二時間目が終わる――このタイミングに、決まって“天敵”がやってくる。

これといって用事があるわけでもないのに、曰く「俺をからかうのが癖になっている」らしい。

まったく、迷惑な話だ。

それを見越して、俺は机の中から本を取り出し、何気なくページを開く。

いつもの防衛行動である。

噂をすれば、何とやら。

教室の入り口がざわつき、堂々と現れるその男――博和。

クラス中の、特に女子たちの熱っぽい視線が一斉に注がれる。

「博和くん！」というコールまで飛び交う始末だ。

俺は目を伏せ、文字の海に沈む。

だが、背後から漂う空気は無視できない。

笑い声、くすくすとした囁き、椅子を引く音――

すべてが、俺に向けられた歓迎ではなく挑発のように感じられる。

それでも、当の本人は微動だにしない。

背筋を伸ばし、スタスタと俺の席へと歩み寄ってくる。

口角が、わざとらしく吊り上がっていた。

それだけで、もう十分に不愉快だ。

毎度毎度、災難を運んでくる。

「実は疫病神なんだ」――そう告白されたところで、いまさら驚きはしない。

俺は怪訝そうに目を細める。

だが、決して突き放すような真似はしない。

本当は、話しかけられるのが少し嬉しい――なんて、口が裂けても言えない。

唯一の男友達だ。話くらいは聞いてやろうと思う。

――ただ、今日はどんな災難が降ってくるのか。

それだけが、気がかりだった。

「デデン！　なあ裕也、このマスコット、可愛いだろ？」

開口一番から、やたらと癖になる効果音付き。

机の上に置かれたのは、恐竜の形をした食玩だった。

たかがマスコットに心を動かされる歳でもない。

期待に満ちた博和の顔を一瞥し、「ふん」と鼻で笑って、さっきまで読んでいた小説へと視線を戻す。

「興味なし」

そう言った次の瞬間――

手にしていたはずの小説が、忽然と消えていた。

掻っ攫われたのだ。

さすがサッカー部の部長、反応速度だけは一級品である。

博和は表紙を覗き込み、眉をしかめる。

次の瞬間、何のためらいもなく文庫本を背後へ放り投げた。

本はゆるやかな弧を描き、教卓の上に音もなく着地する。

その見事なコントロールに、クラス中からまばらな拍手と歓声が起こった。

……まただ。

こいつはいつも、俺の静寂を、いとも簡単に壊していく。

それでも――不思議と、完全には怒れなかった。

唯一、俺に話しかけてくれる男だから。

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