大正を舞台とした御作は、作品全体の纏う読み易い滑らかな筆致とは裏腹に、決して軽やかではなく、地に足をつけた人生が丁寧に綴られます。
地の文とセリフ、どちらにも偏りすぎない繊細なバランス。一人ひとりの呼吸や、指先がかいた空気の流れ。それら登場人物たちの生はジッと読み進めることによって、より濃密に、より沁み入る心地で感じることができます。
大正に生きる彼らが目にした世界を、読者も鮮やかに没入しに行くことができる御作。一歩一歩を踏み締めて生きていく登場人物たちの物語。
とても素敵な御作です。一話から綴られる人間の生の無常さに、わたしたちは心を強く動かされ、きっと、静かな吐息をついてしまうことと思います。