聖女である妹に【悪役令嬢】と罵られたので、悪役令嬢らしく振る舞ってみることにします

久遠れん

聖女である妹に【悪役令嬢】と罵られたので、悪役令嬢らしく振る舞ってみることにします

 可愛い妹だった。

 ふわふわしていて、抱きしめるときゃあと笑う。


 本当に可愛い妹だったのに。

 どうして、こんな風になってしまったの?


「悪役令嬢は悪役令嬢らしくしていなさいよ! あたしの邪魔をしないで!!」


 ある日突然、妹は豹変した。


 『自分は未来を見通せる聖女』であると言い出して、それだけでも心配だったのに、私のことを『悪役令嬢』と呼んだ。


「ホント最っ悪! 聖女になれたのはまだしも、悪役令嬢の妹なんて!」


 それが、妹「だったはず」の存在の口癖だった。


 両親も最初は戸惑っていたのに、妹の『預言』が当たる度に態度は変わっていった。

 妹が教会から『聖女』の称号を正式に賜った際には、我が家から聖女を輩出できた、そういって喜んだ。


 可愛い可愛い、私の妹はどこにいったの?

 私が嘆いても事態は止まるどころか悪化する一方。


 ある日、私は両親に呼び出された。


 応接室には父と母と、私の婚約者のオリヴァー様と、なぜかオリヴァー様にしなだれかかるようにしている変わり果てた妹がいて。


 嫌な予感がした。


 冷や汗が背筋を滑り落ちた。オリヴァー様は私を一瞥もしない。ずっとイザベラのことを愛おしそうな優しいまなざしで見ている。


 オリヴァー様とは私が五歳の頃からの婚約者だ。私が伯爵令嬢で、オリヴァー様が侯爵令息。

 私たちは同い年で家同士の格もおおよそつり合いが取れているから、と両家の合意での婚約だった。


 婚約自体には私たちの意思はない。それでも、十六になる今日まで、そこそこ仲良くやってきた。

 そう思っていたのは私だけだったのだろう。


 震える喉からどうにか言葉を絞り出して「どうされたのですか……?」と尋ねた私に、両親は気味が悪いほどにこにこと笑顔で笑って、こういった。


「イザベラがオリヴァー殿と結婚したいというんだ。オフェリアはお姉様だから、我慢できるね?」


 吐き気がした。

 物のように扱われていることも、それを「お姉様だから」で我慢させようとしている両親も。


 その言葉に、嬉しそうに笑っているオリヴァー様も。

 得意げにしているイザベラ――妹にも。


 みんなみんな、吐き気がした。

 私の中で、なにかの糸がぷっつりと切れた音がした。


 だから、私は。

 綺麗に微笑んでみせた。


「はい。構いません」


 泣いてやるものか。絶対に。泣いてなんかやらない。


 可愛かった妹はもうどこにもいない。ここにいるのは私の婚約者を奪った聖女であり、私を『悪役令嬢』呼ばわりする悪女だ。


 ならば、私だってそれ相応の手段を講じるまで。

 だって私は。


(悪役令嬢なのでしょう?)


 心の中で吐き捨てて、私は笑顔のまま応接室を退出した。




▽▲▽▲▽




 とはいえ『悪役令嬢』とはなんだろう。


 『悪役』とついているのだから、それらしく振る舞えばいいのだろう。

 では『悪役』は何をする人だろうか。

 イザベラにとっての『悪役』それはきっと。


(あの子がやった不正の数々を暴く人、かしら)


 私とイザベラは共に王都の魔法学院の生徒だ。

 貴族の為に作られた学院で、イザベラは私の一つ下だ。


 イザベラの不正を暴こうとするのなら、同学年の生徒に色々と話を聞いたほうがいい。

 そう判断して、私はイザベラの同級生たちに話を聞いて回ったのだけれど。


「……イザベラが一枚上手かしら……」


 はぁ、と廊下を歩きながら私はため息を吐きだした。

 イザベラの同級生の女子生徒を中心に話を聞こうとしたのだけれど、ほとんどの女子生徒に避けられてしまった。


 漏れ聞こえる噂話を集めたところ「オフェリア様はイザベラ様を虐めている」というのだ。

 ここまで直接的に言われたわけではないけれど、話を統括するとそういう意味になる。


 私が実家でイザベラを虐めている、いびっている、罵倒している、手を上げている。

 そんな噂が真実かのようにささやかれているのだ。


「オフェリア様だわ……別学年にきてまで、イザベラ様を虐めようとしているのかしら」

「可愛そうなイザベラ様。あんな方がお姉様だなんて」

「しっ、聞こえたら私たちまで虐められるわ!」


 人の悪口は楽しいものだ。

 どこか楽しげに私の悪口を聞こえるように口にする令嬢たちに私は心の中でため息を吐きだした。


(確り聞こえているわ……なんだか、八方塞がりな気がするわね)


