第24話 主人公の代わりに死ぬかもしれない人
時が止まったかのような錯覚に陥る。
遠くの窓から差し込んでいる夕日が、雪海の顔に影を落としていた。
「な、なーに言ってるんですかー?」
努めて明るい声を出そうとした。
しかし、変に意識し過ぎて声が上擦る。
「簡単な話よ。身内で犯罪集団とトラブルが起こったから、それらに少し制裁を加えようとする話があるの。その中の一役を、貴方に買って出て貰えないかと思った次第よ」
「……」
別に、言われなくても知っている話だ。
”身内”っていうのは自分の話だろうし、”トラブル”が指すのは去年起きた集団暴行事件だろう。
雪海が裏でそいつらを殺そうとしているのはゲームの知識で知っているし、この提案が何を意味するかも理解できる。
しかし、だ。
何故俺にそんな提案をしてきたんだ?
原作では本来、主人公である須賀暁斗に向かうべき話である。
暁斗はこの問題をきっかけに、復讐なんて辞めろと正論を振りかざして雪海を立ち直らせるのだ。
それが今、俺に向いてしまっている。
今日暁斗と知り合わなかったからか。
それとも俺と先に関係が出来たせいで、はなから復讐に巻き込むターゲットを俺に定めていたのか。
果たして真相はどちらだろうか。
まぁこの際、それは大した問題ではないのだが。
原作でのこの先の流れはこうだ。
雪海に復讐を持ち掛けられた暁斗は、その場で断るか乗るかの二択を迫られる。
その場で断れば彼女の好感度が稼げるが、ここで乗ってしまうと、『……本気で考えてるの?』と逆に問い詰められて、バッドエンドに直通する。
要するに、彼女を立ち直らせるためにはここは断らなければならない。
ちなみに断ったら断ったで、今度は金をチラつかせて乗せようとしてくる意味不明な展開が控えているのだが、まぁそれは良い。
相手が俺であろうが暁斗であろうが、恐らく最適解は変わらないだろう。
バッドエンドに向かわれるのは困るため、ここは断るしかない。
そもそも、俺としても危ない作戦には乗りたくないからな。
「冗談じゃないですよ。そんな怪しい作戦に誰が乗るんですか」
強めに否定すると、雪海はガッカリしたように眉を落とす。
「大体、消すって……ぼかしてるけど手を汚すって事ですよね? 嫌ですよそんなの。俺の生死も約束されないし」
万が一ここで俺が乗った場合、原作とは異なる展開になるわけで。
原作では暁斗だったから雪海は止めただけで、巻き込み対象が俺の世界線だと、こっちは本当に犯人集団と戦わされるかもしれない。
それがなくても関係しているのは七ヶ条グループだ。
俺がしくじったら、口封じに殺される可能性もある。
死なないためにこうして奔走しているというのに、自ら関係ない所で命を危険に晒してどうするというのか。
「理解しているようだからはっきり言うけれど、貴方はただの囮よ。実際に手を下す必要はないわ」
「犯罪の片棒を担ぐって意味じゃ同じじゃないですか」
殺人はどんな理由があれ、許されることではない。
勿論、どんなに気に入らない相手でも、襲って性的暴行を加えようとするのは論外だがな。
トゥルー世界線の暁斗と同様、雪海の提案を真っ向から断った俺。
ここから先は、金をチラつかせる例の展開に入るはずだ。
それも断れば、とりあえず初日の雪海の確定闇堕ちフラグは折れる。
なんて思っていると。
「……ふふっ、そうですか。まぁいいです」
「へ?」
随分あっさりな引き際に、つい目を丸くしてしまった。
てっきり一度は食い下がられると思っていたため、拍子抜けである。
「危険な役割には変わりないですからね。貴方のような一般庶民には荷が重いでしょう」
「……そうっすね」
やはりどこか馬鹿にされているが、原作とは異なる反応に俺は驚きを隠せなかった。
俺としては物分かりが早くて助かるのだが、もうワンプッシュしなくて良いのだろうか。
雪海が何を考えているのか、正直わかりかねる。
一応は後輩として、情を持ってくれているのかもしれない。
と、そこで雪海は茶目っ気たっぷりに笑いかけてきた。
「まぁ私としては、生意気な後輩が痛い目を見るという展開も、それはそれで見たかったのですけれど」
「おい。それじゃ囮じゃなくて捨て駒だろ。さっきと話が違うじゃないか」
「あら? そうでしたっけ? 意外と賢いのですね」
「……」
コイツ、前の事をまだ根に持っているのか?
暗に『死ねばよかったのに(笑)』と言われたようなもので、感情が乱高下する。
一瞬でも優しいな……とか思った俺の感動を返してくれ。
「というか、ため口は辞めていただけます?」
「じゃあそれ相応の発言を頼みますよ、先輩」
「……相変わらず憎たらしい後輩ね」
売り言葉に買い言葉。
言い返した俺に、雪海は顔を顰めつつ、口端に楽し気な笑みを張り付けるのであった。
―◇―
【七ヶ条雪海】
暁斗への好感度:――
響太への好感度:40%(↑)
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