第2話 勇者、出勤拒否

***


「レンジさん、もう無理です……」


 勇者アルドが、ついに倒れた。

 目の下のクマはもはや国家レベル。

 隣の僧侶リリアは祈りながら寝落ちしている。

 魔法使いカナタは口からマナの泡を吹いていた。


 ──現在、時刻は午前3時。

 昨日から休憩なしの魔王軍討伐24時間耐久クエスト、継続中である。


「みんな、あと少しだ。夜明けまでに報告書を出さないと」

「報告書!? なにその文化っ!?」


 アルドが叫ぶ。

 俺は真顔で答えた。


「戦闘後は必ず、日報を提出しないと。成果の共有はチームワークの基本です」

「もう働きたくない……!」


 勇者がうずくまり、剣を床に突き刺す。

 リーダーが折れた瞬間、俺のステータス画面が光った。


《スキル「社畜根性」が反応しました》

《リーダー不在のため、代理責任者に昇格します》


 ──あ、昇進だ。

 転生しても、昇進のタイミングは唐突である。


***


翌朝。

勇者アルドは、テントの中でふて寝を決め込んでいた。

外では、俺と僧侶リリアがモンスターの残骸を片付けている。


「勇者様……今日の討伐は……?」

「休む! 俺は今日、有給を取る!」


 有給。異世界にもあるのか。

 というか、取れるのか。


「アルドさん、労働時間はまだ今週128時間ですよ?」

「いやもう限界超えてるんだよ!?」


 勇者が叫んだ瞬間、俺のスキルが勝手に反応する。


《スキル効果:「チーム全員の労働時間が均等化されます」》


「おい待て!? 俺の睡眠時間が減っていくんだけど!?」

「チームワーク重視なので」


 リリアが泣いた。

 俺も泣きたかった。でも仕事は仕事だ。


***


その日の夜。

魔王軍の偵察部隊がキャンプを襲撃してきた。

普通ならピンチの場面だが──


「お前たち! 勤務外です! 残業代は発生しますか!?」

「な、なにぃ!?」


 魔族たちは困惑していた。

 俺は剣を抜き、静かに呟いた。


「残業代の概念がないなら、俺がまとめて回収するまでだ」


 スキル《社畜根性》が再び発動。

 血走った目、無限の体力、そして──


《派生スキル発現:「サビ残モード」》

《効果:報酬が発生しない状態でも作業を継続できる》


 勇者たちが悲鳴を上げる。

 魔族たちが逃げる。

 そして俺だけが、仕事の後処理を続けた。


***


翌朝。

テントの前に置かれていた一枚の紙。


【退職届】


勇者アルドは本日をもって、勇者パーティを退職いたします。

理由:心身の不調および上司(レンジ)の労働観に対する恐怖。


 リリアとカナタの署名欄も埋まっていた。

 まるで回覧板のようにきれいな字で。


「……ふむ。欠員が出たか。」

 俺は静かに呟いた。


《スキル「社畜根性」Lv.3に進化しました》

《効果:空席がある場合、自動で新入社員(※召喚)を採用します》


 光が弾け、次の瞬間──

 新人らしき青年が、眩しい光の中から現れた。


「おはようございますっ! 本日から配属されましたインターンのユウトですっ!」

「よし、歓迎会の準備をしよう。残業でな。」


「は、はいっ! 全力で……残業しますっ!」


 勇者パーティ、再構築。

 異世界の労働環境は、今日も地獄である。


***


次回予告:

第3話「魔王、ホワイト企業を設立」

──“倒すべき敵”が、まさかの“転職先”になるなんて。

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