路上占い、あれこれ66【占い師は過去と会う】
崔 梨遙(再)
すぐ読める1088文字。
僕にはピンチの時が何回かあった。その時も、本当にピンチだった。信用・信頼していた人達に、続けて裏切られたからだった。お金も踏み倒された。人はお金が絡むと変わるにしても、僕は人間不信、いや、対人恐怖症になった。マンションの自宅から出られない。1歩外に足を踏み出す、たったそれだけのことが出来なかった。いやいや、それ以前に玄関のドアを開けることが出来なかった。
外に出られないから買いものができない。ドアを開けられないからピザなどの注文も出来ない。家にあった食料と水分で何日もしのいだ。やがて食料は尽き、水だけ。『絶対に4ぬ』と思った。立ってもふらつく。その時、ふと思い出したことがあった。僕はそれが気になった。そして、勇気を全部使ってドアを開けた。
僕が行ったのは小学校だった。受付の女性と話すのもしんどかった。
「あの・・・僕、卒業生なんですが」
「今日はどのようなご用件でしょうか?」
「忘れ物みたいな・・・」
「忘れ物ですか?」
「いや・・・小学生の時に埋めたものがありまして・・・」
「あ、タイムカプセルみたいな?」
「はい」
「どの辺りですか?」
「ジャングルジムの辺りです」
「どうぞ、構いませんよ」
「不審者と思われたくないので、誰か付き添ってもらえませんかね?」
「あ、用務員さんを呼びますね」
「あと、すみませんがスコップも貸してください」
「はーい」
「ありました」
「いいなぁ、そういえば俺も埋めたなぁ」
金属製の箱だったので、外は腐食していたが中はキレイだった。プラモデルとか、おもちゃが幾つかあったが、僕が探していたのはそれじゃない。
「ありました」
「そうか、よかったな」
僕は手紙を手に取った。“未来の僕へ”と書いてあった。封筒のに便箋。
『未来の僕へ』
書いてある文章を読む。
『未来の僕は、きっと小説家になっている』
ごめんよ、過去の僕。まだ小説家になっていないよ
『未来の僕は、きっと人の役に立っている』
ごめんよ、過去の僕。人の役に立ってないよ。人が怖いんだよ。
『未来の僕は、きっと何にも負けない。強い男になっている』
・・・・・・。
『未来の僕は、困った人に寄り添っている』
・・・・・・。
『未来の僕は、幸せな家庭を築いている』
ごめん・・・。
『もし、未来の僕が、今の僕が想像している人間でなければ、僕は僕を許さない』
ごめん、過去の僕・・・厳しいね、過去の僕・・・待ってろよ、過去の僕!
その日、久しぶりに営業のアポをとった。明日のアポだ。翌日、僕は深呼吸してからドアを開けて外に出た。まずは営業(本業)だ。この調子なら、近い内に路上占いも再開できそうだ。
たまには、過去の自分に会うのもいいかもしれない。
路上占い、あれこれ66【占い師は過去と会う】 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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