第11話「おばさん、スキルツリー爆発」

朝。

いつもどおりの畑、いつもどおりの空。

……のはずだった。


おばさんがパンを焼こうと手を合わせた瞬間、

上空に「ピコンッ!」の音が響いた。


《新スキル:炊飯Lv2を取得しました》

《連鎖スキルが発動します》

《料理Lv3→節約Lv4→段取り力Lv5→生活力LvMAX》

《システムエラー:概念干渉を検出しました》


「……なに、概念干渉って。米炊いただけよ?」


ライエルが外から飛び込んでくる。

「おばさん!! 空に……なんか文字が流れてる!!」

「ん?」


見上げると、空一面に

《加賀美ゆきえ、生活の神格へ進化中》

というテロップが走っていた。


「神格!? やめてよ、仕事増えるじゃない!」


村人たちが集まり、全員が拝んでいる。

「女神様……!」

「光が……! まぶしいっ……!」

「まぶしいのは太陽よ! 日差し強いだけ!」


だが止まらない。

スキルツリーが暴走し、枝分かれしていく。

《掃除》→《浄化》→《結界》

《説教》→《精神支配(母性)》

《節約》→《錬金術》→《国家再建》


「なにこれ!? 錬金まで行った!? 節約の派生おかしいでしょ!」


ぴゅる太が叫ぶ。

「ぷるっ!(眩しい!)」

「ぴゅる太も見ちゃダメ! 目に悪いから!」


しばらくして光が収まり、あたりは静寂。

空から金色の札がひらひらと舞い落ちてくる。

ライエルが拾い上げた。

「な、なんだこれ……? “クーポン券”?」

「ちょっと見せて。」


札にはこう書かれていた。

《使用者:加賀美ゆきえ 効果:あらゆる生活費10%オフ》

「……すごい。異世界共通割引券。」


「おばさん……これ、神の恩恵じゃ……」

「違うわよ。ポイントカードよ。」


その夜。

村の広場で“生活の女神おばさん”を称える祭りが勝手に開かれた。

おばさんはパンをかじりながら、ため息。

「まったく……私、ただご飯炊いただけなのに。」

ライエルが言う。

「……おばさん、それがいちばんすごい。」


「ま、世の中ね。やる気ない人ほど神になるのよ。」


異世界十一日目。

おばさん、スキルツリーの頂点に立つ。

本人、いまだパート気分。


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