教会のダンジョンはチート家庭菜園!?島の厄災のほのぼの冒険譚

テンユウ

プロローグ 教会のダンジョンは家庭菜園!!」

プロローグ教会のダンジョンは家庭菜園


剣の魔術世界カリブルヌス

様々な異種族が、それぞれの法に従いながら暮らす、ごく平凡な異世界――勇者も魔王も存在するが、そこに生きる人々の日々は驚くほど普通だ。


そんな平凡な世界の、とある教会から物語は始まる。


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ローマン大陸、死海地方北部。


掃きだめと呼ばれるソドム古都のはずれに、誰が祀られていたのかすら分からぬ小さな廃教会があった。

崩れた石壁と穴だらけの天井。そこを住処とし、肩を寄せ合って生きる八人の孤児たち。


人族換算で10~14歳位の集まりに見える少年、少女の物語。


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その朝、廃教会の食堂に大きく笑う声が響いた。


「フハハハ! これより恒例の儀式を始める! 皆の者、席につけ!」


角を生やした褐色肌の少年が、胸を張って宣言した。

忌み嫌われし“人族の魔族”――サタン。

この孤児院のまとめ役であり、そして自称「未来の神」。


「うむ、よろしい! 荒野の壁神ナンム・ダゴン!

我らを厄災から守りし大いなる守護に感謝を!

そして未来の神となるサタンに、それ以上の礼拝を!!」


「「ははーっ! ロング・リヴ・サタン!! ロング・リヴ・サタン!!」」


今日も廃教会はうるさいくらい元気だ。


サタンは満足げにうなずき、威厳?たっぷりにその尻尾を振りながら言った。


「よし! 俺の偉大なる教え、その1からだ!」


「わかったわよサタン。“ごはんは一日三食、好き嫌いをしないこと”よね」


少女――リリスが食器を並べながら答える。


「ダハハ、2つ!

“挨拶は忘れず、食事に感謝! 手洗いうがいも忘れるな!”」


竜族の少年が豪快に笑い、その手を合わせて祈りの姿勢を取る。


「ええ、ええ、3つ、“筋肉つけたきゃ肉を食え! 体力つけたきゃ野菜を食え!”」


少女が頑張ってサタンの口調を真似3つ目を答える。


「4つ、“よく食べ、働き、しっかり眠る!” ウム大事なことだな!!」


小柄な獣人─黄金の毛並みの狼の少年、18(人族で14)にもなるのにコボルド扱いされる事を気にするクレイオスが尻尾をバタバタと振り、スプーンを2本も構えて席に座る。


「よろしい!! 今日の朝ごはんは奮発した!」


サタンはドンと鍋を掲げる。


「小麦と乳が手に入った! よって――野菜たっぷりクリームシチューだ! 残さず食えよ!」


「「いただきまーす!」」


子供たちの歓声が廃教会いっぱいに広がる。

その香りだけで幸せになれるほど、温かく、貧しく、そして賑やかな朝だった。


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「ガハハッ! 食え食え、今日は特別だぞ!」


クレイオスはスプーンを左右の手に一本ずつ持ち、獣のような勢いで食べ始めた。


「んまっ……! あっつ……! でも、んまぁ~~い!」


黄金の尻尾が椅子ごと揺れるほどブンブン振られる。


少し離れた席で、人族の小柄な――この中だと小柄に見える――少年アダムが慎ましくシチューに口を付けた。


「ほぉ──旨い、今日のは特に」


表情は薄いが、瞳だけはしっかりと輝いた。


「乳は貴重品だからね。盗られずに運べて助かったわ」


少女――リリスが大変だったと笑顔で話す。


「なあ皆、冒険者になろうぜ」


珍しく静かにしていたサタンが口を開いた。


「なんだサタン、藪から棒に、冒険者などそのの世界の話であろうこの死海地方には無縁の話だ」


本を片手に食器を並べる少女、有翼族のヘルメスが窘める。


「ダハハ、よいでは無いか、よいでは無いか、ダンジョンのお宝など金の匂いがプンプンするではないか、何よりゴミを漁るより健全であろうよ」


孤児の一人が笑う。


「ええ、ええそうね、でもダンジョンはゴミ漁りより危険じゃない?友達が増えるのは良いことだけど、小さなお墓が増えるのは寂しいよ」


孤児の少女が悲観する。


「なら俺は勇者になる。だってこの本みたいに誰かの前を進むのが勇者って奴なら、俺はお前らの勇者になりたい」


クレイオスが犬歯を見せ交戦的に笑う。

そして食べながら本を読むなとリリスに怒られる。


「で、どうして急に冒険者なんだ?」


アダムが尋ねるとサタンはにやっと笑い、指を立てた。


「決まってるだろ。夢を叶えるには食い物がいる! 肉! 野菜! 果物!たいていの夢は食って強くなれば挑めるのだ、ああだからこそ中庭の家庭菜園――1番実りの良い今が行動のチャンスなのだ!!」


「つまり食べ物に余裕がある今何かしたいと言う事ね」


それなら納得ねと話しているその時――


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「サタン! たいへんだ!」


息を切らした孤児が食堂に飛び込んでくる。


「おやつにリンゴを取りに行ったんだけど……

なんていうか、中庭の様子が……おかしいんだ!」


言い終わる前にどさりと孤児が倒れる。


「へへへ、この下級戦士キャロット様が相手だガキども」


「クッ、油断した」


それは肩パットを付けた巨大なニンジンだった。市場で見る細長い白い根菜とは似ても似つかないオレンジ色に輝く丸々とした異形のニンジン。


一瞬そのカラフルなオレンジ色に毒の根かと逡巡するも──


「聞こえる、食材の声が、あれは食べられる」


リリスの声に子どもたちは顔を見合わせる。


「「シチューの具が自分から来やがった!!」」


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崩れた廃教会の中庭。


昨日まで普通の畑だった、はずの場所。


彼らの物語は、そこで動き出す。


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