 父も母もイザベラの味方、婚約者は奪われて、最近は友達にすら遠巻きにされている。

 ずっと遠巻きにされている理由が分からなかったけれど、恐らく私が聖女であるイザベラに嫉妬して虐めている、という噂が元なのだろう。


 でも、一つだけ有力と思われる情報も手に入った。

 イザベラは自分が未来を見通せるのは『げぇむちしきのおかげ』だと口にしているらしいのだ。

 『げぇむちしき』とはなんなのか、この辺りを探れば、まだ打開策は見つかりそうな気がする。


 この程度でめげてはいられない。

 イザベラ曰く私は『悪役令嬢』だから不遇で当たり前、らしいけれど。

 『聖女』であるイザベラは優遇されて当然、というけれど。


 そんな事実、到底受け入れられないから。

 たとえ、父と母に婚約者、学友たちに見捨てられても。


 私は折れるつもりはない。

 長年隠していたけれど、負けん気の強さは人一倍だと自負している。


(でも、げぇむちしき、ってなにかしら……?)


 これさえわかればイザベラの嘘を暴けると思うのだけれど。

 考えながら廊下を抜けて学院の庭園へと足を運んだ私は、そこで聞こえてきた金切声にびくりと体を竦めた。


「~~!!」


 噴水のある方角だ。そっと足音を殺して近づくと、イザベラが顔を真っ赤にして男子生徒に言い寄っている。


(何を言っているの……?)


