第8話 おばさん、盗賊を叱る
夜。
ミルサ村に不穏な影が忍び寄っていた。
黒いマントの男たちがひそひそ声で話している。
「ヒヒヒ……金目のもん、全部かっさらってやるぜ!」
「村人なんか怖くねぇ! 寝込みを襲え!」
そのとき——
「寝込みを襲う前に、靴脱ぎなさい。」
盗賊たちはビクリと止まった。
ランプを掲げると、エプロン姿のおばさんがほうき片手に仁王立ち。
「だ、誰だお前は!」
「誰って、ただの通りすがりのおばさんよ。」
「何の用だ!」
「用? あんたたちの“生活”が荒んでるから叱りに来たの。」
「な、なにィ!? 俺たちは盗賊だぞ!?」
「知ってる。見た目が“家出した息子”みたいな盗賊ね。」
数分後。
なぜか盗賊全員、村の集会所で正座していた。
おばさんは腕組みして言う。
「まず、なんで盗むのか聞かせてもらうわ。」
「え、えっと……食うもんがなくて……」
「なるほど。じゃあ働きなさい。」
「で、でも俺ら不器用で……」
「不器用でも雑草は抜けるでしょ。雑草界の救世主になりなさい。」
「雑草界!?!?」
「盗みってのはね、自分を安売りする行為なのよ。
おばさん、それ一番イヤ。」
盗賊頭がボソッとつぶやく。
「……母ちゃんみたいだ……」
「何?」
「母ちゃんみたいです!!!」
「よろしい。じゃあ今日から“おばさん盗賊団”改め、
“清掃戦隊ミルサレンジャー”ね。」
「名前ダサい!!」
「じゃあ働いて実績作ってから文句言いなさい。」
夜明け。
村の外れで盗賊たちが雑草を抜いている。
「……なんだこの清々しい気持ちは……」
「オレ、汗かくって気持ちいいんだな……」
「だから言ったでしょ。“犯罪より掃除”よ。」
おばさんは麦茶を配りながら微笑む。
「はい、お疲れさま。砂糖入りにしといたわ。」
「お、おばさん……ありがとう……」
「“ありがとう”は3回言うと癖になるから、たくさん言いなさい。」
ライエルが呆れながらつぶやく。
「……本当に更生させた……」
「当然よ。更生ってのは、根気と糖分よ。」
翌朝、盗賊たちは“感謝の手紙”を残して去った。
そこにはこう書かれていた。
『今度、洗濯の仕方も教えてください』
おばさんは笑って手紙を折りたたむ。
「ふふっ、素直な子はだいたいいい子なのよ。」
――異世界八日目。
おばさん、治安を回復する。
戦闘なし、被害ゼロ、精神的ダメージMAX。
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