それでも嘘をつく

@Yu_o8nk

第1話 一之瀬海優(いちのせみゆ)

 私の名前は、一之瀬海優いちのせみゆ。高校1年生の半分が過ぎた今、私はとても焦っています…。

「あーーーーー、文化祭実行委員になんかなるんじゃなかった!」

文化祭実行委員はクラスで2人出さなければならず、女子全員から推薦されてしまった私は、断ることもできないまま、実行委員となってしまったのです。

「もうまたそんなこと言ってる。嫌なら嫌って言えばよかったのに。」

私の親友・彩芽あやめはそう言った。

「みんなの期待には応えたいの。」

私の口癖だ。みんなから信頼されて、好かれて、そんな自分を”演じている”ときの私。


「あの、一之瀬さん。」


彩芽じゃない声が聞こえた私は、パッと声のする方向を向いた。そこにいたのは、クラスメイトで同じ文化祭実行委員の朝日あさひくんだった。

「どうか、した?」

朝日くんとはほとんど、というか全く話したことがなかった。クラスでも比較的目立つほうの男子ではあったが、私はなぜか話しづらい。そんな朝日くんに急に話しかけられて驚いてしまい、微妙な反応しかできなかった。

「文化祭のことで放課後話したくて。時間ある?」

朝日くんは少し気まずそうな顔で私にそう言った。

私は特に予定もなかったので、朝日くんからの質問にもちろん「時間あるよ!話そう!」といつもの笑顔で答えた。


その日の放課後。

もう教室には私と朝日くんしか残っていなかった。

「文化祭は効率的に考えて、やっぱりこっちのほうがいいんじゃないかな。」

朝日くんからの提案。今日話してみて、朝日くんはかなりの効率重視派だと分かった。今まで気づかなかったけれど、朝日くんは頭が良く、顔も整っている、ということも分かった。これはモテるだろうななんて考えながら、文化祭についての意見を出していると、

「一之瀬さん、聞いてる?」

朝日くんに勘づかれてしまった。

「ごめんごめん。ぼーっとしてた。」

そう言うと、朝日くんがクスクスと笑いはじめた。なぜ笑っているのか分からず、自分でも分かるくらい困った顔をしていたとき、

「一之瀬さん、もっと完璧で抜け目のない子だと思ってたんだけど、さっきから話してて、会話は成り立ってるのになんか上の空だなって思って。そしたら、思った通りぼーっとしてたって分かって、なんか面白くて。ごめんね。嫌だったら言って。」

私は本当に驚いた。なぜ上の空だったことがバレたのだろう。今まで、こんな状況になったことは何度もあるが、1回もこうして勘づかれたことはないし、朝日くんが最初に言っていたように「完璧で抜け目のない子」というイメージしか持たれなかった。なのに、朝日くんにはお見通しだった。

「なんで分かったの?」

不思議で仕方がなかった私はつい、そう聞いてしまった。

「え?だって分かりやすいもん、一之瀬さん。授業中もたまにぼーっとしてる?って思うときがあったんだけど、まさかそれも当たってる?」

驚きが隠せなかった。当たっているのだ。こんなにも私のこと見ていたんだという気持ちと同時に、朝日くんのことを知りたいとすら思った。

「朝日くんは私のこと全部知ってるの、?」

つい意味が分からない質問をしてしまった。

すると、思った通り笑われてしまった。

「なんでもは分からないけど、なんとなくなら分かるよ。多分今日初めて話したけど、一之瀬さんがどんな人かくらいは分かると思う。」

私は食い気味で「全部教えて。」と言った。


「色々な”一之瀬さん”がいる。友達といるときの一之瀬さん。先生とか目上の人と話す一之瀬さん。家族といるときの一之瀬さん。全部が全部”一之瀬さん”なんだけど、何かが違う。実行委員も本当はやりたくなかったけど、誰もやりそうになかったし、みんなから推薦されたから、仕方がなくやった。

違ったらごめんね。俺はそう思った。一之瀬さんは不思議な人だなって。みんな、色んな面を持っているけれど、一之瀬さんはみんなと何か違って、そのことを人一倍気にしてるとかも思ったかな。」


朝日くんはすごい人だ。今日1日話しただけなのに、ここまで私のことを分析している。しかも、驚くべきことに全てにおいて合っているのだ。なんでこんなに私のことを知っているのだろう。不思議で不思議で仕方なかった。


──────朝日くんのことをもっと知りたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それでも嘘をつく @Yu_o8nk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る