第29話 氷の国 ― 氷玉座の王、顕現

氷影主柱を撃破した直後、

エリナが膝をついた。


「……くっ、魔力……もう限界……」


肩で息をし、炎の残滓がぱちりと揺れる。


ルーガも壁にもたれ、片腕を押さえていた。

薄い血が指の間から滲む。


「悪いな……ちょっとばかし、足が動かねぇ……」


アウリスは二人に駆け寄ろうとした――だが。


シオンが前に出て、首を横に振った。


「アウリス……僕たちは進まなきゃいけない。

 でも、二人は置いていけない……」


その時だった。


「殿下ッ!! こちらへ!!」


霧の裂け目から、複数の影が走り出てきた。

反逆村ユルグの戦士たち――

シェラ、トール、カイを先頭に、

革命派の一団が駆けつける。


シェラがエリナの肩を抱き支える。


「ようやったねぇ……あとはワシらに任せんしゃい!」


トールがルーガを支え、叫ぶ。


「俺たちが護ります! 殿下は城へ!!」


ルーガは苦笑し、アウリスにだけ聞こえる声で言った。


「……悪いが、ここは任せた。

 ちゃんと殿下を……頼むぞ、アウリス二等兵。」


アウリスは息を呑み――

深く、強くうなずいた。


「……任せてください、ルーガさん。

 必ず終わらせて戻ります。」


革命派が二人を後方へ引き上げていく。


エリナが振り返り、弱く笑った。


「アウリス……シオンを……お願いね。」


その光景を見届けると、

アウリスとシオンは、黙って王城の奥へ向かった。


霧が二人の進路を割るように揺れる。


(……絶対に終わらせる。ここで。)


アウリスの風が、細く鋭く揺れた。


 


 


――そして。


 


 


王城最奥、氷玉座の広間。


扉が重く開くと同時に、

空気そのものが無音で“支配された”。


氷柱と霧が律儀に震える。

玉座の前の空間だけが異様な静けさを保っていた。


シオンが息を呑む。


「……父上……」


霧が裂ける。


氷の王――

アルディウス・グラキエスが姿を現す。


無表情。

怒りすら見せない。

ただ立つだけで広間が数度冷え込む。


白銀の髪は雪のよう、

瞳は極光を凝縮したような薄い青。


それだけで、

“強者”という概念が陳腐に見えるほどの圧。


アウリスの背中も汗ばむほどの冷気が走った。


(この男だけは……本物だ……)


歩くたび、霧がひれ伏し、氷が鳴く。


広間の温度がさらに下がったその瞬間――

王はゆっくりシオンへ視線を向けた。


何の感情もない。

ただ“結果”だけを見る王の目。


そして。


 


 


「……来たか。」


 


その三文字が放たれた瞬間、

王城全体の霧が震え、

まるで国そのものが膝を折ったようだった。


氷の王アルディウス・グラキエス。


その冷徹なる一言こそが、

グラキエスを凍らせた“原因”そのものだった。

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