第3話 衝撃

「今は、リハビリの技術が進んでいるし、


オマエのは中ぐらいの麻痺だから、


かなり良くなると思うよ」


「…と、いうことは、完全には治らない。


そういうことか」


「まだ、三十代だから、


ほぼ完全に治るということも多い。」


「脳梗塞は年寄りの病気だと思っていたよ」


「いや、数は少ないが、三十代でもなることがある。


ただし、何か特別な原因があるはずだから、


治療と並行してそれも調べるよ」


俊彦はそう言って、


窓際の赤いシクラメンとポインセチアに目をやった。


「それにしても、オマエの奥さん、すごい美人だなあ。


オマエは昔からもてたけど、まさかあんな美人だとはね。


えーっと、女優では誰かなあ?


外国のあの人に似ているけど、ずっときれいだよ


デビュー当時のオリビア・ハッセイにも似ているかな?


どうやって手に入れたんだよ」


「ああ、オレの部下でな。


一緒に仕事をしているうちに親しくなったんだ」


「馴れ初めを詳しく聞かせろよ」


「ああ、彼女は博多の出身でな。


東都女子大に入学した時からこちらに一人暮らしなんだ。


知っての通り、


オレも父親の転勤で小学校の頃は博多だったろ。


彼女と博多の思い出を


博多弁で話し合っているうちに親しくなってな」


「そうそう、オマエの結婚式は


ちょうど学会発表の日だったので、


行かれなくて申し訳なかった」


「オレたちは仕事優先なんだから仕方ないよ。


オレも寝る時間もないほど忙しいんだ」


「年賀状も写真付きじゃなかったので、


奥さんを初めて見たよ。びっくりしたなホント」


その時に、ドアが開いて、奥さんが入ってきた。


奥さんは俊彦の前に来ると、深々と頭を下げた。


「死ぬ寸前の主人を生き返らせてくれた先生は神様です。


ほんとうに…、ほんとうに、ありが…」


そこで声を詰まらせてしまった。


あとは広げた両手を顔に当てて、すすり泣くばかりだった。


「噂の家内だよ。名前は『美香』、今年三十歳だ」


俊彦は目を大きく見開いて大声で言った。


「えぇー? 二十三歳ぐらいかと思ったよ!」


「オマエ、お世辞がうまくなったな。


年の功ってやつか」

「いや、違うよぉー。ほんとうにそう見えたんだよ」


と、両手を横に振った。


「それは嬉しいな、ははは」


その時、美香さんが古田に厳しい視線を向けた。


「あなた! さっきから聞いていると、


あなたを生き返らせてくれた先生に、


友達みたいな言葉づかいをしているけど、失礼よ!」


「あぁ…、紹介してなかったけど、


堀内先生はオレの中学の時の親友なんだよ」


美香さんは振り向くと、


大きくて美しい目をさらに大きくし、


唇を少し開けて、首を傾げた。


普通の人ならバカみたいな顔なんだろうけど、


美香さんのはすごく色っぽかった。


俊彦は、おもわずぞくっとした。

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アメイジンググレイス  — 運命 ー Kay.Valentine @Kay_Valentine

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