シャーク山崎【短編小説】
Unknown
本編【約9000文字】
こんばんは~。シャーク山崎です♡
今日はUnknown先生が「高崎駅前の女の人をナンパしまくって今日だけで経験人数100を超えてくる!」と超無謀な事を抜かして、数時間前にアパートから飛び出してしまったので今回はこの私、シャーク山崎がUnknoun先生の代理人として文を書きたいと思います。
Unknown先生が外出する直前、Unknown先生から直接ご依頼を受けまして、
「
と笑顔で言われたのですが、正直書くことなんて思い浮かびません。私はUnknown先生みたいに文章を書くのが全然得意じゃないですし、発想力もありませんし、、
ところで、Unknown先生にナンパなんて成功させられるのでしょうか? たしかに私から見てもUnknown先生のコミュニケーション能力の向上には目を見張るものがあります。初対面の女の子とも今では普通に笑顔で喋れます。ですが、そもそも彼は見た目が太っているので、例え話術で街の女性の気を引くことができたとしても、(え、なにこのデブ。キモい!)と思われて惨敗するだけではないでしょうか? 私はそう考えています。ですがUnknown先生は私から見ても、なかなか頑固なところがあり、自分で1度「これをやる」と決めた事はやらないと気が済まないタイプなんです。キモいですね。
そういえば、私の自己紹介がまだでしたね。私はシャーク山崎こと、山崎夏希(仮名)です。性別は女です。年齢は28才です。Unknown先生の1個下です。これは書いていいのか駄目なのか分からないけど、Unknown先生のアパートに一緒に住んでる同居人です。「同居人」です。大事な事なので2回言いました。
Unknownは私だけのものだから!!!!
誰にもUnknownを渡したりしないから!!!!!!!!!!!!
Unknownの短所は、優しさを私だけに向けずに広範囲に向けてるところ。そんなことしたら、私だけのUnknownが他の人のものになっちゃうかもしれない。
あともう一つUnknownの短所がある。それは、女の人の事をすぐに好きになっちゃうところ。Unknownは「俺のことを好きになってくれる人が好き」って最近言ってた。だから基本的に、相手に好かれただけで自動的に相手のこと好きになっちゃうの。ほんと最低だよね!!!!!!!!!!!!! マジでキモイ!!!!!!!!!!! 私以外の女の何が良いわけ!!!!!??? 私は顔だって可愛いし、おっぱいもでかいし、Unknownのことを愛してる。なのにあのバカ、ナンパしてくるとか言ってアパートから勝手に出て行きやがった。ほんとキモイ!!!!!!!!! 私じゃ満足できないの????????????????????・
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいらいらする!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
Unknownのカバンの目立たない場所にGPS付けてるから、私のスマホであいつの位置情報はすぐ分かる。あ、まだホテルには行ってないみたい。そりゃそうだよ。アンノウンには私だけがいればいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ほかのおんなは必要ないの。だからUnknownは常に私が監視しておかなきゃいけない。他の女に取られないように、ちゃんと私が管理しないといけない。
ほんとは今日だって、おうちで二人で一緒にたこ焼きパーティーしたいと思ってた。彼には言ってないけど。だって私たち別に付き合ってるわけじゃないし私がわがまま言ってUnknownのアパートに住んでるだけだから、その分際で私の希望を彼に伝えていいのか分かんない。
でも、どうして私のことだけを見てくれないの? なんでナンパなんてしに行くの? 私じゃ満足できないの?
もう私どうしたらいいのかわからないよ・・・・・・・・・
あ、今アパートのドアの鍵が開く音がした。アンノウンが帰ってきた!!! やったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
◆
みなさん、こんにちは。Unknown本人です。今日は土曜日で仕事が短時間で終わって暇になったので、高崎駅前に女性をナンパしに行きました。ですが大失敗したので、適当にヒトカラだけ行って帰宅しました。
どうやら代筆のシャーク山崎が、ド派手に暴れてくれたみたいですね……。
これは一体どういうことなのでしょうか? ちょっと、夏希本人と話してみます。
◆
みなさんこんにちは。夏希です。彼と話してたら、なんか無性にイライラしてきたので、今からUnknownを包丁で刺します。メンヘラでごめんね♡ 私以外の女とやろうとしたお前が悪いんだよ♡ 何がナンパだよ!私は許さないから
◆
みなさんこんにちは。Unknownです。今、シャーク山崎こと、山崎夏希が包丁を握って、俺に向かって走ってきています! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! やめろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
あーーーーー! 痛い! 痛い! 痛いから刺さないで! 謝るから刺さないでよ!!!!!!!!! 痛い! 痛いって!!!!!!
