第38話 帝都侵入

 ——黒鉄の城壁は世界を拒むようにそびえていた。

 だが魔女たちは迷わない。

 愛を奪われた『代償』を、いま返しにいく。



 ——

 レジスタンスと共に、帝都を目指すナナとレア。


 ナナとレアは魔力による感知を、レジスタンスは地理や補給などを、お互いに助け合いながら、帝都が見える丘を越えた。

 

「あれが、帝都……風が澱んでいる」

 

「おかしな火の気配でいっぱいよ」

 

「でかい城壁が見えるだろう。あれは古代の遺跡を利用していてな、普通に近づくと、すぐに感づかれてしまって、何者も侵入はできず、門から入るしかなかったんだ」

 

 そうそびえる黒鉄くろがねの壁を指差しながらヴェルンが言う。

 

「そう、だが、今我々には外まで続く地下水路の地図が手に入った。これは帝国も知らない情報だ。危険な地下水路で、何人もの仲間の犠牲の中、やっと中までつながる通路を探し当てたんだからな」

 

 ゲハルトが感慨深そうに、ナナとレアを見る。

 

 ナナとレアは、帝都の城壁を眺めながら、いよいよだと、闘志で心に火をつけ、風がそれをさらに大きく強くする。


「昼間から、これ以上すすんだらあっという間に捕まってしまう。この近くに、調査の為につくった前線基地があるんだ、行こう」


 そう言って、ゲハルトは皆を、丘の近くの断層の影にあるレジスタンスのアジトへ案内して行った。


 

 古い武器や地図や物資が乱雑に置かれた、部屋に案内されて、一行は入っていった。


 入り口は自然洞窟のようにしか見えないように巧妙に隠されているにも関わらず、中は快適な人工の部屋になっている。


 そうとう以前から準備されてきたのだろうと、ナナは感じた。


 何人か元から詰めているレジスタンスのメンバーが出迎えてくれる。


「ゲハルト、無事到着ご苦労だった。ところで、このお嬢様方はどうしたんだ?」

 

 ゲハルトがニヤリと笑って、首元をさして取ってと手を動かした。

 

 ナナとレアは顔を見合わせて、しょうがないな、と苦笑して、二人で変化のペンダントを外した。


「ま、魔女……なのか?」

 

「そうだよ、グスタフ。今回の作戦に協力してくださる心強い味方だ」

 

 グスタフとよばれた男が、ナナとレアに頭を下げる。

 

「どうか、捕まってる仲間たちを助ける為に、力を貸してください」

 

「私たちは私たちの目的の為に暴れるだけだから、その間に、そちらはそちらでやってください。直接お手伝いはできませんので」

 

 ナナは冷静に答える。

 

「いやいや、それだけで充分過ぎるよ。元々は危険を承知でメンバーで陽動するつもりだったんだから、お嬢さん方の陽動は、それはとてつもないことになりそうだ」


 ゲハルトはメンバー全員に、ナナたちに頭を下げるように言った。

 

「魔女様、よろしくお願いします」

 

 レジスタンス全員の頭が下げられ、言葉が揃った。



「では、作戦の説明に移ろう、グスタフ地図を頼む」

 

 ゲハルトがそういうと、グスタフは大きな地図を広げる。

 

「この赤い線が引いてあるところが、帝都への侵入ルートになる。途中で別れている青いルートが元々陽動の為に帝城近くの広場へのルートだ。そこで出ずにもう少し進めばおそらく遺跡の基部にたどり着けると思う」

 

「この黒い×印は何?」そう聞くレアに悲しげにグスタフが答える。

 

「古代の侵入防止装置が生きている場所だ。だいたいは仲間が犠牲になった場所でもある……」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「赤いルートは進めることが確認できている。お二人は途中で別れて、青いルートを進んでください。騒ぎが起こったら我々は、この捕虜収容所に突っ込みます」

 

「別に騒ぎを起こしたいわけじゃないけど、おとなしく渡してくれるとも思わないし、おそらく大きな騒ぎはおこると思うわ」


 そうナナが話すと、あらためて、グスタフは頭を深く下げて礼を言った。

 

「どうか、よろしくお願いします」



「さて、夜も更けてきた、休憩もできたしそろそろ出発しよう」

 

 ゲハルトがそう言うと、きびきびとレジスタンスの皆が準備を始める。


 ナナとレアも準備をして続く。


「夜とは言え、ここからは警戒が厳重になる。静かに、灯りはつけずに進む。まず外にでたら、全員で目をつぶって、暗闇に目を慣らすぞ」

 

 アジトを出て攻撃隊は、全員目を瞑っている。


 夜目の利く魔女二人は、そのまま帝城の方角を見つめていた。


「よし出発だ」


 全員が無言で、進んでいく。

 

 途中、歩哨の接近を風で知ると、ナナがゲハルトに身振りで知らせる。

 

 帝国兵を避けながら、一同はやっと、地下水路の入り口にたどりついた。

 

 何度も削ってつくったらしき、入り口を身体を小さくしてくぐると、そこには薄青い光に包まれた通路があった。暗めではあるが、王国で入った遺跡に似た灯りだ……ナナはそう思った。


 そこは風のとどかぬ、遺跡と同質の何かだった。

 

 レジスタンスとナナとレアは地図を見ながら進んでいく。幸い薄明かりで視界には苦労しない。


「絶対に道を外れるな、あちこちにまだ生きている遺跡の異物がある。」

 

 しばらく進むと、地図で赤い矢印と青い矢印に分かれている通路にやってきた。


「ここで、お別れだ。探している人に、出会えるよう願っているよ」

 

「ありがとう、レアさんナナさん」 


 ゲハルトとヴェルンに見送られて、ナナとレアは、青い矢印に従って、地図の通りに進んでいく。


 そして地図上、青い矢印の終点に来た。上に上がれるはしごがついているが、ナナたちの目的地は、もっと奥のはずだ。

 

「何があってもいいように、そろそろ魔女の正装に着替えない?」

 

 とレアがにっこりとナナに笑いかける。

 

「着飾って行きましょうか、お城だしね、招かれざる客だけど、舞踏会に参加できるかしら?」

 

 ナナもレアに、笑顔で口のはしを歪めた。

 

「いくわよ」

 

「いこう」


 二人は同時にペンダントを外すと、そのまま魔力を集中する。


 そこには翠の光り輝く鎧に身を包んだ、風の魔女と、深紅の燃えるような炎に煌めく鎧に身を包んだ、炎の魔女が、並んでいた。

 

 翠の光が風のようにナナの身体のまわりを奔り、赤い光が炎のように揺らめいて、レアの身体が燃えているかのように見える。

 

 帝城に、炎の旋風が巻き起ころうとしていた——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る