画面の向こうにいる人間を殺せる力を得た人間のはなし。
砂糖黍かな
〇
昨日、僕は事故にあって臨死体験をした。
そのとき、夢の中で、神様に出会ったんだ。
「お前に異能を授けよう……」
「え? だれ? なんで? えっ? 誰!?」
病院のベッドの上で目が覚めると、体には全く怪我が残っていなかった。どうやら神様は異能をくれたと同時に肉体も治癒してくれたらしい。
なぜ異能をくれたのか、なぜ僕が選ばれたのか、それらの疑問は一切解決しなかったけど、たった1つ、くれた異能がどういうものなのかはポンッと頭の中に浮かんできた。
『殺したいと思った対象を殺せる能力』
それだけだ。
医者や看護師に戸惑われるまま退院した僕は、そのまま家に帰った。
自分の部屋の椅子に座り、自分の手のひらを見つめる。
(こういうのって……もっと制限とかがあるんじゃないのか? Aができる代わりにBができなくなるとか、能力を使うのに一定時間のクールタイムや必要な手順があるとか……そういうのが何もない……ただ殺したいやつを殺せる力……?)
とりあえず、俺は中学校の卒アルを開いた。
「えーっと……3年2組の……あいつあいつ~っと」
見つけた。
中学時代、僕をずっといじめてきたあいつ。昼神ってやつだ。
卒業してから俺は隣の隣の市にある高校に通っているからもう会うことはないが、昼神にいじめられた記憶と恨みは消えることはない。
僕は昔読んだ記憶がある漫画のように、殺したいやつの顔と名前を思い浮かべた。
「……死ねっ」
これ、ノートに書かなくてもいいのか? と思いつつ、卒アルを閉じ、本棚に仕舞った。
翌日、昼神が死んだらしい。
中学時代の唯一の親友から教えてもらった。
どうやら、無免許で車を運転していた昼神が操作を誤って橋のしたの河川に落下したらしい。
きもちよかった。
今後の人生でもしも昼神と再会したらどうしようかと思っていたから、それがなくなったことは、きもちよかった。
「……そうだ」
ずっと前から、僕が大好きな漫画をSNSでずっと叩いてるアンチのアカウント。
ブロックしたからと言って、僕の記憶から消えたわけじゃない。このアカウントの持ち主が死ねば、すこしはきもちいいだろうな。
僕はSNSアプリを立ち上げ、アカウント名を検索する。忘れたくても忘れられない名前だ。
僕はそのアカウントのアイコンを見つめ、念じた。
(……死ね!)
部屋はしんと静かだ。
殺したいと思った相手を殺せる能力は、どこまで通用するんだろうか。
本名や名前すら必要ないのだろうか。
僕はそのアカウントの最新の投稿を見た。普段漫画関係の投稿ばかりしているそのアカウントだが、最新の投稿は珍しく三次元の画像が添付されていた。
その画像にふと目をやる。
(……いやさすがに……それはあり得ないだろ。別に僕は本気で死んでほしいわけじゃ……ただの鬱憤晴らしだし)
スマホをベッドに放り投げ、壁にかかっている時計を見た。
時刻は8時30分。
そろそろ親が家に帰ってくるころだ。
「あー腹減った。自分でなんか作っちゃうか?」
かみさまはどうして、僕にこんな能力をくれたんだろう。
画面の向こうにいる人間を殺せる力を得た人間のはなし。 砂糖黍かな @aRum_kana
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