今、血が飛び出ています!!!! 部屋中が血まみれだ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!
クッ! 俺の命も、ついにここまでか……!?
痛い! 包丁が肺まで貫通して超痛い! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
(享年29)
◆
みなさんこんにちは。シャーク山崎こと、夏希です。Unknownが死んだので、今、警察による現場検証が行われています。あ、これは事件ではなく事故として処理されるそうです。あ、今、葬儀屋さんがアパートに来ました。今からお葬式を始めるそうです。あ、今、お坊さんもアパートに来ました。この部屋で今からお葬式が始まるようです。あ、今、お葬式が終わりました。
◆
えー、みなさん初めまして。今回、Unknown様のお葬式の方でお経を読ませていただきました、寺の住職です。亡くなられたUnknown様がですね、無事に成仏されて極楽浄土へと行けるようにサポートさせていただきました。合掌。
◆
みなさんこんにちは。群馬県警です。Unknownさんのご遺体には複数の刃物による刺し傷があり、これは事件ではなく事故であると断定いたしました。以上。本官は忙しいので仕事に戻ります。では、失礼いたします。
◆
みなさんこんにちは。シャーク山崎こと、山崎夏希です♡
Unknownの命は私が奪っちゃったから、Unknownは永遠に私のものだね♡
これからもずっと一緒だよ、優雅くん♡
優雅くんの遺体はこれから火葬場で焼かれるみたいなんだけど、焼かれて骨だけになったら寂しいから、優雅くんの遺体の手だけは私が保管して、残りは今から私が料理して食べます。
てか人肉って美味しいの?
◆
◆
◆
っていう文章を俺は暇潰しに書いていた。
俺こと
安心してください。生きてますよ。
今日は土曜日で、30分だけ仕事して、1200円稼いだ。
あとは今日は、ずっとアパートにいますね。特にやる事ないので。
暇潰しにプロ野球のスマホゲームやってた。
来年の3月に「syrup16g」ってバンドの30周年記念ライブが東京(
今はそれが楽しみかな。あと、「山田亮一とアフターソウル」の単独ライブが来年あったら、また必ず行く。1回行ったらアフターソウルのライブの虜になった。あと、「the cabs」のライブもいつか絶対行きたいな。
あと、俺のXの投稿を見たらわかると思うけど、俺は昨日Amazonで龍が如く極3というゲームを予約した。龍が如くスタジオの作品は全部遊ぶくらい好き。やくざゲームです。
あと、俺のXのツイートに俺のYouTube動画のURⅬも貼ってるので、死ぬほど暇な方は文章だけでなく動画も見てもらえたらなと。
「──ねぇ優雅くん」
俺がノートパソコンで文を書いていたら、背後から女性の声がした。
「なに? 夏希」
俺は振り返って言った。さっきまでカーペットの上でゴロゴロしてスマホを弄っていた夏希が俺の真後ろに立っている。
やがて、夏希は少し悲しそうに俯きながら、小さくぽつりと呟いた。
「ねぇ。どうして同じ部屋にずっといるのに、ずっとパソコンばかりで私のこと構ってくれないの?」
「構ってほしかったの?」
「うん。優雅くんは1人の時間も楽しく過ごせるタイプだから、寂しさとか感じないのかもしれない。だけど、私は寂しいよ」
「ごめん」
「もっと構ってほしいよ。もっと私を気にかけてほしいよ」
「うん。そうする」
「…………ごめん。私の悪い癖だ。人に依存しすぎると、嫌われたくない気持ちが強くなって、自立してると思われたくなくて、駄目な人を演じたり、子どもっぽくしちゃう。ごめんね、優雅くん。私、もういい大人なのに」
