3.呼ぶ声〜1〜
学校に着いて、あかりは図書室へ向かった。
図書委員の朝の仕事は、返却された本を元の場所に戻すこと。地味だけど、あかりは嫌いじゃなかった。本と触れ合える時間は、いつも心地よい。
「おはよう、結城さん」
声をかけてきたのは、同じ図書委員の雪村悟だった。
銀髪に紫の瞳を持つ、中性的な美しさを持つ少年。同じ2年生だが、クラスは違う。いつも物静かで、休み時間も一人で本を読んでいる。でも、図書委員の仕事は真面目にこなす。
「おはよう、雪村くん」
「今日は早いね」悟は本を棚に戻しながら言った。
「うん、ちょっと早く来ちゃった」
「そう…」
悟はそれ以上何も言わなかった。いつもそうだ。必要最低限のことしか話さない。でも、不快感はない。むしろ、その静けさが心地よかった。
二人で黙々と本を整理していると、図書室の扉が勢いよく開いた。
「おはよー!あかり!」
明るい声。幼馴染の横田寛だった。
茶髪にオレンジの瞳。いつも笑顔で、クラスのムードメーカー。小学校からの幼馴染で、あかりのことを「相棒」と呼ぶ。
「寛、うるさいよ。ここ図書室」
「おっと、悪い悪い」寛は声を落とした。「今日の放課後、一緒に帰れるか?」
「うん、大丈夫だよ」
「やった!じゃあ、また後でな!」
寛は元気よく図書室を出て行った。
悟がポツリと呟いた。
「…仲がいいんだね」
「幼馴染だからね」
「幼馴染…いいな」悟は少し寂しそうに笑った。
その時、校内放送が流れた。
『生徒会長の瀬野道都より、全校生徒にお知らせします』
冷たく、でも凛とした声。
『本日放課後、旧校舎への立ち入りを禁止します。理由は施設点検のためです。違反者には、生徒会規則に基づき処分を行います』
放送が終わった。
「旧校舎?」あかりは呟いた。
昨日、あの鍵を拾った場所。
何か関係があるのだろうか?
悟があかりを見ていた。
「…結城さん、何か知ってる?」
「え?」
「いや…なんとなく、君が関係してるような気がして」
「そんなことないよ」
でも、ポケットの中の鍵が、また温かくなっていた。
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