カップ麺を落としたら、運命の友達に出会えたのだ

チャイ

カップ麺を落としたら、運命の友達に出会えたのだ

(主人公のイメージボイス:ずんだもん)


「カップ麺落としましたよ」

わ、あわ、あわわわ。

「ごめんなしゃい!!」

ドラッグストアの自動ドアの前で、入って来た人とぶつかった僕。

カップ麺、ポテチがバラまかれちゃった。レジ袋ケチって小さいのにするんじゃなかった。あと、ボクって、いつもボーっとしてるから。 


ぶつかった人も何か落としたようで、コロコロ転がる缶ビールを拾ってる。そしてスーツ姿の彼は僕にポテチを手渡しながら、「大丈夫ですか?これで終わりかな?」と微笑みながら聞いてくれた。

僕より少し年上っぽい、落ち着いた穏やな感じの人。


そして僕らは照れ臭いような顔で会釈しあって、彼は店のなか、ボクは店の外へ。

秋のはじめ、涼しい夜風が、アクシデントにびびってた僕の心をスーッと冷ましてくれる。ふぅ、家に帰るまでがお仕事です!気が抜けないのだ。


しばらくトボトボ歩くと、最近引っ越してきたばかりのおんぼろアパートの姿が見えた。コーポひまわり。

階段の手すりもさび付いてボロボロ、でも住めば都!えーと、家賃激安がお気に入りなのだ。


305号室。今日も限界、バタンキューしたい。でも、疲れた体に鞭打って、まずはラーメンのお湯を沸かそう!段ボールだらけの部屋を歩く。なんか知らない人の部屋みたい。


実は引っ越し、転職して2週間。まだ会社で話す相手もいない。

「おはようございます」「お疲れ様です」って言うのが精一杯。

ランチも一人。つまり朝昼晩、ぼっちご飯……慣れてはいても、ちょっと、さみしかったりするのだ。


でもまだまだ2週間だし……、けどそう言ってたら中学高校のころ、卒業まで友達出来なかったの思いだした!

前の職場、人間関係だけはよかったのにな。夜逃げ同然につぶれるなんて。


お湯が沸くのを待つ間に蒸し鶏とにんじんしりしりのタッパーを冷蔵庫から出す。作り置きバンザイ!作っておいた僕に感謝!

蒸し鶏はレンジで簡単に作れるし、ニンジンはスライサーと麺つゆで楽ちんなのだ。冷凍もできるよ。


カップめんのフタをぺりぺりして、お湯を注いだ。いつものようにぼーっと作業した僕。でも、気づいた!「これ!違う!」

あわててパッケージを見たら、知らないカップラーメンだった。なんか色づかいが青、赤、黄色で南国っぽい。ハイビスカスも咲いてるし。


「もしかしてさっきぶつかった時にカップラーメン、入れ違いになっちゃったとか?」

あわててさっきのレジ袋をがさごそと探る。

なかった、僕が買ったはずのスパイシーカレーカップラーメンはどこにもなかった。

同じサイズだった、やっぱ入れ替わったんだ。


すでにお湯、注いじゃったよ。なになに、沖縄ソーキそば風?蓋を開けるとカップラーメンから、とんこつ系のいい匂いがした。


ごめんなさい……心の中で謝る。

いっつも僕ってこんな調子で、とろくさいんだ。


目の前のカップ麺が「食べてよー!」って言ってる。

しかたないよね。ボクは覚悟を決めて両手を合わせた。いただきます!


ソーキそば、うまぁぁぁぁ。スープはね、思ったよりもあっさり。魚介の出汁も入ってるのかも。

具は紅生姜と豚肉のかけらっぽいのとねぎ。


麺はテレビで見たことのある沖縄のソーキそばみたいに平たい。そしてモチモチ。麺をツルツル、あったかスープで癒される。


ここは沖縄!青い海、ハイビスカス。三線の音楽が鳴り響き、シーサーが踊りだしてる。なんか、あったか~い。ボクは目をとじて、うっとり夢見心地なのだ。


いけないいけない。ゴミを分別して、流しを洗おう。明日ゴミの日。

ジャージャー水を流して、亀の子たわしでゴシゴシしながら思った。

あのラーメン、また食べたいな……。じゃなくて、新しいの買って返さなきゃね。

だってきっとあの人、食べるのすごく楽しみにしてたと思うんだ。僕は優しそうなあの人の顔と声を思い浮かべた。



朝が来たのだ。眠い目をこすりつつ、大あくびしながらアパートのゴミ捨て場へゴミを持っていく。

なんと、あの人にバッタリ会った!昨日のスーツ姿と違って、パーカーにジャージ姿。寝癖もついてて、なんだか親しみやすい感じ。


「あわわ、昨日の!!!あのあの、ごめんなさい」

心の準備ができてなくて、心臓バクバクする。知らない人と話すの、苦手なのだ。

でも言わなきゃ。ちゃんと謝らなきゃ。

ゴミ袋を手にした、その人もびっくりした顔だった。

そして、自分の寝癖に気づいたのか、頭をかいた。


「もしかしてカップ麺?」

「は、はい!実は僕、あなたの沖縄そば食べちゃって……」

うわ、声、震えてる。

「やっぱりですか。実は俺もカレーラーメン食べちゃったんですよ。はじめてだったけどカレーっていけますね!」

その笑顔で、少しだけ緊張がほぐれた。それに、これは本当においしかった顔だよね。あわわ。ここで気の利いた言葉なんて出てこない。僕の頭は真っ白。絞り出せ!