「謝るなよ。俺もこれからはもっと夏希のこと考えながら生活するよ。俺の方こそ、気付けなくてごめんな」
「大丈夫」
「あ、そうだ。夏希、お互いに謝るのは辞めよう。ごめん、じゃなくて、ありがとうって言い合おう。その方が絶対いいよ。謝られるより感謝された方が人は嬉しい」
「そうだね。ありがとう」
「ありがとう。とりあえず、もう夕方の4時半だし、一緒にスーパー行って色々買ってくるか」
「そうだね! あっ、そういえば私、優雅くんに振る舞いたい料理がある!」
「え、なになに?」
「それは内緒。ネタバレしたら、つまんないからね」
夏希は笑っていた。
その顔を見て、俺は釣られて笑った。
アパートの●●●号室を出て、2人で階段を下りていく。俺は服のポケットに手を突っ込む。
「風が冷た~い♪」
「冷たいな。いつの間にか11月だなあ」
「早いね~」
「早い。人間、あっという間に死んじまう」
「私、早く死にたい気持ちもあるけど、優雅くんがいるから生きてる」
「じゃあ俺が死んだら夏希は死ぬの?」
「うん。だから長生きしてね」
「やだよー♪」
「あっ、じゃあ私、早く死んじゃう」
「そうだな」
「そうなの?」
周りに人がいない。俺はハヌマーンというバンドの「アパルトの中の恋人達」という曲を小声で歌い始めた。すると夏希も小声で歌い始めた。昨日、2人で聴きまくったから、2人とも完璧に歌えた。
ガソリンスタンドを抜けたら、すぐスーパーだ。
2人で小声で歌いながら歩いていた、その瞬間の事である。
夏希のスマホも俺のスマホもうるさい警報音を発した。
2人同時にサッとスマホを取り出して画面を見る。
すると、北朝鮮が発射した弾道ミサイルが、群馬県高崎市に向かって落下しているという文字列が目に入った。
「え、ミサイルの落下地点、群馬県高崎市だってさ」と俺。
「どうする? ここに落ちたら」と夏希が笑った。
「さすがにそれは無いだろ。というか、今まで北朝鮮のミサイルが日本の領土に落下したことはない」
「そういえば優雅くん、昔、北朝鮮から飛んできたミサイルを金属バットで打ち返して彼女を守る小説書いてたよね?」
「あー、書いてた書いてた」
「それと同じ展開になったりして」
「ならないよ。同じ展開はつまらないからな。人生は小説のようには行かない」
「そっか」
スマホで続報を追っていたら、北朝鮮が放った弾道ミサイルは海に落下した、との事だった。
「よかったね」と夏希。
「うん」と俺。
やがてスーパーに到着した。
土曜という事もあり、平日に比べて混んでいる。人々で賑わっている。こんな何気ない風景に俺は平和を感じる。ここに居る1人1人にドラマがあるのだろう。
俺はカートを押すのが大好きなので、カートを押した。
「俺、スーパーのカート押すのがガキの頃から大好きなんだ」
「あはは、そうなんだ」
「うん」
「いっぱい押しな。カート」
夏希は笑う。
夏希の柔らかい笑顔を見ていると、心が満たされて落ち着く。
もしかしてこれが“恋”????
と思いながら夏希の進行方向にカートを押す。夏希は野菜など色んな商品をカートの上のカゴに入れる。夏希は俺に作りたい料理があると言っていたが、その料理が何なのかは内緒らしい。
耳に残る、ポップな店内BGMを聞きながら、2人で色々喋っていた。
──その瞬間の事である。
バリーン!!!!!!! とガラスが割れる音が割と近くの方で聞こえて、その直後、
「きゃー!」
「ギャー!」
「うわー!」
と言った叫び声が発生しまくった。中には赤ん坊や子供の泣き声もした。
俺は反射的にガラスが割れた方角を見た。
「……ハッ!?!?!?!?」
俺は“それ”を目にして、思わず全身が硬直した。嘘だろ? 嘘だと言ってくれ。群馬県は圧倒的な田舎だが、ここは割と都会で、山は近くには無い。なのに何故!?
