元カノに裏切られた俺が推しVtuberに励まされてたら、中の人が同じクラスの陰キャで超絶懐かれてた

@stay_

第1話

 俺、柏木春樹が彼女にフラれたのは、桜の散る四月のことだった。


「ごめん、春樹。もっと面白い人がいいかなって」


 付き合って半年の麻衣は、申し訳なさそうにそう言った。でも、その目は既に別の誰かを見ているような、どこか冷たい光を宿していた。


 翌週、麻衣は陽キャグループのリーダー格、田中と手を繋いで廊下を歩いていた。俺の存在なんて、最初から無かったみたいに。


「マジかよ……」


 一人で帰宅する電車の中、スマホを握りしめる。SNSのタイムラインには、麻衣と田中のツーショット写真が流れてくる。いいねが三桁ついてる。


 胸が痛い。呼吸が浅くなる。


 こんな時、俺には一つだけ逃げ場があった。


 それが、Vtuber「ユメノ=ハル」の配信だった。


 その日の夜、ハルの雑談配信が始まった。


 画面に映るのは、淡いピンク色の髪をした少女のアバター。ふわふわした雰囲気で、でも声は少しだけ低めで落ち着いている。


「こんばんは、ハルだよ。今日もまったり話そうね」


 チャット欄が流れていく。常連のリスナーたちが次々にコメントを投下する。俺も「ハルちゃんこんばんは」と打ち込んだ。


 いつもなら、それだけで満足して配信を眺めているだけだった。


 でも今日は違った。


 気づけば、俺は長文を打ち込んでいた。


『彼女にフラれました。理由は「つまらない」から。俺、何がいけなかったんだろう』


 送信ボタンを押した瞬間、後悔した。こんなの、ただの愚痴だ。配信者に押し付けるようなことじゃない。


 けれど、数秒後。


「あ、えっと……春樹さん?」


 ハルが、俺のコメントを読み上げた。


 画面の中のアバターが、少しだけ俯く。


「つらかったね。でも、あなたがつまらないわけじゃないと思うよ」


 チャット欄が一瞬静まる。ハルは言葉を選ぶように、ゆっくりと続けた。


「人には相性があるから。その人にとって合わなかっただけで、あなた自身の価値が下がるわけじゃない。絶対、あなたを面白いって思ってくれる人がいるよ」


 胸が熱くなった。


「それに……その彼女、見る目ないと思う」


 アバターが少しだけ笑う。


「春樹さんのコメント、いつも優しくて、ちゃんと考えて言葉を選んでるなって思ってたから」


「え……俺のコメント、覚えてくれてたの?」


 チャット欄が一気に動き出す。


『ハルちゃん優しすぎる』

『春樹さん良かったな』

『推せる』


 でも、俺の目には何も入ってこなかった。


 ハルの言葉だけが、心に染み込んでいく。


 画面越しでも、この人は本気で俺を励まそうとしてくれている。それが伝わってきた。


『ありがとう、ハルちゃん。少し楽になった』


 そう返信すると、ハルは嬉しそうに笑った。


「うん。無理しないでね、春樹さん」


 その夜、俺は久しぶりにぐっすり眠れた。

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