「じ、実はボク、カレーマニアで……」

「へぇ、カレーもいいよね、おすすめある?」

僕ら、奇跡的に話が弾んでしまった。

彼は103号室の人だった。人見知りのボクが、昨日ぶつかっただけの人と、こんなにおしゃべりできるなんて!

「おっと、こんな時間だ」

出勤前で時間のない僕ら。話の続きは今晩飲みながらってことになったんだ。



その晩その人の部屋で事情を説明しあった。僕は買ってきた缶ビールとノンアルチューハイとスナック菓子を手渡す。そして沖縄ラーメンも。


彼は金城と言う名前だった。金城さんの部屋は、僕の部屋と同じ間取りなのに、なんだか全然違う。

壁には沖縄の海の写真。ウエットスーツ姿の金城さんが映ってる。小さな棚にはシーサーの置物。

「散らかってますけど」と言いながら、テーブルの上の雑誌を片付ける金城さん。

スーツ姿の時はすごく大人っぽくてかっこよかったけど、家では普通のお兄さんって感じ。


「わざわざ買ってきてくれたんですね。お互い様だったのに」

沖縄ラーメンを愛おしく見ながら彼は言った。

「この沖縄ラーメン新発売らしくてね。あの店カップめんの品ぞろえいいでしょ。俺、平日はドラッグストア寄らないんだけど、どうしても欲しくなって行ってみたんだよ」

ビールをぐびっと飲むと、「俺の故郷の味さー」ってお国言葉が出た。


そして「あー、やっぱビールうまい!」と満面の笑み。

昨日のドラッグストアで会った時の落ち着いた雰囲気とは違う、くつろいだ顔。

ちょっと幼く見える、こんな表情もするんだなって、なんだか嬉しくなった。


それにしても、なんて偶然!僕は胸あつなのだ。

「めっちゃおいしかったです!」

僕は沖縄そばのおいしさを熱く熱く語った。オタクっぽいって思われても、もう止まらない。


彼は嬉しそうにそれを聞きながら、沖縄料理をふるまってくれた。豚を煮込んだラフテー、チャンプルーにスパムおにぎり。

「これね、俺のお気に入りの沖縄料理店のテイクアウト」

手際よく皿に盛り付ける金城さん。

「あ、箸箸……どこやったっけ」

きょろきょろと探す姿が、なんだか可愛い。仕事モードとのギャップがすごいのだ。


「めっちゃおいしいです!」

「沖縄料理気に入ってくれて、うれしいなぁ。よかったら、今度その店、一緒に食べに行きませんか?もちろんソーキそばもあるから」

「いきたいです!で、そのあの……」

口ごもってる場合じゃないのだ。

「うん?」

「僕のおすすめのカレー屋さんにも一緒にいかがですかなのだ!」


金城さんは嬉しそうに頷いた。

「もちろん!楽しみにしてます。あ~、けどね、あんまり辛いのはダメダメ。実はね、俺普段甘口なんだよ」

顔の前で必死で手を左右に振ってる。

「了解です!」


「じゃあ、来週の土曜日で!」

金城さんの部屋を出て、階段を上る。友達が同じアパートに住んでるって、なんだか不思議だな。


202号室のドアを開けると、引っ越したばかりで慣れない静かな部屋。

でも今日は、なんだか温かい。

窓の外に見える夜空に、小さく星が瞬いていた。


転職して、引っ越してきて、さみしかった日々。

でも、不器用な僕でも、こんな出会いがあるなんて。


テーブルの上には、金城さんからもらったスパムおにぎりが一つ残っている。

「明日の朝ごはんにどうぞって」

そう言って、照れくさそうに渡してくれた。


ボクはスパムおにぎりを眺めながら、にっこり。

そうだ、会社の人と故郷の話や食べ物の話してみようかな?

でもって週末は金城さんと食べ歩き!

明日からもがんばれそうなのだ!


挿絵のレシピカードです。2枚目がレシピ本体

麺つゆで作るにんじんしりしりです。


https://kakuyomu.jp/my/news/822139838808177256

https://kakuyomu.jp/my/news/822139838808456730

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カップ麺を落としたら、運命の友達に出会えたのだ チャイ @momikan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