紅葉狩りツーリング
今年の夏も酷暑だった。気象庁の分類だったら、
・最高気温が三十五度以上なら猛暑日
・最高気温が三十度以上なら真夏日
・最高気温が二十五度以上なら夏日
・最低気温が二十五度以上なら熱帯夜
こうなってるらしいけど、猛暑日どころか体温越えの日もバンバンあったし、熱帯夜なんて当たり前だ。夏日どころか真夏日でも今日はマシって感じたもの。それでもなんとか秋が来てくれて、ツーリングをするには寒さ対策が必要になって来てる。
バイクって外気温が直撃する乗り物だから、寒さ対策も怠ると体の芯まで冷えちゃうもの。その代わりじゃないけど秋の景色が楽しめるシーズンになってくれている。秋と景色と言えばやっぱり紅葉狩りだ。
これも考えてみれば不思議な言葉で秋ならブドウ狩りとか、イチゴ狩りもあるけど、あれはブドウやイチゴを採って食べる事だ。紅葉なんて食べるのは箕面の滝ぐらいしかないじゃないの。ようわからん。
それはともかく紅葉を見るのは好きだ。いかにも日本の秋って感じがするもの。と言う事で今日は紅葉狩りなんだ。まずは西脇を目指すのだけど、西脇市街をどうするのかと思っていたら、へぇ、千草先輩のコースが違うな。
「ここでモーニングにしましょう」
喫茶店だけどレンガ造り風で良い感じじゃない。中もシックで悪くないぞ。トーストはバターと、ジャムと、ピーナッツバターがあったけどピーナッツバターにしてみた。うん、これはなかなかだ。
モーニングはコーヒーも重要だけどパンも大事よね。美味しいパンは鈴音も嬉しいもの。後は茹で卵とポテサラとは充実してるじゃない。よくこんな店を知ってるものだ。温かいのが今日はとくに嬉しい。
「グリップヒーターはどうですか?」
バイクの防寒対策のトレンドは電熱なんだ。真冬でもツーリングをする人なんて全身電熱で武装している人がいるぐらい。そこまではモンキーじゃ無理だし、真冬にツーリングをする気もないからグリップヒーターだけ付けてみた。
これはツーリングじゃなく通勤対策なんだ。通勤だから時間は短いじゃない。体はそれなりにカバーできるだけど、とにかく手が凍えるのよね。冬用グローブをしてても冷えあがるんだもの。
だから純正オプションでグリップヒーターがあったから付けてみたんだ。効果はあるのはあるし、あると無いでは大違いだけど微妙だな。あれって当たり前だけどグリップを握ってるところしか温まらないのよね。
そこは有難いのだけど、運転してる時ってグリップを掌全体で握りしめてるわけじゃないのよね。左手はしょっちゅうクラッチ操作が必要だし、右手だってフロントブレーキが必要じゃない。
レバーに指をかけてる時間が長くなってしまうだけど、そこのかけてる指がとにかく凍える。もうちょっと温かいのを期待してたのだけど、そこまでじゃなかったかな。哲也さんのハンターカブなら左手のレバー操作が無いから良いかもよ。
「それぐらいだったのですか」
うん、そんな感じ。あった方が良いのは認めるけど、これですべて解決みたいな夢は抱かない方が賢明かな。うだうだ話をしているのは休憩の意味もあるけど、ここまで来るだけでも冷えたのよね。
夏の暑いのは論外だけど、冬の寒いのもバイク乗りには応えるのよね。だってさ、ひたすら全身を扇風機で冷やされてるようなものだもの。モーニングの時間で少し温まらないとこの先が辛いもの。
ツーリングしてるとモロで実感するけど、神戸から北に上がるほど寒くなる。道路に時々ある気温表示もそうだし、それより全身でそう感じる。六甲山を越えただけでトンネルを抜けたらそこは寒いところだったになるんだよ。
西脇だってだいぶ北になるけど、今日はさらに北に行くんだ。どれぐらい北かって? 播磨を越えて丹波だよ。でもね、それでも走りたいのがバイク乗りだ。そうは言うものの、今年も後どれぐらい行けるかレベルになってるけどね。
さて気合を入れて出発だ。この道は千草先輩と走った事あるから知ってるんだ。多可から杉原ってところを通って播州峠を越えるんだよね。今日は道の駅もパスして目的の紅葉の名所に。
入山料三百円を払って入ったけど、これは綺麗だ。お寺だけど、ここの紅葉は普通の紅葉じゃなく天目紅葉なんだって。見た目でどこが違うかわかんないけど、綺麗であれば文句はない。本堂にお参りしてたら、
「鈴音ちゃんも来てたんだ」
なんと千草先輩も来てたんだ。もしかしてソロツーとか、
「トイレに行ってる」
旦那さんとマスツーか。哲也さんにも紹介したけど、
「えっと」
「あれっ」
どうしたのだろ。ひょっとして知り合いだとか。そこに現れたイケメン。誰だと思ったけど、
「なんや哲也先生やんか」
「水鳥先生が来られてるとは・・・」
えっ、えっ、水鳥先生って大人気イラストレーターの水鳥透だって言うの? 哲也さんもイラストレーターの端くれだから知っていてもおかしくないけど。
「これからどうするねん」
水鳥先生と哲也さんは今日の予定を話していたけど、
「寒いやんか。そやから・・・」
「それはお邪魔になりますから」
「千草もエエやろ」
水鳥先生もツーリングしながら寒さに音を上げてたみたいで、
「千草と夜はあったかいもんにする話で盛り上がってたんよ」
「コータローが食べたいだけでしょうが」
「千草は食べたないんか」
それにしても驚いた。千草先輩の旦那さんが水鳥先生だったなんて。だって、まったくってぐらい教えてくれないんだもの。旦那さんは幼馴染だって聞いてはいたけど、鈴音だって知ってる有名人じゃないの。そしたらなんか話がまとまってしまい、
「鈴音ちゃんも良いよね」
なんか嫌だと言い出せない空気にさせられてしまったから賛成にした。でもこれって千草先輩の家にお邪魔する事になるんだよね。
「千草の家はオレの家でもあるからな」
そうなんだよ、あの水鳥先生の家にお邪魔する事になるんだ。有名人の家ってどんなんだろう。やっぱり門があって、広いお庭があって、そこにはコイが泳いでいて、
「残念やけど普通のマンションや」
お寺からそのまま東に走り、丹波の森街道を南下した。氷上から柏原、鐘ヶ坂峠って、
「あそこからなら他にルートがないですからね」
篠山の街に入り買ったのは猪肉だ。猪肉だけじゃなく、牛蒡とか、白菜とか、椎茸とか、長ネギとか、糸こんにゃくとか、豆腐も篠山の店で買い集め、
「これがないとアカン」
「こればっかりは、ここじゃないと無いものね」
特製味噌みたい。
「鳳鳴も良いけど今日は秀月にしとこか」
「いつも鳳鳴だものね」
そこから六甲山トンネル越えだけど、困ったな。今日はツーリングウェアなんだよね。それを見て誘われてるから、そこはまだ良いかもしれないけど、牡丹鍋ならお酒も入るじゃない。バイクもあるし帰りが困るよ。
「それは鈴音さんさえ了解してくれたらなんとかなるけど」
えっ、どういうこと。まぁ、市内だから遅くなってもタクシーでなんとかなるはず。
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