哀浜どろじあいはま汐路逢浜しおじあいはまと変わらず磯臭い辺境の街であるが、さほど大きくもないショッピングセンターや夜には閉まるカラオケなど微妙に遊ぶ場所がなくも無い。やっぱり無いかもしれない。


「こっちトゲ」

そう言われてアーちんに案内されたのは駐在所のような小さな建物だった。

木の板に手書きで"魔法少女連盟泥地哀浜支部"と雑に書かれている。


「お邪魔するトゲ〜」

そう言うや否や、建て付けの悪いアルミの引き戸をガラガラと開けてアーちんが建物の中に入っていった。

「あっちょっと待ってよ」

慌てて戸をくぐる。長机とパイプ椅子が置かれたいかにも即興な拠点だった。

「今お茶淹れるからかけて待ってて〜」と奥の扉の向こうから甲高い声が聞こえた。


しばらく待ってるとお盆にお茶を並べたスーツ姿の女の人が現れた。事務員の人だろうか。


「おまたせ〜ごめんね〜」

140cm台だろうか。小柄な背丈、それでかなり童顔というか若作りだからぱっと見子供に見える。だがその落ち着いた立ち振る舞いは完全に大人のそれである。


「13:30でご予約の岩ヶ瀬さん…で間違いありませんか?」



_____________________

つづく

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