硬直する俺の左肩を力強く夏希が揺すった。
「優雅くん! クマだよ! すぐ逃げないと!」
「いや、あれはただのクマじゃない……」
やがてクマは大きく咆哮しながら、立ち上がって両腕を大きく広げた。それを見て俺は言った。
「……少なくとも体長5メートルはあるぞ。あのクマ!」
「早く! 早く逃げよ!!!!!!!!!」
「うん!」
俺はカートを放置して、夏希の腕を掴んで、走り始めた。
しかし、混んでいる店内が総パニック状態となっており、逃げようにも全く逃げられない。その場からほとんど動けない。
クマと夏希と俺の距離は割と近い。30メートルほどしか離れていない。俺たちは、クマが来たのと同じ出入り口からスーパーに入ってしまったのだ。やがてクマは四足歩行に戻り、周囲で逃げ惑う人々を次々に攻撃し始めた。中には、頭をクマに殴られて頭ごと吹き飛んで即死している人もいた。クマは無差別に手当たり次第に人を襲っている。人を食い荒らして、暴れ散らかしている。あっという間にクマは返り血で真っ赤に染まっていた。
「やばい……! 人が多すぎて逃げられない!」
「優雅くん!!!!!!1!」
俺は夏希とはぐれないように必死に腕を握るのがやっとだった。
この腕を離してしまえば、パニック状態の客の中に夏希を見失ってしまう。大量の人の渦に夏希の姿を見失う。
「──邪魔だ! どけ!」
突然、俺と夏希の間に中年男性が割り込んできて、その衝撃で俺は腕を離してしまった。その直後、夏希は人の渦に吞み込まれてしまった。客たちはクマから遠ざかろうと、クマの進行方向とは離れていく。だが、その方向は人によってバラバラだ。俺は夏希を探した。
「夏希! どこだ! 返事しろ!」
無数の発狂や悲鳴の中で叫んでも、俺の声はかき消されてしまう。俺はその場から動かずに、人の波が俺の周囲から消えてくれるのを待った。
時間にして数秒。
人垣が俺の周辺から消えた。
誰も人がいなくなった血溜まりのそばで、夏希は右の足首を両手で押さえながら、怯えた表情で座っている。
「優雅くん!」
「夏希!」
俺はすぐ走って夏希に近づいた。
「どうした!? 立て!」
「私、足首骨折したかも。立ちたくても痛くて立てないの!」
「じゃあ俺がおんぶして逃げる!」
「もう無理だよ……! 私を置いて逃げて! 私は死んでもいいから、優雅くんは生きて!!!!!!!」
気が付けば、夏希の背後5メートルほどの距離にクマが歩いて接近してきていた。
俺は夏希の目を見ながら反射的にこう言った。
「“私は死んでもいい”なんて、そんな悲しい言葉、2度と俺に使うんじゃねえ。一緒に生きるぞ!」
「優雅くん! 私はいいから、早く逃げてよ! 優雅くんが死んじゃう!」
「──俺がどうなったっていい……世界がどうなったっていい……。でも夏希だけは……絶対助ける!!!!!!!!!!!」
俺がそう叫んだ瞬間、俺の全身は発火したかのような熱気を帯びた。まるで自分が覚醒したかのようだ。俺は無意識のうちに体長5メートル越えの超巨大クマに向かって全力で走っていた。
その瞬間、世界は無音となる。
夏希が俺を制止する声も聞こえない。店の中の人々の叫びも聞こえない。
ただ“夏希を救う”という意志だけが俺の今の鼓動となり、炎より熱い血潮となった。
クマは思いきり俺に向かって突進してきた。そして俺を引き裂こうと右腕を上げた。
しかし、何故か今はその動きがとてもスローモーションに見える。
俺は瞬時の判断でクマが俺を引き裂かんとする右腕を避けて、光の速さでクマの背後に回った。これは賭けだ。俺にはクマを倒す作戦がある。俺の作戦はクマがメスだった場合、瓦解する。だが、オスだった場合は、俺は確実にこのクマに勝てる1つの活路を見出している。
クマは幸い、その場に一瞬だけ立ち止まった。
クマの背後に回ると、あった。超巨大な金玉が!
やはりこれだけ巨大なクマだと金玉も巨大であり、そこにフルパワーの蹴りを加えたらさすがにクマも無事ではいられない。巨大だからこそクマのダメージは甚大なはず。
これは高校時代に野球部だった俺の経験則だが、硬式の野球ボールが金玉に当たると本当に超痛い──。
「オラァ!!!!!!!!!!!!!」
俺は夏希の柔らかな笑顔を心に浮かべながら、俺の29年の人生の思い出の全てを一点に込めて、クマのゴールデン・ボールを魂のキックで粉砕した。
その直後、クマはゆっくり後ろ向きに倒れた。ものすごい衝撃音がした。
俺はすぐに夏希のもとへ駆け寄り、背後から掬い上げるようにお姫様抱っこして、クマから逃走した。
「大丈夫か!? 足首!」
「うん! 大丈夫!」
「すぐ病院連れてってやるからな!」
俺が夏希を抱っこしながらクマから逃走していると、俺の腕の中で夏希がこう言った。
「命懸けで助けてくれてありがとう」
「好きな人を助けるのは当たり前だろ。お礼なんて言うな」
「うん。……えっ? 今、私のこと、好きって」
「言ってないよ。聞き間違いだろ」
「絶対言ったよ! 好きって! 今まで1回も言ってくれたこと無かったのに!」
「う。うるせえ!」
夏希は笑っている。それに釣られて俺も笑った。
そして俺はスーパーから無事に脱出し、アパートに帰宅し、すぐに車に夏希を乗せて、夏希の足首の怪我を治療してくれる科のある病院へと向かった。
俺は人々をクマから守った英雄として、後日、群馬県から表彰された。
その日、全国ネットのテレビのニュースの関係者にカメラを向けられてインタビューされたので、
「──体長5メートル越えのクマ? あんなのザコっすよ」
とイキって答えてしまったのであった。
◆
◆
◆
という小説をアパートで書いていたら、俺の部屋のカーペットでゴロゴロしていた夏希が、
「あー、やることなくて暇~」
と言ったので、俺はこの【シャーク山崎】という文章をカクヨムにすぐ投稿することにした。
◆
◆
◆
という文章を書いた後、俺は自分の部屋に誰もいない事に気が付いた。
「……」
え……? 夏希は?