「――から! 貴方はゲームの攻略キャラなんだから、私の恋人になるべきなの!!」

「訳がわからないな。それに君は先日、姉のオフェリア嬢の婚約者を寝取ったと聞いたが?」

「寝取る?! そんなことしてないわ! あいつが勝手にあたしに惚れただけよ!!」

「話にならない」


 声は聞こえたけれど、話の内容がよく理解でいない。

 ただ『げーむのこうりゃくきゃら』というワードは多分大事なものだろう。


 女子生徒から聞いた『げぇむちしき』と響きが似通っているから。

 男子生徒がイザベラの癇癪に嫌気がさしたのか、イザベラから離れて私のほうへやってくる。


 立ち去らなきゃ、と思ったのに、ばち、と目があってしまった。

 物陰に隠れている私を見つめる赤い瞳と視線が絡んで、男子生徒――公爵令息のルーカス様と視線が合う。


 一つ瞬きをしたルーカス様はなぜか少し楽しげに笑って、すれ違いざまに私の手首を掴んだ。


「声は出すな、気づかれる」

「っ」


 驚いて咄嗟に声を上げそうになったけれど、ルーカス様の言う通りイザベラに気づかれたら面倒だ。

 私はこくんと一つ頷いて、少しだけ歩く速度を落としたルーカス様についていくことにした。






 ルーカス様は図書館の人気の少ない奥に入っていった。

 私は手首を掴まれたままだから、大人しくついていくしかない。


 ややおいて、本当に人のいない区画で足を止めたルーカス様はやっと私の手首を掴んでいた手を放してくれた。


「君、イザベラとかいう偽聖女の姉だろう?」

「……ルーカス様はどうして妹が偽の聖女だと思うのですか?」

「ふん。そんなの見ていれば分かる」


 私の慎重な問いかけを鼻で笑ったルーカス様は、ひときわ大きなため息を吐きだした。


「少し前から付きまとわれて迷惑をしている。どうにかならないのか、アレは」

「私にはどうにも。両親も学友も妹の味方ですし。私の話を聞いてくれる人なんていません」


 自嘲気味に困ったように私が笑うと、赤い瞳がじいっと私を見つめる。

 心の中を見透かすような、冷たい瞳。


「だが、裏で色々と探っているんだろう?」

「お耳が早いですね。そんなに派手に動いていたつもりはないのですが」

「女子生徒は口が軽い」


 それはまあ、確かにその通りだろうけれど。

 私は浅く息を吐き出して、ルーカス様に向き直る。


「先ほどの会話の意味を教えていただけませんか?」

「意味?」

「『げーむのこうりゃくきゃら』の意味です」

「ああ、あの妄言か」


 ルーカス様は苛立ちを紛らわせるように髪をかきあげた。

 鋭い眼光で私から少し離れた場所を睨む。私を睨んで怯えないように配慮してくれているのだろう。


「少し前からアレが口にしている妄想の一つだ。ここは『ゲームの世界』で自分は『ヒロイン』で『悪役令嬢の姉』から『攻略キャラを救う』のだ、と」

「はぁ……?」


 どうしよう、説明してもらったのに全然意味が分からない。

 なんとも形容に困る気持ちで私が頬に手を当てると、ルーカス様はふはっと笑いだした。


「姉も同族だったらどうしたものかと思っていたが、困惑した表情を見る限り違うようだ。なぁ、君もアレは目障りなんだろう?」

「まぁ、そうですね」

「では、一つ手を組まないか?」


 にぃと悪い顔で笑うルーカス様の言葉に、私は小さく目を見開いて。

 そして、意識的に、きっと『悪役令嬢』が浮かべそうな笑みを表情に乗せた。口角を上げて、悪い笑みを意識して作る。


「ええ、喜んで」


 そうして、私たちは協力関係となった。




▽▲▽▲▽




 念入りにルーカス様と打ち合わせをして、準備万端で迎えたのは学院で開かれる年に一度のパーティー。


 貴族の令息が令嬢をエスコートする練習を、という名目で開かれるパーティー会場に、イザベラはオリヴァー様にエスコートされて入場してきた。


 侯爵令息であるオリヴァー様は、学院でもそこそこ地位が高い。今の学院でオリヴァー様より貴族として地位が上なのは、公爵令息であるルーカス様くらいなので。


 そして、当のルーカス様は手ひどくイザベラを振っている。

 結果、イザベラはオリヴァー様のエスコートで入場するのが一番地位を見せつけられると考えたのだろう。


 まぁ、表向きは二人は婚約者同士でもあるし、自然な成り行きではある。

 二人の入場を確認して、私はルーカス様の腕に沿える手に無意識に力を込めた。


「落ち着け、大丈夫だ」

「はい」


 小さく笑みを向けてくれたルーカス様に、私も微笑む。

 ルーカス様と立てた作戦はいたってシンプル。


 学院の生徒全員が集まる夜会の会場で、イザベラの悪事を白日の下に晒す。

 たったそれだけ。


 たったそれだけのために、私たちはイザベラの悪事を知る仲間になってくれそうな女子生徒とのコネクションをたくさん作った。


 イザベラが流した嘘に惑わされず、状況を冷静に俯瞰できる優秀な女子生徒を選んで声をかけた。

 私たちが引き込もうと声をかけたほとんどの女子生徒はイザベラの振る舞いに辟易としていて、喜んで私たちの味方になってくれた。


 中立を保ちたい、という女子生徒たちを無理に巻き込むことはせず、噂に惑わされる愚かな女子生徒は捨て置いて、状況を分析できる優秀な人材のほか、婚約者に色目を使われたと憤る女子生徒にも声をかけていったのだ。


 その結果、私たちの味方となった女子生徒は優に二ケタを超えて、三桁に届きそうなレベルだ。

 魔法学院の生徒が多いとはいえ、いくらなんでも数が多い。今ではイザベラの味方をする女子生徒の方が少数派だろう。


 まったくイザベラはどこまで男子生徒に見境がないのか。呆れて言葉もない。

 でもそのおかげで、学園の勢力図は私たちに傾いている。感謝するべきかもしれない。


「いくぞ」

「はい、ルーカス様」


 公爵であるルーカス様とそのパートナーの私の入場は最後だ。

 きっとイザベラは自分を振ったルーカス様が私をエスコートしていたら、それだけで怒るのだろう。


 そう思えば、少しだけ胸のすく思いだ。

 イザベラが変わってしまってから散々振り回された。


 婚約者のオリヴァー様を奪われただけではなく、学院では悪評まで流されて友人が減った。まぁ、噂に振り回されて私を見捨てる人を選別できたともいえるから、それは別に構わないのだけれど。


 不満や不服は溢れるほどにある。だから、今日の私は『悪役令嬢』として、イザベラを断罪する。






 ルーカス様と一緒にパーティー会場に入場した私に、やっぱりイザベラは眉を吊り上げていた。


「なんで! アンタが! ルーカス様と一緒なの?!」


 態度だけではなく、言葉遣いも下品極まりない。

 私はため息を吐きだしたい気持ちを抑えて、にこりと微笑む。


「あら、教えていなかったかしら。私、ルーカス様と婚約をしたのよ」


 これは本当。ルーカス様の方から提案されたときは心底驚いたけれど。

 ルーカス様に「在学中に婚約者を決めなければならなかったんだが、アレに付きまとわれていたせいでほとんどの女子生徒に避けられて話にならん。君さえよければ、少しの間婚約者として振る舞ってくれないか」といわれたのだ。


