俺は【損得勘定】で動く孟達~だけど面倒くさい関羽を見捨てない~

信仙夜祭

第1話

「なに? 関羽将軍が、呉軍の備えとして配備した軍を北上させただと?」


「はっ! 新しい都督の陸遜なる者は、軍紀を乱しているとのこと。警戒するに値せずとの判断です」


「誰? そんなのが偏将軍右都督?」


 怪しくない?

 まあ、荊州刺史がそう判断したなら、そうなんだろう。

 俺のいる上庸の地は、西の外れにある。

 同じ荊州でも東の情勢など関係ないよね。


「のう……孟達もうたつ殿。大丈夫なんだろうか?」


 聞かれたので、そちらを向く。

 劉封りゅうほうだった。事実上の上庸地方の統治者だ。

 軍楽隊を没収されてから、俺とは関係がよろしくないんだよね。


「大丈夫でしょう。それよりも、軍事物資ですね。無理難題を言ってきそうだから、前もって揃えましょうよ」


 関羽将軍の癇癪かんしゃくは、有名だ。

 気性が激しい。


 劉封は、正直前線の人だ。知略に乏しい。

 内政面は、俺が支えている状況だし。


 申耽・申儀兄弟も降伏したとはいえ、不満を持っているのを知っている。

 魏軍と手紙のやり取りしてるし。


(このまま行くとかなり危ないな~。今の上庸は、内憂外患だ。身の振り方を考えておくか)


 心労が絶えないよ……。劉備将軍に益州をとらせたけど、その後の俺って不遇じゃね?

 法正は、中央で活躍していると聞いてんだけど……。

 頭痛が酷かったので、早めに寝ることにした。



 起きているのか、寝ているのか……。

 まどろみの中で、何かを思い出して来た。


「正史三国志……。三国志演義……。シミュレーションゲーム?」


 苦しみの中、私の前世の知識が、少しだけ蘇った夜だった。



 朝起きて、確認する。


「俺、孟達なんだよな。【損得勘定】で動くって言われて、三回も裏切りを繰り返す……。ヤバくね?」


 この後に、襄陽を呉軍に落とされてしまう。

 糜芳びほう傅士仁ふしじんも降伏して、荊州南郡も失う。


 本来の孟達は魏軍へ走り、劉封を打ち破って上庸太守になる。

 その後が問題だ。

 曹丕時代はいいんだけど、曹叡時代になると冷遇されて、不満を持つことになる。

 最後は、諸葛亮に呼応するんだけど、部下の裏切りで終わりだ。


「詰んでね?」


 蜀漢国に残っても、劉封と一緒じゃ冷遇される。こいつ、皇帝になる劉備の養子だけど、帝位には就けないし。

 魏軍に走っても、司馬懿に戦略を見抜かれて終わりだ。将来的に冷遇される。


「いや、待てよ……」


 考え方を変えよう。


「関羽将軍を助けられれば、後世の俺の評価って変わんじゃね?」


 呉軍の急襲は、まだ少しだけ猶予がある筈だ。

 襄陽の防衛は無理だとしても、被害を最小限に抑えれば、蜀漢国へのダメージも抑えられるし、荊州奪還も夢じゃない。

 夷陵の戦いの戦力をそのまま残せるのであれば──だけど。


 そう、歴史を変えられるのであれば、まだ間に合う筈だ。

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