ep.2 地べたの赤髪少女

「で、おにーさん。立ち止まってるってことはさ、そういうことだよね?」

「……そういうこと?」

「ご飯おごってよー。慰めてあげるからさ。美少女といっしょにお茶しようよー」

「………」


 残業帰りのサラリーマン、種木はあたりを見まわした。


 新宿のとある路地。

 道端に立った、あるいは座った、かわいい身なりの女性たち。

 なぜかみな決まったポーズのようにスマホに目を落とし、その場から動こうとしない。


 ……前に、そういう動画がおすすめに流れてきたこともある。


 彼らが何を待っているのか、漠然とではあるが、種木もある程度は知っていた。


「どーする? とりあえずお茶五ー?」

「ようわからんけど、金に困ってるならまっとうなところにあたった方がいいと思うぞ」

「えー。だっておにーさん、マトモそうじゃん。メガネかけてるし」

「マトモの条件ゆるすぎんだろ……」


 大丈夫なのか、この子……。

 種木がため息をつくと、赤い髪の地雷少女はぴょんと立ち上がって。


「でっ、どーする? なに食べにいくー? アタシお腹ぺこぺこでさ。朝からカフェのサンドイッチしか食べてなくてー。もームリ」


 なんか、勝手に話をすすめてきた。


「あーでも、焼肉と寿司以外がいいなー。連れてかれるとこ、だいたい肉かお寿司ばっかりでさー。食べ飽きちゃったよ。しばらく見たくもないかも」


 多分、これ以上関わっているとロクなことにならない気がする。

 しょうがねぇから3千円くらい渡して行ってしまおう、なんて、思っていたら。



「テメぇ見つけたぞぉ赤髪女ァァァ!!!」


「げっ、やっべ」


 ドスのきいた怒鳴り声が響いて、種木はびくっと身を震わせた。

 見ると、グラサンをかけた強面のオッサンが、ものすごい勢いで走ってきている。

 地雷少女、それを見てボソリ。


「うわー、あのハゲ。まだアタシのこと探してたんだ。キモ」


「……ッ! 聞こえとるぞボケ!! だれがハゲ頭じゃっ、こちとらスキンヘッド言うとるやろがぁぁぁッ!!」


 ???えっえっ、なにこの状況???


 目の前には、めんどくさそうに髪をいじる口悪女。そして背後からは、少女の言葉にさらに激昂したらしいハゲ──ではなく、猪のごとく突進してくるスキンヘッド。


 その両者に挟まれ、わけもわからず立ちすくむ哀れな種木のかたわらで、ニンマリ。


 「いーこと思いついちった♪」


 赤い髪の美少女は、天使のようにあどけないその顔立ちに、極上の笑みをうかべた。


 ……あるいはそれは、爆弾をかかえた悪魔のほほ笑みだった。


「きゃあああ! 助けてぇぇぇ!!」

「……ッ?」


 ぎゅっ。


 種木の腕に、華奢でやわらかな少女のカラダが絡まって──


「助けてメガネのおにーさん! 怖いオッサンに襲われちゃーーう!!」

「えっ」

「……テメッ、そこのお前もグルか? あァん??」

「えっ、えっ?」


 迫り来るスキンヘッド。

 しかし今や明らかに種木のことを睨み、標的とさだめていて。


「オイコラそこのクソメガネッ!! ケジメつけたろがこのクソボケがぁぁぁ!!!」


「えっ、えっ、えっ?」


「キャーー! 逃っげろー!」と地雷女子。


「えええええええええ???!!!」

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