 結婚までする必要はないから、と前置きもされている。

 端的に言えば、利害の一致だ。私はイザベラを見返したかった。それには侯爵令息より上の公爵令息であるルーカス様との婚姻は最適だったから。


 ルーカス様との婚約が白紙になったら、それはその時考えようと未来の自分に全てを丸投げして、私はイザベラを挑発するために全てを賭けることにしたのだ。


「そんなのありえない! あたしが聖女でヒロインで! アンタは悪役令嬢なの!!」


 またこれだ。

 なにかに困れば『聖女』『ヒロイン』『悪役令嬢』と持ち出してくる。


 本当にイザベラの頭はどうなっているのか。呆れを通り越して心配になってしまう。

 私は内心を押し隠して、にこにこと笑う。イザベラが怒るように仕向ける。


「何を言っているのかわからないけれど……。オリヴァー様とは仲良くしているの? 最近色んな男子生徒に声をかけているそうだけれど」

「なっ! 本当か、イザベラ!」

「やだぁ! あたしがそんなことするはずがないじゃないですかぁ! オリヴァー様はあたしよりオフェリアの言うことを信じるんですかぁ?」


 耳障りな猫なで声でイザベラがオリヴァーの機嫌を取ろうとする。でも、そんな隙は与えない。


「カミル様、サムエル様、グスタフ様、ベルナルト様、ハヴェル様……その他たくさんの方が、貴方に誘われたと仰っていましたよ、イザベラ」

「余計な事いわないで!!」


 ふんわりと微笑んで言葉の剣で刺した私に、イザベラが慌てた様子で口を開いたけれど、その言葉はあまりにバカだとしか言いようがない。


「余計な事? 嘘ではないのか?!」

「や、やだ~! オリヴァー様! 言葉の綾です!!」


 イザベラを問い詰めようとするオリヴァーに、取り繕う言葉も浅さが透けて見える。

 私は浅く息を吐き出して、他の問題も口にした。


「イザベラ、貴方が勉学から逃げていることも知っていてよ。取り巻きの男子生徒に、ノートを丸写しさせているそうね? 先生からノートをみせてもらったけれど、貴女の字ではなかったわ」

「う、うるさいわね! あたしは聖女なんだから、勉強なんてどうでもいいの!!」


 顔を真っ赤にして怒る姿は、前に図鑑で見たお猿さんみたい。あら、これではお猿さんに失礼かもしれないわ。


「聖女というのも『ゲーム知識』らしいわね。では、その『ゲーム知識』は何年先まで見通せるのかしら?」


 にこりと微笑んだ私の言葉に、場がざわつく。


「げーむちしき? なんだそれは」

「聖女なのに、未来を見通すのに制限があるのか?」

「それは聖女としてどうなのかしら」


 ざわつく生徒たちの声を聞きながら、私は内心で笑みを深めた。

 色々な生徒からの証言を得て『ゲーム知識』とやらが万能ではないことは知っている。


 私とルーカス様の予想では、恐らく学院の在学中の出来事しか予知できない。

 そもそも、学院の在学中の出来事だって、予知できているか怪しい。


 だって、すでにイザベラがいう『オフェリアが悪役令嬢』という預言が外れているのだから。


「うるさいうるさいうるさい!! アンタは黙ってなさいよ! 悪役令嬢!!」

「その『悪役令嬢』というものがいまいちわからないのですけれど……そうですね、私が『悪役令嬢』だというのなら、こういうのはどうですか? ルーカス様」

「ああ。イザベラ・エーベルト。君を国家転覆罪で捕らえるものとする!」


 パーティー会場の外に待機させていた騎士たちが一気にパーティー会場になだれ込んで、イザベラとオリヴァー様を取り囲む。


「な、なんだこれは?!」

「どういうこと?! なんでこんな酷いことするの! ルーカス!!」


 取り乱す二人に対して、ルーカス様はどこまでも冷静だ。


「君に呼び捨てにされるのは気に入らないな。だが、あえて説明するとすれば、イザベラ、君が隣国の王太子にこの国の情報を流しているからだ」

「なっ?!」


 オリヴァー様が信じられない、という瞳でイザベラを見る。イザベラは事の深刻さがわかっていないのか、ぷうと頬を膨らませた。


「だって彼は攻略キャラだもの! 情報で好感度を上げなくちゃ!」


(『これ』は何を言っているの……?)