「な、夏希?」
「──なぁに?」
夏希は、俺がカインズというホームセンターで購入した敷き布団の上で毛布をかぶってゴロゴロしながらスマホを弄っている。
ここにいる。
それを確かなものにしたくて、俺は夏希に近づいて、しゃがんで、手を差し出して、
「夏希、お手」
と言った。
「わん」
と言って夏希は俺の手の上に手を置いた。女性という事もあり、夏希の手より俺の手の方がだいぶ大きい。
「なにこれ。犬ごっこ?」と夏希が笑って言った。
という文を書いて周囲を見渡すと、部屋には俺しか人類が存在せず、俺は自分が孤独で、愛情に飢えていることが分かった。
「俺は……俺は一体……どうすれば愛してもらえるんだ? 妄想の中で恋愛をしても埒が明かない」
◆
「ねぇ優雅! こっちにおいで!」
何処からか聞こえてくる女性の声。
今度こそ、そこに愛はあるのだろうか?
俺は声がする方向へと歩き始めた。
そこは真っ白な光の中。俺は夢でも見ているのだろうか。
光の奥へと進むと、そこには16才の時に俺が初めて能動的に好きになった人間が立っていた。性別は女で、高校2年生で、私立高校の制服を着ていた。
「俺は愛されたくて仕方ないんだ。どうしたらいい」
「優雅は私を、人生で初めて能動的に好きになった人間を、他の人たちに無意識に重ねてるね。私がメンヘラだから、私の気持ちに寄り添おうとして優雅もメンヘラの真似をしてるうちに、優雅は本当に心の病気になっちゃった」
「そうだね」
「ねぇ優雅」
「なに?」
「私からお願いがあるの」
「なんでも聞くよ」
「じゃあ、私のことは、もう忘れて」
「そんなの無理だよ。俺は、16年も生きてきて、誰の事も愛したことが無かった。だけど、だけど、あなたのことだけは自分から好きになれた」
「泣かないで。きっとまた、誰かの事を好きになれるよ」
「そんなわけない」
「優雅は私に『愛されたくて仕方ない』って言った。でも本当は、優雅はまた他人を心から愛したいと思ってるんだよ」
「そうかもな」
「しばらく泣いて、落ち着いたら、またいつものアパートに帰りな」
「嫌だ。もう1人ぼっちは嫌なんだ」
「始まったものはいつか必ず終わる。でも、いつか必ず、何かがまた始まる」
「でも結局必ず終わる運命なんだろ」
「うん。でも、それの何が悪いの?」
「俺は今まで沢山の人に愛された。色んなものが始まった。だけど、その全てが終わった。気付けば、いつだって俺は1人ぼっちだ」
「ねえ、そんなに泣かないでよ。私まで泣いちゃうよ」
「死にたいよ。何もかもは無常だ。心から愛した人は消えていく。心が通じ合った友達は自殺する。全て、全て、全てが虚しく消えていくんだ。実家の猫もいつか死ぬ。そしたら俺は立ち直れない。もう何も失いたくない。失うのが怖い。こんな苦しい世界で生きる価値なんて無いよ。いっそ俺を殺してくれ」
「どんなに生きるのが辛くても、必ずまた何かが始まるんだよ。必ず最終的には失うけど、失うまでは楽しいよ。それでいいじゃん」
「そうか」
「うん」
「じゃあな」
「じゃあね」
◆
気が付くと、俺はキーボードを叩きながら1人ぼっちで泣いていた。
この部屋には俺しか居ない。
始まったものは、いつか必ず終わる。
この文章のように。
~完~
シャーク山崎【短編小説】 Unknown @ots16g
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