 私は言葉の通じない魔物を見る眼差しを実の妹に向けてしまう。

 情報は力だ。


 それも、伯爵家の令嬢で、侯爵子息の婚約者で、学院で色んな男子生徒を侍らせているイザベラはかなりの情報を持っているはずで、それを他国の王太子に売るなど、国を売るに等しい行為だというのに。


 悪気がないとでもいうのか。

 それともこれすらイザベラにとっては『当然の権利』なのか。


 流石に唖然としてしまった私の前で、騎士たちが殺気立つ。

 国に忠誠を誓う騎士にとって、国の情報を売る裏切り者など、この場で殺したくて仕方ないだろう。


「イザベラ……君は一体……」


 さすがのオリヴァー様も目が覚めた様子で、イザベラの手を振り払ってふらふらと離れた。

 イザベラがまだ状況が理解できていない様子でオリヴァー様に手を伸ばす。


「どうして離れるんですか? 守ってください!! あたしはヒロインなの!」


 きっと、それがオリヴァー様にとってのトドメとなったのだろう。

 オリヴァー様はその場にうずくまるようにして、イザベラは私には意味の分からない言葉を並べながら騎士に連れていかれた。




▽▲▽▲▽




 波乱のパーティーが終わって、私とルーカス様は事態を重く見た国王様からの直々に呼び出されて事情を聞かれた。


 私は素直にイザベラが豹変してから集めた情報を全て話した。言い寄られていたルーカス様もイザベラの可笑しな言動を全て報告して、私たちはお咎めもなく解放された。


 オリヴァー様はイザベラにずいぶんと入れ込んで、あれこれと国の重要な話をしていたらしく、国外に情報を流したイザベラと連帯責任で処罰されるらしい。


 私は未練もなにもないけれど、少しだけ可哀そうだな、とは思った。助けてあげる気は欠片もないけれど。


 それと、イザベラの暴走を黙認していた両親にも処罰は下るらしい。正直、いい気味である。


「なぁ、オフェリア」

「なんですか、ルーカス様」


 事情聴取が終わって学院に戻った私はルーカス様のお屋敷にお邪魔していた。

 なぜかルーカス様のご両親にご挨拶をして、応接室でもてなされている。


 私の家はきっと没落するし、ルーカス様との協力関係も終わったはずだ。なのに、この待遇の良さ。

 なんだか少し、怖い。


「俺たちの婚約だが、このままにしないか?」

「ええっと、それはどういう……?」

「結婚しよう」


 真っ直ぐに瞳を見据えて言われた言葉に、心臓が跳ねた。

 はく、と口を動かす者の、声が出ない。驚きすぎて、頭が考えることを拒絶している。

 私の前でルーカス様は照れくさそうに笑っていた。


「最初はその気はなかったんだが、イザベラを追い詰める君をみていたら、なんだかときめいてしまって」


 それは、なんというか。

 とても、趣味が悪いですね……?


「でも、私『悪役令嬢』ですよ?」


 イザベラの妄言だけれど、あの日イザベラを追い詰めた時、私は確かに『悪役』だったかもしれないから。

 慎重に問いかけた私に、ルーカス様は楽しげに笑う。


「むしろ、それくらいのほうがいい」

「でも、家は没落するの確定してますよ」

「俺の家に嫁に入るのだから関係ないな」

「ええと」

「オフェリア」


 言い訳を探して視線をさ迷わせる私に、逃がさない、と燃えるような赤い瞳が告げている。

 どくん、とまた跳ねた心臓を自覚しながら、私は逃げることできず、ルーカス様の言葉を待った。


「君がいい。俺の伴侶となってくれ」

「……」

「オフェリア?」


 ぽろ、と涙が零れ落ちた。

 嬉しかった。そう、きっと私は嬉しいのだ。


 ぽろぽろ。

 涙がこぼれて止まない。ルーカス様が困ったように眉を寄せている。でも、言葉は撤回されない。


 それ、なら。


「わ、私でよければ……っ! 喜んでっ」


 一度は全てを奪われた。

 父と母の愛、婚約者の愛。

 それでも、最後に手に入れるのが。


「君じゃないとダメなんだ、オフェリア」


 こんな風に包み込むような愛ならば。

 私は、きっと。

 『悪役令嬢』に、なってよかった。心から、そう思える。




◤ ̄ ̄ ̄ ̄◥

 あとがき

◣____◢



『ニセモノに立場を奪われた追放聖女、隣国で王太子に溺愛される 』はいかがだったでしょうか?


面白い!  と思っていただけた方は、ぜひとも

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短編をコンスタントに更新していく予定ですので、ぜひ「作者フォロー」をして、新作をお待ちください~!!!


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聖女である妹に【悪役令嬢】と罵られたので、悪役令嬢らしく振る舞ってみることにします 久遠れん @kudou1206

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